Wake Of The Steel

@deppo

プロローグ


 幼い頃、俺はヒーローに助けられたことがある。



 確か6歳くらい。小学校から歩いて帰っている時だった。

 俺の家は小学校から少し離れていて、分団で帰っていたがいつも途中から1人になった。


 その時に、黒い車が追い抜きざまに扉を開け、俺を車内に引っ張り込んだ。

 すぐさま口にテープを貼られ、腕と足もグルグル巻きにされた。男が確か…3、4人くらいいたと思う。その内の1人が俺にナイフを見せて『暴れるな』と脅した。

 怖くて怖くてしょうがなかった俺は泣きながら何度も頷いた。



 それからしばらく走った後に町外れの小さい倉庫の中に連れていかれた。

 倉庫ではイモムシのように床に転がされた以外あまりしていない。1回、男たちが俺の親に電話した時『助けて』と言わされたくらいだった。


 それ以外はずっと転がったまま泣いてた。男達は見向きもせずに何かずっと話し合ってただけだった。


 どれくらいの時間が経ったか分からなかったが、泣き疲れて眠ってた時に突然起こされた。起こした人物はあの男達の誰でもなかった。


 20歳くらいの青年で、とても優しかったのを覚えてる。その人は『もう大丈夫。おうちに帰ろう』と語りかけ、拘束を全部取り、俺をおんぶしてくれた。


 周りを見ると、犯人の男達が皆倒れ気を失っていた。


 その後のことはあまり覚えてない。


 青年は俺が誘拐された現場を目撃し、バイクで付いてきたらしい。


 空手の有段者で、男達の隙をついて全員をのし、俺を助けてバイクで警察署まで連れて行ってくれた。


 でもその青年は名乗りもせずにそのままどこへ行ったか分からない。


「……っつー話だ。感動しただろ? ん? 在り来りすぎたかな?」


 目の前に座っている男にそう問いかけた。

 だが、男は何も喋らずにただこちらを見ているだけだった。

 ……あぁ、そうか。


「すまんすまん! うっかりしてた」


 思い出してを一気に剥がした。

 剥がした時短い悲鳴を上げる。少し捲れたらしく、男の唇から血が出ていた。


「で、どうだ? いい話だろ? よ」

「て、てめェ…」


 口のテープは剥がしたが、椅子に縛り付けた手の拘束を解く気は無い。縛られて少し鬱血し始めた腕には如何にもと言った感じの刺青が入っていた。

 先程男の財布から取り出した免許を読み上げる。


「新田キヨシ52歳…、っつーことは俺を誘拐した時は40歳か」

「うるせェ! 何しやがるんだクソガキが!」


 男はテープを取ったらギャンギャン騒ぎ始めた。手のロープを外そうともがいてるらしいが、なかなか外れないだろう。


 12年前の事件で犯人が3人捕まったが、1人だけ逃亡し、今まで行方知れずだった。

 その男が、こいつ。


「てめェが12年前に俺にした事と変わらないだろ。あの時は椅子に座らせてもらえなかったけど」

「……じゃあ、あの時の復讐をしに来たって事か!?」


 男の顔からみるみるうちに血の気が引いた。

 まぁ当然だろう。この状況で俺が復讐目的だったら、確実に身に危険が及ぶからだ。


「すまなかった! あの時は金に困ってて…! し、しかもオレは無理矢理加担させられたんだ!」

「いやいやいやいや、違う。あの誘拐事件の事はもう気にしてねェよ。12年も前のことだし。いや、気にはしてるか」

「だったら目的はなんなんだよ! あの事件以外に俺とお前に関係は無いし、早くから解いてくれ!」

「あるんだな、俺とお前の関係が他に…な!」


 そして男の胸を蹴り飛ばす。

 全く身動きが取れないため、そのまま男は後頭部から後ろにひっくり返った。

 痛みで悶えてる男の顔を上から覗き込む。


「『J』の名前に覚えがあるだろ。英単語の『J』だ」


 『J』。

 その名を口にした瞬間、あんなに喚いていた男の動きがピタリと止まった。


「し、知らねェな」

「嘘ついてるんじゃねェ!」


 男の耳を踏みつけた。

 瞬間に男は大きな声で悲鳴をあげる。


「てめェらチンピラ野郎共の取引相手なんだろ? あぁ!?」

「分かった! 知ってる知ってる!」


 足を上げてやると、男は涙目で俺を見上げた。


「確かに…Jさんはうちの組の取引相手だ…。でもそいつの事は全然知らねェんだよ。会ったこともないし、直接話したこともねェ」


 男はそう続けた。

 言い方、内容から嘘ではないだろう。Jに関してだと多分俺の方がよく知っているが、よく知らない。


「居場所が聞けるとかは最初から期待してないけどさ、次の取引の日時くらいなら分かるだろ? もちろん直接会う取引な」

「まさかサツにチクるんじゃないだろうな!」

「違うわ。そんな白い粉だか鉄砲だかの取引なんか興味ねぇ」


 そう。全く興味ない。

 別にそんな正義のヒーロー気取りなんかしない。

 ヒーローとは真逆だからだ。


「俺はただ、そのJに用があるだけだ」

「お、俺は知らない! それにお前があの人に何の用があるってんだよ!」

「それは―――」


 答えようとした時、『ブチッ』という音が聞こえた。

 次の瞬間、男は立ち上がり、俺にナイフを構えた。服の袖かどこかにナイフを隠していたらしい。


