春と骨

鍋島小骨

一 骨

 まさかの骨折だった。

 もうその瞬間に折ったと分かった。

 桃の受粉作業をしていた脚立から落ちて変に手をついたとき、あからさまにヤバい音がしたし見る間に腫れ上がっていっそ殺してほしいくらいの激痛に襲われた。

 だからその時その場でクソ親父が私に何をほざいたかは、お母さんの車で運び込まれた病院の処置室に「曽根そねあやさーん」とか呼ばれて手当てを受けながら時差で認識した。


――いい加減な気持ちでやるからだ。隣の寺岡より下手くそじゃねえか、家の仕事もまともにできないんじゃうちに置いとく意味ねえぞ!


 ぶち転がしたい。あの親父が脚立から落ちりゃよかったんだ。

 もう、こんなところから逃げたい。

 どこかへ。

 どこかもう少し、背を伸ばして息ができるところへ。


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