異世界転生~第2の人生はスタートと同時に詰んでました~
小暮悠斗
プロローグ①
……?
目を覚ますと、俺は暗闇の中にいた。
周りをぐるりと見回しても、全てが闇に閉ざされていて何も見えない。唯一、自分の体だけがうっすらと光を放っているが、そのこと自体が不可解だった。
「お目覚めになりましたか?」
こちらを窺うような声がする。
すると、今まで誰もいなかったはずの空間に人が現れる。人なのかどうか、不明である。
女性であることは間違いない。しかし、背中には翼が生えており、飾り物には見えない。バサバサと小さく羽ばたかせているそれは、機械の動きではなかった。
また、女性の羽織っている純白のローブも何処か神々しく、浮世離れしていた。
最もしっくりくる表現、女神。美の女神ヴィーナス。そんな単語が頭を過った。
「すみません。私はヴィーナスではないんです」
申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする。
「あれ? 声に出してました?」
「いえ、思考を読み取ったのです。私、これでも一応女神様ですから」
朗らかに笑う。
一切の穢れを知らないかのように。
「えーと、それで俺はどうしたらよろしいのでしょうか?」
相手が女神様だと言うので、自然と畏まった態度をとる。
「簡単な事です。これからあなたには異世界に転生していただきます。そして世界を救っていただきたいのです」
「ああ、やっぱり」
これはアレだ――不慮の死を遂げて異世界に転生、その特典にチート能力を授かり無双して魔王を打ち倒し、ハーレムを築いたりするヤツだ。
現実世界の俺は、今頃冷たくなっているだろうが気にしない。特別面白い人生でもなかったしな。
唯一の心残りは、まだ高校生だったという事くらいか、成人する前に死ぬとは思わなかった。
「ちなみに確認なんすけど、俺、死んでるんすよね?」
「ええ、それは見事にお亡くなりになりました。あちら――あなたがおられた世界では、とても有名になられていますよ」
首を傾げると、疑問に答えてくれる。
「あなたは、理科室の掃除中に薬品零して爆発させてお亡くなりになりました。奇跡的に爆薬をお作りになったんですよ! 科学者としての才能があったのかもしれませんね。まあ、才能を開花させるタイミングは盛大に間違ってしまいましたけどね!!」
悪気なく話しているのだろうが、確実に悪口だ。意図していなければギリギリセーフな気もする。あくまでそれは、女神である彼女限定の話だ。
一般人に言われたら、殴りかかっていたかもしれない。
「まあ、何でもいいです。俺、転生できるんすよね?」
「はい。責任を持って異世界へ転生させていただきます。ですが、その代わりに」
「世界を救え、ですか?」
「まあ、そんなところです。もちろん力を授けたうえで転生させていただきますので、あちらの世界でも不自由はないかと思います」
「ちなみに転生する世界ってどんな世界なの?」
「どんな? と申しますと?」
「魔法とか使えるファンタジー世界、エルフみたいな亜人種がいる世界、あとは……中世風の世界とか? そんな感じの、世界の設定みたいなのって教えて貰えないんですか?」
「ああ、それでしたら今し方あなたが仰った、魔法という概念が存在し、人間以外の亜人種の居る中世風の世界ですよ」
まさに王道。
つまりは俺TEEEができるということだ。
俺のパッとしなかった人生は、今日、この日のためにあったんだ。
「それでは女神様、よろしくお願いします」
「分かりました。ですが、一つご忠告が」
「忠告?」
「転生後、少々厄介なことが起こるかもしれませんが、頑張ってください」
ファイト! と笑顔で見送ってくれる女神様に、力強く親指を立てて応えた。
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