「バカ野郎が! チンタラ喋ってやがるからこう逃げられんだよ!」


 男は勝ち誇ったように高笑いした。

 ひょいひょいとナイフを持ってニヤニヤと笑っている。


「よくもビビらせてくれたな…。12年前より恐ろしい目に遭わせてやる」

「……なんで用あるか、教えてやるよ」

「あぁ!? そんなの時間稼ぎのために言ったに決まってんだろォが!」


 そう吐き捨て、男は俺に向かって走りだした。多分この男はマジで俺にナイフを刺す気だ。迷いなく、そのナイフは俺の胸目掛けて進んでくる。

 だが、俺は何もしない。怖くて出来ないんじゃァない。


 そしてナイフが俺の胸に刺さった瞬間。


『ペキッ』


 そんな音と共にナイフが半分くらいの長さに折れた。刃はあさっての方向へ飛んでいき、軽い音を立てて落ちる。


「は……!?」

「俺がJを探してんのはな…」


 目をまん丸にしている男は無視し、俺は着ていたセーターを脱ぎ捨てて上半身を露わにした。

 そこにあったのは18歳という年齢では平均的な体格の身体。–––ではなかった。


 男が刺した胸の辺りは鈍く月の明かりを反射して黒く光っていて、何回自分で見ても冷たい印象を感じる。


 男が刺した胸以外は普通の肌だが、胸は金属特有の光沢を発している。しかし、筋肉や骨格は金属のような見た目だが見てとれる。普通の金属と違う部分は、所々に薄ぼんやりと紅い光の筋が走っていることだ。


 四角い幾何学模様を描いているその光の筋は金属というより、機械的な雰囲気だった。


「俺は……こんな身体にしやがったJを、ぶちのめすために探してんだ! 早く取引の場所を言いやがれ!」

「こ、このッ!」


 折れたナイフを投げ捨て、男は今度は腹を狙って大振りな蹴りを仕掛けてきた。

 しかし、今度は腹を鋼鉄化させると、直撃した瞬間鈍い音がして男はまた悲鳴を上げた。もちろん俺は痛くも痒くもない。


「く、くそがァァァアアアアッ! なんなんだテメーは!」

「言え! 早くしないとぶっ飛ばすぞ!」


 男は小さく舌打ちをすると側に落ちていたナイフの破片を投げつけてきた。

 それを躱した瞬間男は立ち上がり、足を引きずりながらこの倉庫の外へ走り出す。


「逃してたまるかよ!」


 今度は俺の側にあった3m程の廃材の鉄骨を持ち上げて投げ飛ばした。男に当たり、カエルが潰れたような声を上げながら倒れ込んだ。

 ゆっくりと歩きながら近づくと、なおも男は血を吐きながら鉄骨の下から抜け出そうとしていた。その鉄骨を上から踏みつけ、男が動かないようにする。

男は振り返り、必死に俺を睨みつけている。


「これが最後だ。早く取引の場所を言え」

「けッ…。な、何が最後だ…。テメーが殺せるっつーのかよ…、んな度胸ねェ癖にイキってんじゃあねェぞ!」

「いや、殺せるぜ」


 尻ポケットに差し込んでいた拳銃を取り出し、男の耳の辺りに突きつけた。


「え、ちょ待っ」


 そのまますぐに引き金を引く。

 サプレッサーを付けているため、音はそんな大きいものはならなかった。男の反対の耳からドバドバと血が噴き出し、鼻血も大量に流れ出る。

 なんともあっけない遺言だったな。



 拳銃を元の位置に差して代わりにポケットからライターを出し、火をつけたまま放り投げた。

 火はあっという間に燃え広がり、どんどんこの倉庫がめらめらと燃え始めた。ここら辺にはあらかじめ油を染み込ませておいたのだ。男は恐怖で臭いに気づかなかったようだが。


 火をそのままに、俺は倉庫を出た。

 後ろでガラスが割れる音や何かが崩れる音が聞こえる。


「あいつが喋れば早く辿り着けたんだろーけど…。もうちょい冷静になるべきだったな、俺」








 今の一連の行動を見た限りだと、俺はただの犯罪者のように見えるだろう?


 その通り。


 俺は人殺しと放火をした犯罪者だ。それと拳銃所持。


 探してる男も麻薬とかいろいろ売ってるらしいが全く興味ない。

 俺は自分の為に行動している。


 ………いや、一つ訂正する。

 俺はただの犯罪者じゃあない。


 言うなら、俺は復讐者。

 自らの復讐を遂げるためにせいぎを執行する。






 ※※※※※






「………OK、見つけた」

『ホントに? 前もそう言ってただの手品師だったけど、今回はちゃんとあってる?』

「大丈夫だって! 今度は絶対あってる! 撮った動画送っとくから観て!」


 そう言って少女は通話を切り、先程撮影したあの鉄の男の動画を送った。

 すぐに『確保しておk』というメッセージが届き、それに加えて変なスタンプも来た。


「でも何も装備持ってこなかったし、捕まえるのはまた今度ね」


 男を攫う場面を偶然見つけて追ってきただけなので、少女は立ち向かえるようか武器は持ってなかった。


「それにしても面白い能力ね…。体を鉄、いや機械にさせる…?」


 少女はいろいろ考えたのち、少し笑った。

 そしてパチンと指を鳴らす。


 その瞬間、少女の姿は


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