第70話 探し物はなんですか?

 次の日。


 店の開店時間前にフォーブの街を訪れた優志は、真っ直ぐと買い取り屋へと向かった。


「こんちわ」

「いらっしゃいま――あら、回復屋のご主人じゃないですか」


 買い取り屋の受付を担当している女性ともすっかり顔馴染みとなった優志。この買い取り屋だけでなく、今やフォーブの街で優志を知らぬ者はいないほどの知名度になっていた。


「実は魔鉱石を購入しに来たんだ」

「何がご入用ですか?」

「えぇっと……」


 優志は自分が望む効果が得られる魔鉱石はないかと受付の女性に語った。


「――ていう効果を持った魔鉱石ってないかな?」

「ああ……」


 受付の女性は何とも言えない渋い表情を浮かべた。視線も泳いでおり、優志を直視できていない。

 そんな様子から察するに、


「そういう効果の魔鉱石はあるけど――今店には置いていないってところか」

「! よ、よくわかりましたね」

「わかりやすい態度だったよ」

「うぐっ……」


 口をつぐんだ受付の女性は申し訳なさそうに首を垂れた。


「ごめんなさい……3日くらい前まではあったんですが、あまり売れ行きがよろしくなかったのでグラント港から来たという行商にすべて売ってしまったんです」


 グラント港――フォーブの街からそれほど遠くない位置にある港。

 魔鉱石を求めて大陸を渡って来た者たちが、このフォーブの街で魔鉱石を仕入れていったというわけらしい。


「タッチの差で逃したか」

「すみません」


 心底申し訳なさそうに謝る受付の女性――だが、同じ商売人として、彼女の判断が間違っていたとは思わない。売れる時に物を売るというのは常識中の常識だ。


「あなたのせいじゃないんだから、そこまで気に病む必要はないですよ。――それで、その魔鉱石の入手難度は?」

「高くはありません。ですから、もしかしたら今日誰かが持ち帰って来る可能性は高いと思います」

「なるほど」


 それを聞いて、優志はホッと胸を撫で下ろす。

 これがヒート並みに入手が難しく、高額な魔鉱石であったらどうしようかと心配していたのだが、どうやらそれは杞憂に終わりそうだ。


 ともかく、あとはただ座して待つだけ。

 店の仕事をしながら、朗報が届けられるのを待とうとしていた優志のもとへ、



「お? こんなとこでどうした?」



 聞き慣れた男の声がした。

 振り返ると、


「ダズ!?」

「どうしたい、こんな朝っぱらから」


 店の常連客であり、この世界における優志の大親友――冒険者ダズであった。

 ダズは冒険者としての勘が働いたのか、優志が何を求めてここへやって来たのかすぐに思いついたようだった。


「ひょっとして、何か魔鉱石を探しているのか?」

「そうなんだよ」

「ヒートか? あいつは希少だからそう易々とは手に入らないぞ? あの足湯で全部使っちまったのか?」

「そうじゃなくて、それが――」


 優志は自身が欲している魔鉱石の情報をダズへと教えた。

 するとダズはドンと自らの胸を叩き、


「それなら俺たちが採って来るさ」


 頼もしくこう告げた。


「え? で、でも、悪いよ」

「気にするなって。俺とおまえの仲じゃねぇか。ちょうど、今日潜る場所の近くにそいつを背中に生やしたモンスターがよく出没する場所がある。そこを当たってみるよ」

「あ、ありがとう、ダズ!」

「いいってことよ」


 優志はダズの行為に甘えることにした。


 とりあえず、夕方頃にダンジョンから戻って来るから夕食を優志の店で食べながら戦果報告をすると約束し、優志とダズは揃って買い取り屋をあとにしたのだった。



 ◇◇◇



 優志が店に戻って来た時にはすでに開店をしていた。

 開店時間には間に合わせると約束したがそれを果たせず、優志は申し訳ないと思いながら店内へ――そこに、



「やあ、おかえり」



 優志の帰りを待っていた男がいた。それは、


「べ、ベルギウスさん!?」


 次期国王候補でもあるベルギウスだった。


「い、一体どうしてここに!?」

「激励に来たんだよ。国王陛下から随分な無茶振りをされたと聞いてね」


 恐らく、その情報提供者はガレッタだろう。

 心配して来てくれたことに関しては大変にありがたい話ではあるが、ベルギウスの立場が凄すぎてどうしても周囲の安全に気が向いてしまう。


「お気遣いは結構だよ。それより、何を買いに街まで行っていたんだい?」

 

 どうやら今回の件についてはある程度リサーチ済みであるらしい。

 ここで誤魔化しても無駄だろうから、優志はありのままに自分が欲している魔鉱石の名を口にした。



「探しに行っていたんですよ……空気を生み出す魔鉱石――《エアー》を」

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