第105話 惨状と修繕
「なんじゃこりゃ!!」
惨状を目の当たりにした優志は慌てて店へと走る。
距離が縮まると、徐々に店の詳しい状態が明らかになっていった。
店のど真ん中を貫くように突き刺さっていたのは大きな木片。綺麗に整えられたその木片は恐らく家屋に使用されていたものと推察される。
「い、一体何がどうなって――」
「ユージ!」
「ユージ殿!」
店の前で呆然と立ち尽くす優志の前に、ダズとエミリーが駆け寄って来た。ふたりは修繕をしようとしていたのか、大きな木材を抱えていた。
「ダズ! 一体何があったんだ!」
優志はこの事態の真相を知るであろうダズへと詰め寄った。
「落ち着けって……実は昨日、この近くでバカデカい生き物同士が殴り合っていたんだ」
「片方はかつて魔人討伐の際に見かけたミツルの召喚獣だと思うのだが」
「あ」
昨日の戦い。
それは間違いなく、サンドラゴラ対超大型魔人の殴り合いだ。
「あれって……ここからそう遠くない距離だったのか」
その際の戦闘で破壊された家屋の破片が、運悪く店に直撃したということらしい。
よく見ると、それを証明するかのように、周辺には同じような木片が散らばっていた。
「俺たちも今朝来た時に初めてこの状態を知ったんだ。おまえたちが戻って来るまでに少しでも修繕しようとしたんだが……材料を調達するまでに帰って来ちまうとはな」
「今、うちのパーティーのメンバーがフォーブの街へ出向いてクリフたち専属職人へ声をかけに行っている」
「そうか……ありがとう」
ダズたちはこの惨状を少しでも改善しようとしてくれていたようだ。
しばらくすると、報告を受けたクリフたちが駆けつけた。
まず確認すべきは風呂場だ。
早速、数人の職人たちが排水周りを調べ始める。
「うーん……とりあえず排水関係は大丈夫そうだな」
「運よくパイプには当たっていないな。不幸中の幸いってヤツだ」
「じゃあ、風呂自体はすぐに使えるんだな?」
「問題ないだろう。ただ、一度試してみないとな」
「どのみち今日は営業できないだろうし、これからやってみよう」
「了解。ほいじゃ早速湯を張ってみるか」
優志と職人たちは店の命であるお湯を生かす排水機能がきちんと働くかどうかチェックを開始する。
「しっかし……この調子だと露天風呂計画は一時断念しなくちゃならないな」
上質な檜の入手先が判明したのはいいが、まさかこのような事態になっていたとは夢にも思っていなかった。そのおかげで、優志が集大成として掲げていた露天檜風呂の夢は先延ばしとなった。
一方、リウィルやダズたちは巨大な木片によってポッカリと開いた店舗の穴をふさぐ作業を始めた。一度経験しているということもあるのか、冒険者組はともかくリウィルと美弦の手際もだいぶ様になってきていた。
「とりあえずこのデカい木片をどけないとな」
怪力のダズが大きな木片を店の外へと担ぎ出す。
「あれ?」
その様子を眺めていたリウィルがある事実に気づく。
「その木片……店を半壊させたわりに随分と綺麗な状態ですね」
「ああ、こいつはモブって名前の頑丈な木だからな」
「頑丈にもほどがあるんじゃないですかねぇ……」
「その頑丈さを買われているんだ。ただ、高価だから使うところは限られているがな」
「あ、名前は聞いたことありますね、それ。たしか城でも使用されていましたね」
それほどの頑丈さをもった木――もしかしたら、
「……何かに使えるかもしれませんね」
リウィルは早速その木のことを風呂場でライアンが完成させた絵に傷がないかチェック中だった優志に伝えた。
「なるほど。そんな大きくて頑丈な木が……」
「何かに使えると思いませんか?」
「ああ……使えるかもな」
優志は笑う。
まだ使い道に関してはこれといった案はないが、リウィルの言った通り、この木を廃材として処分するにはあまりにも勿体ない。
「そのままのサイズだとデカ過ぎるな。もう少しカットすれば使い道も広がるだろう」
「私もそう思います。家具にでもしますか?」
リウィルの提案――実は、優志もそれを考えていた。
しかし、どうにも心の中で何かが引っかかっている。
もっと有効に活用できそうなことがあるはずだと、しきりに本能が訴えかけているような気がしてならないのだ。
「ダンナ! 風呂の方はなんともなさそうだぜ」
悩む優志のもとへ、排水チェックをしていた職人が呼びに来た。
「この調子なら、明日にでも営業は再開できるだろうな」
「そうか。なら一安心だな。よし、今日はお礼にゆっくり浸かっていてくれ。お代は取らないからさ」
「そいつはありがたい。早速仲間たちにも知らせてくるよ」
優志からの粋な計らいに、職人は喜びながら他の者たちへ知らせに行った。
「風呂、か……っ!」
その時――天啓が閃く。
「……リウィル」
「はい?」
「もう一仕事するぞ」
「! ということは――思いついたんですね!」
「ああ……あの木の有効活用法を、な」
転んでもタダでは起き上がらない。
店を破壊した木の有効活用を思いついた優志は、早速職人たちを呼び寄せた。
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