第74話 作業開始!
ライアンの夢が現実味を帯びてきた――それを実感できた夜が明け、次の朝が静かにやってくる。
若い力に触発された優志は早朝からヤル気に満ち溢れていた。
店の開店準備を早々に整えると、職人たちを引き連れて王都へ向かい進み始めた。
城へ到着すると、すでに出迎えの者が数人優志たちの到着を待っていた。
そのまま、例の旧ダンスホールへと足を運ぶ。
「おぉ……昨日も見たが、やはり大きいな」
前日に乗り込んで下見をしていたとはいえ、職人たちはやはりここをすべて風呂に改装するのは相当な大仕事になるだろうと改めて感じていた。
だが、それだけの大仕事――国王陛下が使用する浴場の建設ともあれば、相当な額の報酬が期待できる。
その分、こちら側に仕事を専念しなければならないので、本来の仕事場を数日空けてしまうことになるのだが、それも「国王陛下が使用する浴場の建設をしていた」と理由づければむしろ箔がつくというものだ。
――と、本来なら思うところだが、この場に集まっている職人たちにはそうした利益面に関する気持ちは希薄だ。
金にも勝る名誉という報酬が、彼らの目の色を変えさせていた。
これまで、ただの街職人という肩書だった彼らが、まさか国王陛下から直接仕事をいただけるなんてというのが正直な気持ちであった。
「旦那、どこから手をつけましょうか?」
「とりあえず――」
優志はサッと図面を広げた。
図面と言っても、「こんなふうに仕上げよう」という完成図を記した簡単なものだが。
「浴場は部屋の中心に。大きくゆったりとした空間にしたいからうちにあるものよりもずっとデカいヤツを頼む」
「そういえば、例の魔鉱石はどうする?」
職人のひとりが持ってきたのはダズたちが集めて来てくれたエアーの魔鉱石。
「そいつは風呂の底面に敷き詰める予定だ」
「底面に? それで何をしようっていうんだ?」
「まあ、見ていればわかるさ。一応、うちの店で実験をしているから大丈夫なはずだ。――俺の思い描く通りの結果になるはずだ」
「わかった」
優志の指示通りに作業を始めた職人たち。
今回の改装は優志の店の規模とは段違いであるため、彼らは数日間この城で寝泊まりをすることになっている。すでに彼らの寝室の準備も優志からの達しを受けて用意はバッチリ。
しっかりとした職場の環境と目標。
そのふたつが、職人たちの魂に火をつけていた。
「さあて、取り掛かるぞ!」
職人たちは勢いよく道具を手にして作業を開始。
国王直々に「好きにやってくれ」というお墨付きをもらっていることもあり、職人たちは最初からエンジン全開だ。
「精が出ますな」
その様子を眺めていたひとりの男が優志に話しかけてきた。
男の名前はショーン。
年齢は60歳ほどで、温和な喋りと片眼鏡が印象的だ。
「ショーンさん。……もしかして、見張り役ですか?」
「いやいやまさか。あなたにはベルギウス様やガレッタ様が絶大な信頼を寄せていらっしゃる――そんな御方を疑うなどというマネはできません」
そうは言いつつも、優志の背中の向こう側で作業に没頭する職人たちの動きへ細心の注意を払っているというのがヒシヒシと伝わってくる。
ただ、それはきっと無意識から来る行動なのだと優志は分析していた。
職業病とでも言えばいいのか。
ともかく誰かの動きが常に気になっている様子だ。
「浴場を造るってことで結構な作業になってきます。――なので、多少の騒音などは発生すると思いますが」
「構いませんよ。こちらで指定した作業時間内であるなら騒音だろうと黙ってやり過ごすのがプロというものですから」
さすがの貫禄である。
「その仕事への情熱は本当に頭が下がります」
「何を仰りますか。あなた様も随分と熱心ではございませんか」
「俺が……ですか?」
ショーンにはむしろ優志の方が得意に映っているようだった。
「そうでしょうかね」
「そうでなければガレッタ様とベルギウス様が御認めになるはずがありませんからねぇ。むしろ何をどうやったらあの御二方にあそこまで気に入られるのか、コツを伝授していただきたいくらいです」
さすがにそこまで言われると返す言葉に困ってしまう。
その後も、会話は終始ショーンのペースで進む。
「さて、それではそろそろ説明願いますかな?」
「説明? なんのですか?」
「あなたが大量に持ち込んだエアーの魔鉱石の使い道ですよ。正直なところ、アレと浴場がどう結びつくのか私には皆目見当がつかないので」
首を振り、両手を上げてまさに「お手上げ」な状態のショーン。
どうせ間もなく完成するし、と優志はその狙いをショーンへと語った。
「俺が彼ら職人たちと造ろうとしているのはただの風呂ではありません。――エアーの魔鉱石を活用したジャグジー付きのお風呂です。
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