ドラゴンアタックミーヘルプマイハニー

にぽっくめいきんぐ

プロローグ 小5レベルの思いつき

プロローグ バリアが出ない

 俺たちの目の前には、巨躯きょく


「ビルかよ?」

 とツッコミを入れたくなる程に巨大で、かぎ爪のある両脚。


 ウロコがもしも、肌荒れなのだとしたら、モイスチャーしっとり感が相当程度足りていない。


 巨大な胴。

 となりのトトロに酵素を大量に飲ませて、異常成長させたかのようだ。

 俺のバカもう知らない。


 モイスチャーの足りない両前足には、やはり、かぎ爪。


 背中には羽根。

 野球場のアルプススタンドに例えると、応援団旗、何枚分の面積があるだろう? 


 長い首。

 待ち人が来ないまま輪廻転生を繰り返したかのような。キリンのような。

 ……後者の方がわかりやすいな。


 その生き物は、ドラゴンと呼ばれている。 

 俺の元居た世界ではそうだ。


 この世界では……少しだけ違う呼び方をされている。


 とにかくその、伝説上の怪物の攻撃が、迫る。

 奴が息を大きく吸い込んだのがわかる。


 ブレス攻撃。

 右脳直結で言うと、めっちゃ熱い豪風。


 それが来る。

 しかし――。


 そんなもの、今の俺の敵では無いはずだ。

 女神から授かった異能、チート能力を、ついに発揮できるのだから。


「秘策があるんだ」

 この探索クエストの冒頭に、俺は、仲間たちにそう言った。

 雑司ヶ谷赤靴下団レッド・ソックスに集う異世界人たちにだ。


 そう。

 ドラゴンの羽根の大きさを、応援団旗に例えたのには理由がある。

 雑司ヶ谷赤靴下団レッド・ソックスは、いわゆる、野球チームだから。


 まぁそれはいい。


 俺は、みんなの先頭に立ち、両手を広げ、朗々と言った。


「バーリア!」

 単純だからこその思いつき。気づき。起死回生のアイディア。


 俺の少し後ろには、レイン先生が居る。

 先生と言えば伝わる?

 お姉さんと表現すればよい?


 サイドポニーにまとめられた、そのきれいな金髪は、俺の位置からは見えないが、声は聞こえた。

 

 コロコロと鈴の鳴るようなその声は。


「えっ、バリア? そんな簡単な英単語?」

 と言っていた。


 ちゃんと英語の意味が先生に伝わっている。素晴らしい。


 俺の今の語学力で可能な、無敵の異能。

 その名は「バリア」。


 小学生時代に、見えないバリアを何回使ったと思っているんだ!

 

 しかし……。


 小学生時代に見えなかったバリアは、

 女神様から異能を授かった今になってもなお、


 


「こ、」


 この期におよんで?

 出ないの?

 バリアだよ? バリア。


 シンプルな英単語だろ?

 出ないの? 


 レイン先生に、意味が明確に伝わったじゃないか!


「バーリア! バリアバーリア!」

 慌てた俺は、まるでどこぞの高収入バイト宣伝トラックのように叫んだ。


 しかし。


 出ない。

 バリアが。


 なんで?

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