第35話 ふたつの魔鉱石
魔人退治が無事に終わった次の日。
「ふあぁ~」
大きなあくびをしながら優志は起床。
エミリーと共にダンジョン攻略のため、ほぼ1日空けていたわけだが、優志の留守中にリウィルと美弦ができる範囲で改装作業を進めていた。
風呂場に関してはほとんど完成していたため、食堂や廊下などの飾りつけを行ったという話だが――これがいかにも「女の子」といった感じの出来栄えだった。
しかし、だからといって男受けの悪いものというわけでもなく、程よい色合いと心が安らげる花が生けてあったり、どこで手に入れたのか不明だが、温かみのある色彩の絵画などが店の雰囲気を和らげている。
「こういった工夫は男の俺にはなかなか思いつかないよな」
女性ならではの視点だからこそできたことだろう。
客の中にはエミリーのような女性冒険者もいると思われるので、こうした配慮は大切だ。ちなみに、優志が寝ている私室もだいぶグレードアップしていた。
「うん? なんだか下が騒がしいな」
部屋から出て、1階の食堂へと続く階段に差しかかった時、階下からリウィルと美弦以外の声が聞こえてきた。それも1人や2人じゃない。10人以上は確実にいる。
「なんなんだ?」
まだ昨日の宴会の続きをしているかもしれない。
そんなことを考えながら1階へ行くと、
「あ、優志さん!」
優志の姿を発見した美弦が駆け寄って来る。
その後ろには人だかりができていた。
「こ、これは……」
「改装工事の手伝いをしに来てくれたフォーブの街の人たちです!」
「こ、こんなに?」
上の階にいた時に感じた人数よりも、実際に1階に押し寄せていた人の数は圧倒的に多かった。その数は総勢で62名。ダズのパーティーのメンバーを抜いてこの数である。
すべては魔人退治の立役者である優志へのせめてもの礼――その考えのもとに、街の人たちは集まっていた。
「おいおい、開業する前から大盛況じゃねぇか」
事前に手伝いの約束をしていたダズが来た際にはその人だかりを目の当たりにして驚いている様子だった。
その後、混雑を整理するためダズを中心に役割分担を行った。
――が、すでに店の中枢を担うことになるだろう風呂場はほぼ完成しており、手に入れたアクアとヒートの魔鉱石を組み込んで正常に機能するかのチェックを行うことを主に置いていたため、これだけの人員をどこに割くのかと頭を悩ませたが、
「残った人たちに店の飾りつけをやってもらうというのはどうでしょうか」
リウィルからの提案は、優志の頭に雷を落とした。
みんなでする飾りつけ――これはなかなかいいアイディアだ。
早速優志は魔鉱石の取り付け以外で残った人たちを集め、食堂やロビー部分の飾りつけをお願いすることにした。
その中でも、力自慢や建築関係の知識を持った者に関しては、まだ手付かずになっている客室の改装のプランを募るため別室で話し合いを行う。
優志はその話し合いに参加し、店の飾りつけについてはリウィルと美弦のふたりに任せることとした。そういった装飾のセンスがまったくない優志よりも、あのふたりの方がずっと店をよくしてくれるだろう。
そういったわけで、優志は建築知識豊富なフォーブの街の職人たちに店全体を見てもらったのだが、
「なかなかに厳しいなぁ……」
返って来たのは想像通りの答えだった。
「やはり柱が問題ですか?」
「ああ……だいぶ痛んでいるからな。これは補強するより取り替えた方が後々のことを考えると安上がりだ」
「柱だけでなく、床もかなり傷んでいるぞ」
もうひとりの職人が足でトントンと軽く床を叩きながら言った。
「床も、ですか」
「すぐに抜け落ちるってことはなさそうだが……何せ、手入れを怠り続けてきたからな。大事になる前に対策を打っておいた方がいい」
柱と床。
いずれにせよ、強固な木材が必要になりそうだ。
「どこかにいい木材を売っている場所はありませんか?」
「生憎とうちには伝手がないなぁ」
「それならうちに任せてくれ。心当たりがある」
さらに第3の職人が手を挙げた。
「本当ですか!?」
「ああ、ここからそう遠くない位置にあるし、すぐに使いを送れば明日の昼前には希望通りの木材がここへ届くはずだ」
「なら、依頼をお願いできますか?」
「街の救世主の願いとあっては無下にできないな。任せてくれ。念のため、予算をどれほど都合できるか教えてくれるか?」
「わかりました」
懸念事項であった店の強度についてはこれでなんとかなりそうだ。
大方の目途がついたところで、優志はようやくある施設の開発に精力を傾けることができそうだ。
優志は完成間近に迫った風呂場を視察しに行く。
手作り湯船の底に敷き詰められたヒートの魔鉱石。これに魔力を注ぐだけで熱を持たせることができる。あとはアクアの魔鉱石で生み出した水を流し込めば完璧だ。
風呂場ではすでにアクアとヒートの魔鉱石を使用し、きちんと水が湯になるのかの実験をしている最中であった。
新しく作った専用の台座の上に威風堂々と鎮座するアクアの魔鉱石。そこに魔力を注ぎ込むと、水がじわじわと染みだし、やがて滝のように湯船へと流れ始める。
アクアとヒートの魔鉱石は4つずつある。
アクアに関しては男湯、女湯、そして優志の回復水のために使う。
ヒートの方は同じく男湯と女湯に使い、さらに料理のためにもひとつ取っておく必要があった。
――では、残った各1個ずつの魔鉱石はどう活用するのか。
それに関してはある有効的な使い道を考えていた。それは、
「アクアとヒート……このふたつの魔鉱石を使って――サウナを作るぞ!」
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