第46話:サンドボア狩猟02

「リヌリラ。そういえばファイブレードは使っていますか? なんか全然出番が無いじゃないですか?」

「……ああ、ファイブレード。ファイブレードね」


 ファイブレード。

 一見かっこよさそうな名前に聞こえなくもない武器の名前だが、これ、私が数日前に刃物商で買ってもらった剣鉈……

 一応、アジア人が『猟牙(りょうが)』っていうそれっぽい名前つけているというのに、ルーミルが、どうせ五セントですから、ファイブにあやかって『ファイブレードにしましょう』と言ったのが、ことの始まり。


 五セントと呼ばれるのは嫌だ?

 でも剣鉈を買ったのは私ですから、名前を決める権利は私にありますよね?

 じゃあ、ファイブレードですよね?

 ……という言葉責めに負けてしまい、現状の名前に至った。


「知っているとは思いますが、武器にも超循環の力を注ぐことが出来ます。リヌリラの得意武器がナイフであるというのなら、超循環の力と合わせることで、より強力な戦闘スタイルとなり、活躍することが出来るでしょう」

「うーん、まあ、そうだけどさ」


 ナイフを敵に使う場合、トドメを差すときに喉元や心臓部を攻撃、火打ち石を削って着火、木に目印を削ったりするとかで、実のところルーミルが期待するような使い方というわけでもないんだけどね。

 刃物商にナイフをよく乱暴に使うといっていたのは、寝床を見つけるときに穴を掘ったり、投げて奇襲するという用途外の目的で使うことがほとんどだし。


「昔の軍隊の兵士は、ナイフ一本片手に敵と戦うこともあると聞きます。リヌリラの手慣れ具合に要期待です!」


 ほら、ルーミルが完全に妙な期待をしてる。

 私がシュパパパスパァァァンなファンタジーチックなアクションすることに期待してる。


「どうしたものかなぁ……」


 皮が厚ければ刺しても意味ないし、体内に毒を仕込むこともできない。というか、毒で倒せば肉が不味くなる。

 強引に無茶をしようものなら、最悪、剣鉈が折れてしまう可能性が高い。


 しかし、ルーミルが唐突に武器の話をするにも理由があるに違いない。

 見た目の敵に惑わされず、より高速思考で動きを決めろというのがルーミルから言われるキャッチフレーズだ。


「ならまずは、近くで改めてご挨拶しないとね。私は淑女だから、社交性あふれる性格なんだ」


 私たちに食いついてくるサンドボアの猛攻を避けながら、空中を蹴り落下していく。

 しばらく野菜しか食べていないおかげで、胃への負担が少なくなり、空中回転側転ひねりと高得点が入るアクロバットを次々と披露できている。

 体操の審査員が偶然サンドボアの巣くう砂漠のど真ん中を散歩していなく、残念でしょうがない。


 空中滑空は宇宙遊泳に近い感覚なので、回転行為自体に抵抗がなければ、意外と簡単に出来るのは都合がいい。

 空中を蹴り、反時計回りに弧を描きながら少しずつ接近し、最後はファイブレードを背中の皮膚に刺しつけてサンドボアの背中に到達。

 がっしりと体毛にしがみつきながら、振り落とされないように両手に力を込める。


「ああ、この独特な体臭と毛並みは私の知ってるイノシシと同じ。お前が私の時代に生息するミニマムサイズのご先祖様か……!」


 激しく砂漠の上を走り回るそれは、見た目もサイズも全くもって私の時代には存在しない異例的モンスターのそれだが、直感はどこか馴染み深さを感じるほどに、初めて会った気がしない愛着感がある。


「ぶぅぉぉぉぉぉ……ぶぅぉぉぉぉ……ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅお……!!!!」

「そうかそうか、振り落とす素振りで照れ隠しをしている。もしかして女の子に触ってもらうのは初めてかな? ふふ、うぶで可愛いところがあるじゃないか」


 後ろ足を大きく上げ、胴体を動かし強い揺れを生み出して振り下ろそうとしているが、私のイノシシへの(肉体的な意味での)愛は、そう軽いものではないぞ。

 意地でもしがみついてやる。

 その身が朽ち果てるまで、永遠と。


「リヌリラ、なんだか乗馬をしているみたいで楽しそうです」

「地面に落ちれば衝撃で砂漠の中に埋まり込んで窒息するスリルがあると思うと楽しくてしょうがない。ルーミルと代わってあげたいくらいにね……!」

「私は小さい頃、授業の自由選択で、射撃を専攻していましたから乗馬はちょっと。それに、その豚野郎……ちょっと臭いがアレですし」


 ピンポイント女子ぃなぁ……

 どうりで、旅路花とパラソルを使ってサンドボアから一定距離あけながらしか近づいてこないわけだ。

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