第10話六、天の岩屋の説話

六、天の岩屋の説話

●天の石屋、誓約の後、何を誤解したのかスサノヲ神は「誓約は私が勝った」と得意満面になってアマテラス大神の田畑を荒らし回り、溝を埋めアマテラス大神の新穀を食する大嘗祭を糞で撒き散らかした。

当初はアマテラス大神はスサノヲ神をかばって「酒を飲んでやったのでしょう」と寛大に仰せられた。

その後、様子を見たアマテラス大神はその粗暴さは一向に治まる気配がなく、ある時、スサノヲ神の奇行に驚き機織者が驚き器具に陰部を突き刺して死んでしまった。

アマテラス神は見て驚き、恐れをなして天の石屋に引き籠り大きな石で閉めてしまった。これによって天上界も地上界も真っ暗闇になってしまった。

こうして夜ばかりの闇の世界が続いた。神々の騒がしい声が、万物の騒々しく広まり禍が蔓延していった。

そこで高天原の八百万の神が明日の安の河原に集合し対策を講じることになった。

知恵の持ち主オモイカネ神に思案をさせて、神々に役割分担を定め、手分けをし作業を開始をした。

天の長鳴鳥を集めて鳴かせた。また硬い小石を集めてその上に金床にして、天の金山の鉄を取って、天の鍛冶屋に鏡を作らせ、勾玉を作らせてそれを貫き数珠を作らせ、また天の男鹿の骨を用いて天の香山の樺桜の皮で骨を焼き占いさせた。

更に香山の榊の枝に勾玉の数珠を垂らし、その中程に枝に八尺の鏡を下げ、下の枝に楮の布と麻に布の祭具を垂らし、アメノコヤネ神が声を張り上げ祝詞上げ、アメノタジカラ神が石屋の傍らに控え、アメノウズメ神が香山の日影蔓蔓(ひかげつる)を襷(たすき)に、様々な草花を身にまとい、天の石屋の前に置いてある伏せた桶を踏み鳴らし、踊りに陶酔(とうすい)、乳房を露わにし、衣の紐は陰部まで垂らした。

すると高天原の神々は震動し、八百万の神はどっと笑い歓声を上げた。そんな外の様子に天の石戸をそっと細目に開けて「天上界は闇の世界なのに、どうしてアメノウズメ神が舞、踊り八百万の神たちは笑っているのか」そこでアメノウズメ神が「あなた様より貴い神がお出でになったので、喜んで舞い遊びをしてる処です」と答えた。

そこに待ち構えていたアメノコヤネ神らが鏡を差出しアマテラス大神に見せた所、自分の顔が写って不思議に思って、そーと戸口から出た所を、密かに身を隠していたアメノタジカラ神がアマテラス大神の御手を持って引き出した。

こうして石の岩戸から出たアマテラス大神のお蔭で高天原、葦原中国は日が射して明るくなった。

八百万の神々は集まって協議し、スサノヲ神を髭(ひげ)と爪切り、罪を祓わせて天上界から追放をした。

天の岩屋の情景の舞踊はエロチックな性描写が窺える。

スサノヲ神の天上界を荒らし、横暴な事柄への制裁は厳しいものであった。

体罰と追放は神々の掟破り対する罰則かも知れない。

 また天の岩屋の前でのアメノウズメ神の演舞は、妖艶、エロチシズムを女性であるアマテラス大神を気を引くためにしたのか、楽器の様なものと装飾豊かに音曲を賑やかに神話の世界にも俗界に通ずるものが有った。●


★天の岩屋の説話・誓約が終わってスサノヲ神はアマテラス大神に「私の心が潔白だったから女神を成しえた。だから誓約は私の勝ちです」と言って、アマテラス大神の作る田畑の畦道を潰し、水路の溝を埋め、アマテラス大神が食する新穀の大嘗祭の御殿に糞をを巻き散らした。

そんな酷いことにもアマテラス大神は黙認し「弟は酒を飲んで酔っ払ってやったこと」と聞き流し、咎めることをしなかった。

アマテラス大神の黙認を良いことに、ますます増長し横暴を激しくなって行き止まる事が無かった。

アマテラス大神が聖なる服織家で祭りの神衣を作らせていた。その服屋の屋根に穴を開けて、天の斑馬の皮をはぎ尻の方から落とし入れた。

服織女がそれを見て驚き、機織具の棒に陰部を突いて死んでしまった。この有様を見てアマテラス大神は恐れをなして天の岩屋の戸を引き籠ってしまった。

この為に天上界から地上界の葦原中国まで真っ暗闇になってしまった。

こうして夜ばかりの暗闇の世界に不吉な事ばかり続いた。

万物の災いに八百万の神々が安の河原に集まって話し合いが行われ、高御産日神の子の思金神に思案をさせ、天の鳴鳥に鳴かせ、天の安の河原で金床用に金山から鉄を取って、鍛冶屋の天津麻羅を呼び寄せ、伊斯許理度売命に命じて鏡を作らせた。また玉祖命に命じて大きな勾玉を多数作らせ一連の数珠状に作らせた。

