第12話 逆に聞く。どうして無料だと思った?
「この前の子じゃん。なんでここに居るの?」
「村松です! 村松。転移者の名前ぐらい覚えといてくださいよ」
「あのさ? アンタ、あたしがどんだけ沢山の卒業生を見送ってきたと思ってるの?」
「先生だったの?!」
女神様のような先生は、確かに学校に居る。俺の母校にも居た。
いつも笑顔を絶やさない、目尻に小さなほくろがある、人気の池内先生が。
でも、そこの白いヒラヒラした服を着たあなた。
そのものズバリ、女神様でしょうに。
「I...」
「We...」
「ウェイター木綿プリーズ! この日本人を処理するまで、ちょっと待ってて!」
女神様は面倒くさそうに、指から、「ビャッ!」と電光のようなものを出して、木綿ではなく、近くの薪に引火させ、焚火を作り上げた。外人カップルの濡れた服を乾かそうという、粋なはからい。やっぱりただの女子じゃなかった!
「OHO!」
「ワーム……」
「で、松村くん、どうして君はここに居るの? 面倒が増えるから戻って来ないで欲しいんだけど」
「村松です。いや、なんかあの異世界、僕に合ってないと思うので、クーリングオフをお願いしたくて」
「はぁ?! 何言ってるの?」
女神様は、両腰に手を当て、わかりやすく眉をひそめた。
栗色の長い髪の上で、草の輪っかがカサッと音を立てた。
「だから、チート能力のクーリングオフですよ。まだ間に合いますよね?」
クーリングオフって、元々は、訪問販売なんかで、売り手がアコギな事をやりすぎるのを防ぐ仕組み……だっけか? 一定期間内なら、取引をキャンセル出来るやつ。
チート能力だって同様に、キャンセル出来るはずだよ。
女神様から一方的に押し売りされたに等しい能力なのだから。
俺はそう思う。
「いや、だから……」
女神さんは二の句を継げないでいる。
そして、意外に押しに弱い?
どうしたい? コマンド。
>さらに押す
「RPGゲームに例えると、リセットボタンを押す行為。リセットマラソン、略称『リセマラ』って言うんでしたっけ? ……あんな感じの事を俺はしたいんですよ」
「うう……なんでまた、そんな面倒なことがしたいのよ?」
「このスキルじゃ、僕が活躍できないからです」
胸を張って堂々と俺は言った。
カタコト英語が通じたら発揮する異能を持っていても。
俺は、カタコト英語すらまともに使えない
そんな状況において、俺がかっこよく活躍するには?
『チート能力自体を、異世界に合ったモノに変えてもらう』
これでしょ! これ!
手っ取り早い!
とてもシンプルな解決策!
なるべくラクをして美味しい目を見たいじゃないですか? せっかく異世界に来たのなら。
実は、坂を上る途中で、もっと別の解決策も俺は思いついていた。
『そもそも、このヘンテコなスキルでも活躍できるような別の異世界へと、異世界間引っ越しをさせてもらう』
という手筋。
これならどうだろう?
より具体的には、泉から出てきた外人カップル二人組が行く予定の異世界に、代わりに僕が行くとか。
一方、外人カップル二人組には、昨日まで僕が居た異世界に行ってもらうとか。
環境って、メッチャだいじなんだよ!
ただ、椎名さんと会えなくなるのは嫌……っていうか、とてももったいない。あんなに可愛い女の子との接点。
『それを捨てるなんてとんでもない!』
ってやつだ。
というわけで。
「出来ますよね? 異能のクーリングオフ。女神様なんだから」
と、転移者である俺の方から、強気の念押し。
そうしたら、女神様は。
栗色の髪を、白く細い指先でくるくるといじりつつ、口を尖らせて、言った。
「あうむ……スキルの変更には、変更届も出さなきゃいけないし……。登録免許税もかかるし……とにかく手数が増えるから、そんなことやりたくないんだけど?」
「お役所仕事なの?! お金かかるの?!」
驚いた俺は、まるで、サザエさんに出てくる「マスオさん」のように体を、くの字にさせた。
そうしたら女神様は、コクンと頷いて、言った。
「まぁね。変更にかかる費用の相場は、1ドラぐらい……かな」
「ダラー?」
「キャナイユースマネー?」
「1ドル……お金で解決できるのか。しかも、ドル建て?」
栗色の神の女神様は、黙って目をぱちくりさせた後、懐から、メニュー表みたいな何かの紙切れをシャッ! と取り出した。取り出しの反動で、胸は少し揺れた。
「USドルじゃなくて、ドラね? ドラ」
女神さんは、目を糸目にして、ニンマリとしていた。
「どら?」
「そう。ドラ。スキルの変更には1ドラ。ドラゴン一匹分ぐらい、かな? ふふふ」
女神様のその顔が、あからさまにこう言っている。
「田 町 龍 と か い う の を 倒 し て か ら 来 い や」
と。
「Hey...」
「In English?」
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