第4話 意外な好待遇?
城を追い出された格好となった優志は途方に暮れていた。
一応、ガレッタの命を受けた兵士が、当面の生活拠点だとある宿屋を紹介してくれた。ガレッタさんの紹介料もあるとかで、相場よりかなり格安で宿泊できるらしい。とりあえず寝床はキープできたが、問題はそれだけで解決できるほど浅くはない。
今回の一件――勇者召喚の儀で、勇者としての条件を一切満たさぬ者を召喚するというのはイレギュラーな事態らしく、どう対応するのがベストなのか、ガレッタ自身がそれを手探りしているようだった。
「まあ……転職だと思えばいいのかな」
と、優志は前向きに事態を捉えるようにした。
不幸中の幸いと言うべきか、両親はすでに他界しており兄妹もいない。おまけに独身だったので妻子もない。あちらの世界から存在が消えたところで悲しむほど親しい友人もいないときている。
皮肉にも、永住承諾を得られていない状態――リウィルの失敗によって召喚する人材として優志はもっとも適している存在といってよかった。
宿屋に着くと、兵士が店主に事情を説明。ガレッタ神官からの命とあって、すぐに部屋を用意してもらえることになった。
部屋の準備が整うまで、優志は兵士に王都内を軽く案内してもらった。
中世ヨーロッパ風の街並みが広がる王都。
年間を通して温暖な気候であり、近隣諸国にとっては交易の終着点であるここには東西南北あらゆる国や都市から商人たちが訪れる。そのため、あちこちに屋台や店が立ち並び、非常に活気溢れる街というのが優志の第一印象だった。
こちらでの仕事については職業斡旋所があるらしく、案内してくれた兵士は翌日にでもそちらを訪ねるといいとアドバイスをしてくれた。
「ついでに教えておこう。あそこにある酒屋は酒もさることながら店主が腕を振るう自慢の肉料理もうまいぞ」
「いいですね。行ってみます」
最後に地元の人がこっそり教えるマル秘情報を与えて、兵士は御役御免だと城へと戻って行った。その去り際には「何かあったら城の兵士に俺を呼ぶように言ってくれ」とアフターフォローも欠かさないできる男ぶりを見せた。
「いい人で助かったよ」
ここまでの待遇を見るに、向こうとしても優志を誤ってこちらに招いてしまったという罪悪感があるようだった。
ガレッタの証言から、恐らくあのポンコツ神官リウィルが半ば強引に召喚の儀を行った挙句に優志が呼び出されたと見るのが正しいのだろう。
しかし、リウィルとしても神官として生き残るために必死だった――そう考えると、あまり強くは責められなかった。
「……もう終わったことだ。それより、例の酒屋は楽しみだな」
言い聞かせるように呟くことで自己完結させる。
優志の気持ちはすでに先ほど紹介された酒屋へと向けられていた。
健康第一主義を貫く優志だが、酒自体は好きなので適度な飲酒をストレス発散として認めている。それと、料理についても関心が高く、どれだけ忙しくても、日々の食事は健康を意識した料理&外食を心がけている。なので、この世界のプロが作る料理を味わってみたいという好奇心もあった。
「どうせ帰れないんなら満喫しとかないとな」
仕事探しは明日にして、今日はこの世界の食生活を堪能すると決めた優志だった。
◇◇◇
兵士に案内されたあと、自分でも宿屋周辺をいろいろと見て回った。
現代生活を匂わせるものは街のどこにも見当たらず、まるでどこかのテーマパークを歩いている気分になる。
そうこうしているうちに空はオレンジ色に染まり、人の数も徐々に減っていった。
街頭もないようなので、暗くなるまえに宿屋へ戻ろうと帰路に就いていると、先ほど紹介された酒屋に灯りがついているのを発見する。
「お? 開店したか」
ネオンとは違い、ほんのりとした柔らかな光に、自然と優志の足は店へと吸い込まれていった。ドアを開けて店に一歩入れるとまず視界に入って来たのは、
「やってられません!!!!!」
ジョッキをテーブルに叩きつけるポンコツ「元」神官のリウィルだった。
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