第33話 二十九、天之日矛(あめのひほこ)の神話

二十九、天之日矛(あめのひほこ)の神話

●また、昔新羅の国王の子がいた。名は天之日矛と言う。

この人が海を渡って来た。天皇の国に渡来したわけを言えば、新羅の国にある沼があって、名を阿具沼と言う。

この沼の畔で、ある身分の低い女が昼寝をしていた。すると日光が虹のように、その女の陰部に射した。ある身分の低い男が居た。

男はその有様を見て不思議なことと思い、ずっとその女のことを密かに窺っていた。ところがその女が昼寝をしてから妊娠し、赤い玉を生んだ。男は密かに覗き見をしていて、女に頼んでその赤い玉を手に入れた。

何時もその赤い玉を物に包み腰に付けていた。

この男、田を山の谷間に作っていた。その田で働く人たちの飲み物を一頭の牛に背負わせて、山の谷間の入った所で、新羅の国王の子の天之日矛に出遭った。

そして国王の子、天之日矛はその男に尋問をした。「お前はどうゆう分けで、飲み物を牛に背負わせて山の谷に入るのか。

お前は牛を殺し喰うかもしれない」と言うと、男を捕まえて、牢に入れようとした。男は答えて、「私は牛を殺そうとしているのではありません。

ただ農夫の為に食物を送り届けているのです。」と言った。中々赦免をしないので、その国王の子に男は越に付けている玉を解いて、その国王に贈り物にしょうとした。

すると国王の子の天之日矛は身分の低い男を赦免し、その玉を持ちかえり、床の辺に置くと、玉は美しい乙女になった。

そこで天之日矛は結婚し妻とした。その女は、様々な料理に食べさせた。夫である国王の子は慢心し、妻を罵った。その妻は「だいたい私はあなたの妻になるような女ではありません。私は祖国に行きます」と言った。

そして人を目を偲んで小舟に乗り、逃げ渡ってきた難波に滞在をした。

天之日矛は自分の妻が逃げたことを知って、追いかけ渡来し、まさに難波に着こうとした時に、難波の渡りの神が遮って入れなかった。

そこで来た道を戻り、但馬の国に停泊をした。そのまま但馬に留まって、但馬の俣尾の娘の、前津見と結婚して生まれた子が、多遅摩母呂湏玖(たぢまもろすく)。これの子が多遅摩斐泥(たぢまひね)。その子が多遅摩比那良岐(たぢまひならぎ)。これの子が多遅摩毛理(たぢまもり)、次の多遅摩比多訶、次に清日子、の三人。

この清日子が、当摩の咩斐と結婚して生んだ子は、酢鹿諸男(すかもろお)、次に妹の菅竈由良度美(すがかまゆらどみ)。上に述べた多遅摩比多訶が姪の由良度美と結婚して生まれた子が、葛城の高額比、そして天之日矛が新羅から渡来し持参した物は、玉津宝といって、緒に貫いた玉二連、また浪振る領巾・浪切る領巾・風切る領巾・また奥津鏡・辺津鏡、合わせ八種である。●


☆天之日矛の神話・新羅のアメノヒホコと言う者がいて、この怪しい男が日本にやって来たわけはこうである。新羅の一つの国に名は、阿具奴摩といった。

この沼に一の人賤(しず)の女が昼寝をしていた。この時に日光の虹のような輝きが沼の畔に住んでいる女の陰部に虹が射し、それをまた一人の男がいて有様を不思議に思って見ていた。

何時もその男は女の行動を窺っていてた。

それがあってから女は妊娠をして赤い玉を生んだ、その赤い玉を賤しい男が女から赤い玉を得てたいそう大事に腰に付けていた。

この男、田畑を耕作人々にの食糧を一頭の牛に背負わせて谷の中に入って行くと、その国の国王の子に尋問され「お前はどうして食料を牛に背負わせて谷に入るのか、お前はこの牛を殺して喰うつもりであろう」と言って牢屋に入れてやると言いがかりを付けられた。

「いいえ私は牛を殺すつもりはありません、ただ農夫に食料を運ぶだけです」と言ったがアメヒホコは許さなかった。そこで仕方なく手渡してしまった。

国の子ノアメヒオホコはその赤い玉を床に置くとやがて美しい少女となっに姿を変えた。

やがて国王の子、アメノヒホコの妻となり、日々おいしい料理を作り、夫に食べさせた。次第にその夫は思い上がり、粗暴なふるまいとたび重なる暴言で愛想尽かして難波に逃げ込んだ。

「だいたい私はあなたの妻になるような女ではありません。私の祖国に帰ります」と言って密かに小舟に乗って難波に着くことが出来た。

妻が難波に逃げたことを知ったアメノホヒコはその後を追って海を渡り、難波に着こうとしたところ、海峡を渡る時神が邪魔をして難波に入ることが出来なかった。

また戻って但馬の国に留まって、アメノヒホコは但馬のマタラの娘のマヘツミと言う者と結婚をした。

生れた子がタジマモロスクである。

タジマモロスクの子がタジマヒネであり、タジマヒネの子がタジマヒナラキである。

このタジマヒナラキが三人の子がタジモリとタジマヒカとキヨヒコである。

このキヨヒコがタギマノヒメと結婚をしてスガノモロヲ、次に妹のスガクドユラドミである。

スガクドユミラが叔父のタジミマヒタカと結婚をして生んだ子が葛城のタカヌカヒメノ命である。


アメノヒホコが渡来して持参した宝物が、玉つ鏡・珠の緒が二連、波を起こす領巾・浪を鎮める領巾・風を起こす領巾・風を鎮める領巾・沖つ鏡・辺つ鏡・合わせ八種である。これら伊豆志神社に祭る八座の大神である。

気比神社にせよ伊豆志神社にせよ、新羅系の神々は日本海側に地域に多く鎮座する。

☆タジマヒタカが姪のユラドミと結婚して生まれた子が、葛城のタカヌカヒメノ命である。この新羅のヒホコについては明らかに渡来系の勢力が先住土着氏族との争いを意味するものと解釈されている。またその影響も朝鮮系の渡来人が出石地方に住みつき住民と土地争いをしたと思われている。そう言った事に付いては『播磨風土記』にも触れㇻている。この説話は大陸系の説話要素が考えられている。


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