ダンジョンチェイサーズ!
ながやん
第1話「プロローグ」
魔王が率いる軍勢との戦いには、百年戦争という名前が付けられて久しい。列強各国は多くの勇者と騎士団をもって、終わらぬ戦いに終わりを探していた。
だが、民が求めたるのは遠い平和ではない。
多くの者達が、危険な娯楽で恐怖を忘れる。
そして、かつて地球と呼ばれた星に……鋼鉄の獣達の
「よぉ、カレラ。久しぶりだナ」
やや軽薄な男の声に、カレラ・エリクセンは振り返った。
山の夜風に、ふわりとツインテールの髪が揺れる。
腰に両手を当て、カレラは愛想の良さそうな男を間近に見上げる。
豊満に過ぎる身体の曲線美に反して、彼女は酷く小柄な
「あら、サバンナ。弟さんの応援?」
「そんなとこサ」
サバンナと呼ばれた長身の
「今日も大盛況だねえ……今日はチャンプがコースレコードを更新するって言われてるのヨ」
「それくらいやるでしょうね、あいつなら」
「ねー? それでサファリの奴、今日はいつになく気合が入っててサ。あいつ、現時点でのレコードホルダーなのヨ」
サバンナと二人並べば、自然とカレラは視線を集める。
月夜の晩、山道には多くの
見上げれば、凍えた空気が爆音に震えている。
連なりもつれ、絶叫にも似た音が降りてくる。
それは、この時代の最高にして最強の娯楽……限られた者達のみが踊る、超高速の
高価な文明の利器で今、滅びに瀕した人間達は狂気の夢にまどろむ。
それは、ハイエルフのカレラも同じだ。
「お、おい……あれ、カレラ・エリクセンじゃないか?」
「隣の男は、バラム兄弟の兄、サバンナ・バラム!」
「なってこった、
「このバトル、やっぱただ事じゃないぜ」
「っしゃ、来た! 来たぜ、来た来たァ! 降りてきやがったぜ、頭はどっちだ!」
かつて、魔王軍が支配していたこの場所は『
同時に、
今も、とある男がサバンナの弟と戦っている。
熱狂と興奮の中、激しいスキール音を
「頭は……チャンプだ!
「ハンパねえええええっ! おいそこ、どけぇ! インを空けるんだよぉ!」
闇夜を切り裂く、その閃光が突き抜ける。
黒い車体が、横滑りにヘアピンカーブへと突入してきた。
スカイラインGT-R……文字通り、空を切り刻むが如き軌跡が熱風を巻き上げていた。
だが、コーナーのイン、それもクリッピングポイントの前に立ってカレラは動かない。
サバンナも同じで、コーナーリングの最短コースにある一点に立ち尽くした。
「……
「だな」
多くの言葉はいらない。
そして、
チャンプのGT-Rはは鼻先をカレラ達に擦り付けるようにして、そのまま走り去った。四つのタイヤが
少し遅れて、緑色の車体が同じラインをトレースしてゆく。
サファリ・バラムも同じ
「ありゃりゃ、こりゃあサファリの負けだネ。あー、負け負け!」
「サバンナ、確かサファリのGTOは」
「そーよ? 今日のバトルに備えてカリカリチューンなのよネ」
「……あの音だと、600馬力は出てるわ。よくこんな狭い道で飛ばすものね」
「だろ? あいつはあいつで凄いのヨ。あんなデカくて重い
「そうね。彼が弱い訳じゃないのよ……チャンプが、強過ぎる」
カレラ達は知らない。
GT-RがR34と呼ばれた型式で、かつては地上の戦闘機と呼ばれた公道の
この時代、龍走騎は全て高価な発掘品だ。
そして、その心臓部が内燃機関だったとは、誰も知らない。
今は石油の存在を忘れた世界なのである。
「さ、じゃあ私は帰るわ。少しは楽しめると思ったけど」
「あら、そう? ならカレラ、ちょっと俺の隣に乗ってかない? FTOで送るヨ」
「お
観客達もぼちぼち、帰り支度を始めた。
だが、この興奮にあてられた何人かが、自分の
チャンプの情熱が温めた道を、彼等は余熱を拾うように降りてゆく。
カレラもサバンナと分かれて、停めてある愛車へと歩み寄る。
その時、夜気を切り裂く悲鳴と絶叫が迸った。
「モンスターだっ! デカいぞ、逃げろぉ!」
街道同士を繋ぐ場所とはいえ、まだまだ町を出れば……そこはモンスターが
何人かが剣を抜く中、カレラもその手に魔法の炎を呼び出す。
そして、運命が彼女の前を通り過ぎた。
鮮烈過ぎる程に、
カレラは気付けば、その音を追って首を巡らせていった。
「今のは……? っと、それよりサバンナ! モンスターよっ!」
「やだねえ、ったく。ま、こんな場所じゃバトルの
サバンナも腰の剣を抜く。
カレラがそうであるように、彼もまた
売り買いでは限界があるため、大半の者が冒険者となってダンジョンに挑むのだ。
この
「サバンナ、回りの連中を誘導して
吼え荒ぶのは一つ目の巨人、サイクロプスだ。
迷わずカレラは、光の魔法陣を広げて呪文に集中する。
だが、先程の白い
鮮やか過ぎて、網膜に焼き付いた姿は優美だった。
「でも、ちょっと見ない
かざした手から烈火が
真っ赤な炎でサイクロプスを包み、その断末魔を聴きながら……カレラは改めて振り返る。周囲の騒ぎが収まりつつある中、先程の甲高い音は反響のみを残していた。
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