天児屋根と布刀玉命を召して、男鹿の肩甲骨を天の香山の樺桜の木の皮で骨を焼いて占わせ、香山の木々の枝葉の繁った榊を抜き取って、上の枝には大きな勾玉の連珠を着けて、中程の枝には八尺の鏡をかけ、下の枝には楮の布の祭具を垂らし下げた。これらの品々は布刀玉命が立派な捧げものとして奉り、天児屋根命が立派な祝詞を述べて、天手力男神が岩戸の傍らに隠れて立った。

また天宇受売命が香山、日影蔓を襷にして、鬘草を髪飾りにして、香山の小竹の葉を採り束ね、天の岩屋の戸の前に桶を伏せて踏み鳴らして神が乗り移った状態、乳房をあらわにに出して、下衣を陰部まで垂らしたしぐさに、八百万の神々がどっと震動せんばかりに笑った。

この様子を隠れていたアマテラス大神は不思議に思い岩戸をそっと細めに開け声をかけられた。

「自分が籠っているに、天上界から地上界も暗闇なのに何故、天宇受売は舞踊り八百万の神々が笑っているのか」と言われた。

その時すかさず、あの御鏡をアマテラス大神の面前に差し出した。

すると自分の顔が写っているのを不思議に思い、そろりそろりと戸口から出られた時に、戸の傍らに隠れていた手力男神が御手を取って力いっぱい引き出した。そして布刀玉命がアマテラス大神の後ろに回って石屋の前にしめ縄を引き渡し「これで石屋に戻れません」と申し上げた。

アマテラス大神が神々の前に姿を現すと、高天原と葦原中国に光が差し込み照り輝き明るくなったのである。

そこで八百万の神々は協議し、スサノヲ神を多くの財産を没収し、髭と爪を切り取り、罪を償わせて、天上界から追放をした。


☆天の岩屋の場面は神話を語る代表的な説話である。アマテラス大神が太陽神としての威光と偉大さを強調する『古事記』の説話の表現である。また天の岩屋の前での様子を詳しく述べられており、古代社会での神々をまつる儀式を推測する上に重要な記述である。  

また天上界の神々の日々の営みが天の安の河原を中心にして描写されており、天上界の香山から全ての品々が調達され、特技を持った神々に召集をかけられ、舞踏の様子を伝えている。

少々性描写も有って、アメノウズメ神の芸能は古代に通ずるものがあると推測される。 

天上界から糾弾されたスサノヲ神は地上界に追放された。


●天の岩戸の説話の設定・

アマテラス系の正統性を裏付けの場面設定である。

天照大御神が天の岩屋に隠れると天上も地上も真っ暗闇になった。その意味は天照大御神が宇宙の中心の太陽を意味し、絶対的存在を意味するものである。

また『古事記』に出てくる神話の世界に代表的場面で、天照大御神が太陽としての中心的存在の強調と、昼間に暗闇になる場面が日食現象に、古代の人々はその神秘な現象に畏敬と恐怖と恐れに古代の王権の畏怖を重ねあわせたものかも知れない。

天照大御神が乱暴者のスサノヲ命に絶縁する場面は天上界から追放され、地上界に国津神の棲み分けのスサノヲ命と天上界に君臨する天照大御神の決別であった。

それは高天原の皇統の天津神と出雲の国を拠点する国との戦いの決別で、以後国作りに出雲地方を基盤に勢力拡大するスサノヲ命系の国津神系の神話が展開されて行く。

また岩屋に閉じこもった天照大御神の誘いだしに、高天原の神々の演出は、はなはだ地上界の世俗的な振る舞いであった。(特に陰部露出など性的表現も神々に通じる舞踊りであった)

神話の神々の装いにも趣向を凝らし、奇抜な祭事の所作などは古代の儀式に通じる所があるのではないかと思われる。

この天の岩戸から天照大御神を出てもらうための工夫を凝らした、アメノウズメ神が舞踊り、桶を踏み鳴らす所作は宮中で執り行われる鎮魂祭と、その一部とする大嘗祭を意味する、その後の天皇の即位の国家最大の行事に繋がり踏襲された祭典ではないかと思われる。


★登場者

◇思金神=『記紀』の神話に出てくる高皇産霊神の子、アマテラス大神が天の岩戸で一計を案じて誘い出した知恵の神。

◇天児屋命(あまのこやね)=神話で興台産霊の子、天の岩屋の前で、祝詞を奉じてアマテラス大神を出現に祈った。天孫に従って降った五部神の一人で、その子孫は代々朝廷の祭祀を司った、中臣、藤原氏とされている。

◇天宇受売命=『古事記』では天宇受売命と表記、『記紀』神話にアマテラス大神の天の岩戸の前で神がかりで踊った女神。天孫降臨では、天の児屋根・大玉命・などと地上界に降った。また猿田彦を鎮座すべき所に送って行き、子孫を猿女君といった。

◇伊斯許理度売命=『記紀』の神話に出てくる、天の岩戸の時に鏡を作った神、鏡造り部の遠祖。五部神の一神。

◇天手力男神=腕力、筋力など力の強い男神。

◇玉祖命=天の岩戸の際に勾玉を作った神。玉祖連の祖。

◇布刀玉命=天の岩戸にアマテラス大神を出す際に鏡を差し出した神、また占いの神、ニニギ神に落とし降臨した際にお供した神。

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