田中和基の高校生日記

@satoshuu

第1話 登校

春。終わりと始まりの季節。


俺は嫌いだ。


なにかを始める時には面倒臭いことが多いから。大勢の人が浮き足立ってるから。空気がキラキラしてるから。


俺は、なんでもない普通の日常が好きなんだ。変化のない、惰性の日々が。


ー登校ー


「カズくーん、おはよー!」


4月9日(月) 晴れ。

中学を卒業し、束の間の春休みが終わって今日から高校生活がスタート。

そんな誰もが期待に胸を膨らませるような日だということをわざわざ俺に教えるかのようにハツラツとした元気な挨拶が寝ぼけた頭に響く。


「なんだその芝居掛かった声はよぉ。」


幼馴染の美彩だ。俺たちはコの字型の住宅街の奥に並んだ2軒のお隣さん同士。

小さい頃からよく遊んでいて、小学校からずっと同じ学校に通っている。


「いいでしょ。私の華の高校生活はもう始まってるの。初めから終わりまで理想を貫くんだから。」


「浮かれてんな。」


「そういうアンタは相変わらず無気力ね。」


「無気力なんじゃない。常にフラットなんだよ俺は。浮かれることも沈むこともない。」


「ふーん。物は言いようね。」


よく他人に「お前には感情はないのか」って言われることがある。もちろん俺にだって感情くらいはある。楽しい時は楽しいと思うし、辛い時は辛いと思う。けど、それは俺の「心の中」の問題だ。わざわざそれを誰かに分かるように、教えるかのように表現することは嫌いなんだ。


気持ちが悪い。


今だってこうして歩いている時、道には桜がすごく綺麗に咲いている。ほんと綺麗だ。


だけどそれを、


「わぁ!きれーい!ねぇ、カズくん、桜!」


なんて言葉にはしたくないんだ!

されたくないんだ!


「うん。」


大げさ。大げさなんだよ。本当に感動したなら言葉なんて出てこない。

もっと自分の中で浸っていたいはずだろ。


綺麗と感じている私を見て。

楽しいと感じてる私を見て。

涙を流している私を見て。

腹を立ててる私を知って。


人の「外」っていうのは、そんなしたたかさが感じられて気持ちが悪いんだ。

嘘くさくて、わざとらしくて、、、


純粋じゃない。


ああ、今日から高校生活が始まる。

自分を輝かせようと、

誰よりも「青春」しようと必死になってるキラキラした人たちとの生活が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る