異能戦線、異常なし

卯月みお

Case1:全ての始まり

 私が5歳の時、病院で「娘さんは先天性能力異常症候群ですね」と診断された事が運の尽きだった。

 ──先天性能力異常症候群。略称、CDS。

 この病気は生まれつきの物で、症状は「常人なら絶対にありえない能力を身につけている」事と「唾液などの体液にCDSの抗体を含む」事。

 ただし、能力によっては早いうちにコントロール出来るようにならないと、能力が制御しきれなくなって死に至る事もある、危険な病でもある。

 私が生まれる10年前、CDSの子供が生まれた事で広く認知されるようになり、能力は「異能」、能力を持つ人は「異能者」と呼ばれるようになった。

 私は幼稚園の健康診断でCDSの可能性を指摘され、病院で検査を受けると、案の定そうだった。


 診断がおりてすぐに両親の手のひら返しが始まった。それは5年もの間続いた。

 私の父はCDS──つまり異能者を排除する宗教「せき教」の教祖だ。

「異」を「しりぞ」けるという名前の通り、「神のおぼし召しに背いた罪深き人間を排斥はいせきする」を教訓として活動している。

 教祖の家に異能者がいては信者に示しがつかない。

 それから5年間は、地獄──いや、子供心には地獄の方がマシだと思えるような毎日だった。

 世間で「虐待」というカテゴリに入る事は、一通りされた。それも笑いながら。

 父は「これはしつけだ。どうしようもないクズのお前を躾けてやっているんだ」と言っていたが、「躾」は「身」を「美」しくすると書く。身が美しくなるどころか醜くなっていくあれは、どう見ても「躾」と称した虐待だったと思う。

 母は助けてくれなかったのか、と思うだろうが、母も父と同類だった。

 両親は教祖と信者の夫婦で、母は父のする事は全て正しいと信じて疑わなかった。


 10歳の時、珍しく父が遊園地へ連れて行ってくれた。私は1日、はしゃぎっぱなしだった。夢だと思う程楽しかった。

 1日が終わり、退園ゲートをくぐった後、車に乗り、遊園地を後にした。

 高速道路に乗り、30分程たったところで車はサービスエリアに入った。

 両親が買い物に行っている間、私はトイレに行ったが、トイレは列ができていた。

 その列に並び、トイレから出て車へ向かうと、そこに車はなかった。

 別の所に移ったのかと思い、駐車場をくまなく探したが、やはり車はなかった。

 私は幼いながらに理解した。

「捨てられた」と。


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