第26話 いざダンジョンへ
「だ、ダンジョンに潜るって……」
リウィルと美弦は優志を見つめる。
ダズたち本職の冒険者たちと比較すれば――外見からもあらゆる身体能力が劣っていることがハッキリとわかる。優れたスキルを有してこそいるが、それはあくまでも回復専門のものであり、戦闘には不向きである。
だから、いざモンスターと対峙した際、恐らく優志は手詰まりになる。武器を持って戦えるほどの勇敢さもないし、倒せるだけのパワーもスキルもない。
「あ、あの、ユージさん」
それまで驚き顔のまま硬直していたリウィルが口を開く。
ちょいちょいと手招きをしてこっそりと話し合いたいことがあるらしい。その輪の中には当然美弦も加わる。
「もしかして、魔鉱石を手に入れようと?」
「それもある」
たしかに、優志が直接魔鉱石を手に入れられれば、これまでの問題は一気に解決する。しかし、何も優志が危険を冒す必要はない。
やりようはいくらでもある。
リウィルは命を落とす危険性のあるダンジョンでの直接入手という手段は避けるべきだと考えていたが――優志の目指すところはそれだけではなかった。
「俺が直接ダンジョンに潜って魔鉱石を手に入れられればそれに越したことはない。だけどそれにはかなりのリスクが伴う。……俺も極力それは避けたい」
「なら、どうして?」
美弦の質問に、優志はすぐさま答える。
「彼女をダズに引き合わせる」
「!? で、でも、彼女は……」
リウィルも、エミリーが不幸を呼ぶ女だとは思っていない。しかし、心のどこかで「もしかしたら」という気持ちがくすぶっていた――だから、ダズと引き合わせるという優志の考えにはあまり賛同できなかった。
「リウィルの気持ちはわかる。……だけど、彼女には実績がある」
エミリーの過去の話は、基本的に彼女の不幸エピソードが中心になっていた。だが、リウィルの解説によると、入手困難なアイテムを持ち帰ったり、強敵とされるモンスターを撃破していたりとなかなかの武勇伝であるらしかった。
「あれだけの力があれば、ダズもきっと受け入れてくれるはずだ」
「たしかに彼は新しいメンバーを欲しがっていたようですが……」
店舗の修繕をしている最中、ダズは新しいパーティーのメンバーを募集しているという旨の話をしていた。
「でも、もしエミリーさんの不幸を呼ぶという体質が本当だったら……」
「それも全部ひっくるめてダズには紹介するさ」
ニヤリと笑う優志――そこで、リウィルは優志の狙いを理解する。
あのダズのことだから、
『不幸を呼ぶ女だって!? そんなこと関係ねぇ!! 俺たちと一緒にダンジョンで暴れようぜぇ!!!』
「――なんてこと言い出しそうですね」
「だろ?」
細かいことに気を取られない豪快なダズたちならば、エミリーを受け入れてくれるだろうと優志は確信していた。
「それに、話を聞いていると何もすべてが彼女の責任であるとは思えないんだ」
「まあ……結構無茶なことをしているパーティーもありましたね」
冒険者としての経験がない美弦から見ても、そう思える展開が散見できた。
「そもそも冒険者の稼業っていうのは危険が付き物だ。エミリーがいなくてもいつかは……まあ、そんな暗いことを考えていてもしょうがない。とにかく、エミリーを仲間に加えるかどうかの最終判断はダズたちに委ねる」
あくまえも優志たちは仲介役としてエミリーを紹介する――だが、ダズはきっとエミリーを仲間に加えるだろうし、エミリーがダズたちの助けになるだろうという根拠のない自信があった。
「男の勘だな」
あてになるのかならないのか――自分でもよくわからなかった。
「でも、それならわざわざダンジョンに潜る必要はないのでは?」
「あ、そうですね。ダズさんたちがダンジョンから戻って来るまで外で待っていればいいのでは?」
「…………」
美弦とリウィルの正論に、優志は口をつぐんだ。
「もしかして……」
「単にダンジョンへ潜りたいだけとか?」
「それもある」
真顔で答える優志だった。
とりあえず、エミリーに優志の提案を説明する。
最初は戸惑っていたエミリーであったが、まだ「仲間と一緒に冒険をする」ということに未練があるのも確かなようで、ダズとの面会を承諾した。
「ダズならきっと君を受け入れてくれるさ」
「そ、そうだろうか……」
「安心しなよ。それより――準備をしないとな」
異世界で初ダンジョン。
危険と知りながらも、少しだけテンションの上がる優志だった。
◇◇◇
「ここがダンジョンか……」
店から西の方角へ真っ直ぐ進むと、徐々に道が荒れ始め、周りに高い山々が見えるようになってきた。そこからさらに前進していくと、冒険者たちの物と思われるテントが出現。宿屋に戻らず、ここをキャンプ地として寝泊まりをしているパーティーもいるようだった。
そんなテント群を越えると――いよいよダンジョンの入り口が姿を現す。
まるですべてを飲み込もうとするバケモノの口のようなその入り口を前に、優志とエミリーは立っていた。
ちなみに、リウィルと美弦は店で修繕作業を再開している。できれば召喚獣を操れる美弦には同行してもらいたかったが、美弦自身がダンジョンへ潜ることに難色を示したため(モンスターとの戦闘は未だにトラウマとなっている様子)お流れになった。
そのテントにいる者は、ダンジョンに潜らず留守番役をしているようだが、その大半は負傷した冒険者であった。耳をすますと、各テントの内部からは怪我による痛みから発せられる呻き声のようなものが聞こえてくる。
「あまり健康的な現場とは呼べないな」
だが、そんな環境は裏を返すと優志のような店が必要になってくるとも言える。それと同時に、
「店に来られなくても、スキルで回復効果を持たせたあの水を持ち運べるように水筒のような容器に入れて売り出せば……」
などと、商売展開をしていると、ダンジョンから5人組のパーティーが血相を変えて飛び出して来た。
「お、おいあんたら、悪いこと言わねぇから今日は潜るのをやめとけ!」
「? 何かあったんですか?」
明らかに様子のおかしいパーティーへたずねると、
「崩落が起きたんだ」
「ほ、崩落!?」
「ああ。今までに見たこともない大きなモンスターが現れてな。そいつが暴れ回るものだからもう大パニックさ」
「勇敢なヤツらはなんとか食い止めようと立ちはだかっているが……ありゃちょっとやそっとじゃ止められねぇぞ」
「もしかして――その勇敢なヤツらの名前は!?」
「ダズだ。ダズのパーティーが戦っている」
「「!?」」
やはりだ。
ダズは突如出現した大型モンスターから他の冒険者を守るためにパーティーの仲間たちと中で戦っているらしい。
「暢気に構えている暇はなさそうだな」
「ああ」
意を決した優志とエミリーは、逃げ出してきたパーティーが止めるのも聞かず、ダズたちに加勢するためダンジョン内へと入って行った。
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