第7話 スキル判定
「俺のスキル?」
この世界では18歳以下でしかスキルを習得できない。
18歳を過ぎた者はスキルを得ることができず、剣術か魔術を極めることでしか出世できない――というのは昨日王都を案内してくれた兵士からの情報だ。
「以前、ガレッタさんと食事をした際にうっかりジュースと間違えてお酒を飲んだ時がありまして……その翌日は酷い頭痛と吐き気に悩まされました。それがこんなにもスッキリとした目覚めを迎えるなんて」
「ただの偶然じゃないのか?」
リウィルとしては、もし優志にスキルがあると発覚すれば他の勇者たちと同等に扱ってもらえる――つまり、自分が神官へ復帰できるかもしれないと思っている節があった。
昨夜の激しい落ち込みようを目の当たりにしている優志としては、出来る限りその望みは叶えてやりたいと思うが、正直、二日酔い云々のくだりはただのこじつけのような気がしてならなかった。
それでも、リウィルがそれで満足するというなら、
「スキルの診断はどこでできる?」
本当にスキルがあるかどうか確認してみることにした。
「どこへ行く必要もありませんよ?」
「なぬ?」
「私ができますから!」
「…………」
「露骨に嫌な顔をしましたね」
「そ、そんなことはない!」
実際はそんなことありまくりだった。
何せ、勇者召喚の儀に6度も失敗している筋金入りのポンコツ神官なのだ。
「心配しなくてもそれくらいは初歩的なことなので私にだってできます」
言葉にはしていないが、優志の醸し出す「大丈夫か?」という雰囲気を感じ取ったのか、リウィルは頬を膨らませて抗議をした。
「ガレッタさんはステータスを見ただけでスキルの項目に目を通していないはずですし……あなたに何かしらのスキルを保有している可能性は大いにあります! ああ、もう! どうしてこんな簡単なことに気づかなかったんだろう!」
興奮するリウィル。
しかし、仮にスキルがあったとしても、今のところ発覚している効果は二日酔いが治るだけという地味なもの。しかも、優志自身にはスキルを使用したという自覚がない。
ただ、リウィルにはスキルの内容より「優志にスキルがある」という事実の方が重要になっていた。
「では行きますよ!」
気合一発――鼻を「フン!」と鳴らしたリウィルはスカートのポケットから1枚の紙切れを取り出した。
「? それは?」
「スキル判定に必要な道具です」
「そ、そんな紙切れでどうやって判定するっていうんだ?」
「いいからそっち側を持ってください。やればわかりますよ」
リウィルは紙の端っこをつまむと、優志にも同じようにしろと指示を飛ばしてきた。スキル判定の方法など知らない優志はただ黙ってそれに従う。
「むむむ……」
瞑目して唸り出したリウィル。
本当にこれでいいのかと半信半疑だった優志であったが、
サラサラサラ――
なんと、ペンもないのに紙に文字が浮き上がり始めた。まるで黒インクで書いたと錯覚するくらいハッキリと浮き出た。
紙の一番上には「ステータス」とカタカナで書かれていた。
「カタカナを使うのか?」
「あなた方異世界人には、この世界の文字や言葉を自分たちの文化圏のものに自動変換させるスキルが最初から付与されているみたいです」
言われてみれば、どう見ても外国人の外見をしているリウィルと普通に日本語で会話が成立している。その時点で疑うべきだった。
「まずはあなたの能力を数値化されますが……これは酷いですね」
平静を装っているが、声が震えているので笑いを堪えているのが丸わかりだった。
だが、健康に気を遣う人生を歩んできた優志にはわかる。
「健康オタク=フィジカルエリート」というわけではないのだ。
昔から運動はからっきしだったので、今さら数値化された値が低いと言われてもそれほどショックは受けない。
「ステータスが低いっていうのは重々承知しているよ。それより、俺のスキルはどうなっているんだ?」
「そうでした。肝心なのはそっちですね。えっと……」
リウィルは再び目を閉じて優志のスキルを探る。
「んん~……」
難航しているのか、眉間に刻まれるシワは時間を追うごとに深くなっていく。やっぱりダメか、とあきらめかけた――その時だった。
「あっ!!」
何か手応えを感じたのか、リウィルはカッと目を見開いて紙を手放した。
「ど、どうした!?」
「ありました……ユージさんはスキルを持っています」
「本当か!?」
「今、それを呼び起こしました。ステータスに記載されているはずです」
「よ、よし! 確認してみる!」
「できれば攻撃特化系スキルが望ましいですね」
「そうなのか?」
「とても希少で持っている人が少ないんですよ。他の勇者候補の方たちもみんな攻撃に特化したスキルばかりでした」
「な、なるほど」
優志は深呼吸を荒ぶる気持ちを鎮める。
この結果によって、リウィルと優志の未来が大きく変化する――異世界生活を左右する大きな分岐にぶち当たった。
「さあ、いくぞ!」
気合を入れてステータスをチェック。
スキルの項目には、
【癒しの極意】
そう書かれていた。
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