第47話:サンドボア狩猟03
「そんなことより、サンドボア! ヤバい、しがみついているだけじゃおいしく召し上がれない」
もう何キロと勝手に走り回っているというのに、全くもって疲弊する様子を見せないでいる。
長期戦はむしろ、私が疲弊するだけになってしまいそうだ。
「ではヒントを。サンドボアの足は硬い筋肉で出来ていますが、皮膚は非常に薄いです」
「おお……つまり本当の意味での”足止め"を一発喰らわせれば、ひとまず暴れ回られる状況は止められるとっ……!」
「ただ、サンドボアの皮膚は鋼鉄のちょっと硬いくらいの硬度があります。ただ殴る蹴るの暴行を仕掛けたところで、痛い目を見るのはリヌリラだけです」
「じゃあ、結局のところは打開策はありませんというオチ? ルーミル、私がまだサンドボアを倒せる実力がないことを知ってて、わざと無理難題な課題を突きつけたってこと……!!」
「ふふ、さあて。実力の限界を決めるのは私ではありませんので。そこは、ご想像におまかせしますぅぅぅぅぅ~~~~」
ルーミルはそう言うと、旅路花の素材を更に力として行使し、パラソル片手に空高くへと飛んでいってしまった。
「うへぇ……どうしよう。今夜の夕食どころか、今日無事に生きて帰れるかが本当に心配になってきた。大丈夫かな、私……」
高速で思考し、高速で執行しないと状況を変えられずに死を迎える。
相手が悪魔でなかったとしても、その条件というのは変わることはないのだろう。
自然の中では、毎日平等に生き物が消費する。
消費するからこそ、空いた胃袋に何かを埋める。
強いものが弱いものを狩る。
自然に法律なんて通用しない。
――誰が強いか、そして弱いか。
私は今、自身が弱いという気持ちになってしまっているが故に、いかに上手に危機を回避しようかという思考になってしまっている。
高速で思考が出来なかったが故の妥協策。
足の速いチーターを前に逃げ出すシカと同じ。
「……だけど、勝機は残されている。ルーミルが私を一人にするということは、私に勝てる可能性があると信じているから」
ハナを殺すという最大の目的を掲げている私であり、その目標に向かって生き続ける毎日を一生懸命に支えてくれるルーミル。
ハナが私たちの時代で復活を出来ないように、この時代できっちりとケリを付ける。
それはルーミルと私とでの明確に交わした意思疎通、ツーカーを超えるピーツー。
ここで私が死ぬことは、私たちにとっての共通の不利益。
そして、私がこんなところでイノシシに喰われてしまうなんて、ハナですら望んでいないだろう。
「ぶぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!!!! ぶぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」
「ああ、サンドボア、随分と元気じゃないか。私の血と肉はそんなに美味そうか? 普段は肉しか食べない私で有名だが、ここ数日は野菜しか食べていないから、あっさりとした淡泊な味わいしか楽しめないぞ」
左手に持ったファイブレードを背中に突き刺し、ガリガリと皮膚を削って外傷を与える。
背中の皮膚が分厚いサンドボアにとっては、湿疹を掻いてもらって気持ちいい程度だろうが、それはあくまでサンドボアにとっての副産物でしかない。
「私が欲しかったのは、サンドボア自身の皮膚……」
皮膚が硬くて攻撃が出来ないのであれば、その皮膚を素材として使ってしまえばいい。
鋼鉄を砕くには鋼鉄を。
矛と盾をぶつけて壊す、矛盾の論理を指し示す。
私は、サンドボアの皮膚を循環ポケットの中へと入れていき、素材の効果が生成されるのを待ちながら、バッとサンドボアの背中から降りて空中を下っていく。
「ぶぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」
「隙だらけに見える? 私がお前の背中から降りたから。ようやく口の中に入れられるって?」
砂漠の大地を蹴り、空中を掛け、私の目の前へと顔をやり、本気の形相で牙を私に刺そうとヤツは試みる。
だが非常に都合が良い。
お前は頭に血が上っている。
妄想?
いや、確信だ。
「私以外のものを視界に入れられていないお前に待っている末路……それはっ……!」
サンドボアが私目がけて噛みついてくる。
私は瞬時に右へと移動し、突進の勢いを受けないように回避する。
すると――
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