第5章-サンドボア狩猟祭編-
第38話:数日後のこと
……
……
数日後――
南南西、イデンシゲートの境目
「はぁ、はぁ、はぁ……つ、強い……!!」
「ははは……このヤキュに勝負を挑もうとは、なんと愚かな人間だ。永遠なる猛毒で苦しませて殺してやろうか」
「ちっ……まだ猛毒を仕込んでいるのか、厄介ね……」
殺したいのに殺せない、地団駄を踏むというのはこういうことか。
超循環士として悪魔を殺す訓練をして数日後のこと。
本日、危険度・低と発表された南南西のイデンシゲートに来ており、セーフエリアの開拓に挑んでいる。
いつもと同じ要領で、付近の悪魔を蹴散らして、イデンシのタコ壺を設置。
二十五分ほど、それなりに力を行使して、タコ壺防衛に励む。
そして、最後の五分で強めの悪魔が登場。
名前はヤキュ、猛毒を体に取り入れて人を殺す厄介な悪魔。
体がどろどろで打撃が効かず、むしろ攻撃のさなかで被弾した敵の猛毒があちこちに触れて、指先や関節が少しずつ悲鳴を上げている。
ルーミル曰く、敵は毒そのものなのだから、解毒素材をぶち込めばいいとヒントをくれるも、そもそも私は細かな化学の知識なんて持ち合わせていないので、適当の素材を集めては攻撃しを繰り返すものの、なかなか敵がひるまずというジリ貧の状況の中で戦い続けている。
「くっ、ど、毒って相当苦しいんだね……頭が回ってクラクラしそう」
「その程度なら、ランクとしては軽微ですよ。体のあらゆる場所から液体を吹き出し、麻薬を摂取したように脳が混乱する劇薬を持つ悪魔も存在します」
「うげ、やばっ……絶対に近づきたくない……!」
「まあ、私が過去に抹殺していますので、そいつに遭遇することはないでしょうが……亜種がいたらまた会えるかもしれませんね」
そんな偶然の出会いなんて嫌だ。
私は女子を捨ててまで体の体液をぶちまける自信はないぞ。
「ほらほら、そんなことより今回はそこの悪魔が相手です。私なら十一秒で倒せますが、リヌリラには六分以内で倒してほしいところです」
「ろ、六分ったって、もう四分経過したんでしょ? 敵にダメージが入らなすぎて、ジリ貧過ぎて泣きそう……」
「今晩の夕食がもやし炒めになるか、チキン南蛮になるかはリヌリラの頑張り次第です」
「うぇぇぇぇ……」
一瞬、ルーミルが悪魔に見えてしまうほどに、強烈な条件を突きつけてくる。
肉が好きであると宣言したからこそ、褒美の格差を大きく付けてきたのだろう。
「ほら、ヒントです。毒はそれぞれ解毒作用のある成分を使わなくてはいけませんが、超循環の素材を使えば、強力な消毒素材を生成して消しさることが出来るんです」
「ひ、非科学的な消毒液を作って、化学云々とか無視して、強引に解毒しろって……?」
「さて……リヌリラは、なんの素材を使いましょうか?」
ルーミルはセーフエリアの内側から、ニッコリとした表情のままに私に問いかけてくる。
一人立ちが出来るようにと、一切の物理的サポートを入れずにいる。
壺を守りながら敵の攻撃をかいくぎりながら。
あちこちに擦り傷や怪我をしてしまいながらも、なんとか悪魔を殺していく。
以前は一切無傷で戦えたので楽勝じゃんと思っていたが、ルーミルがいないと、こうも難易度が上がるのか。
流石に悪魔を舐めていた。
「そ、そういえば……あのヤキュが先程から無意識に避けているエリアがあったような気がする」
ヤキュが歩いた後には猛毒の液体が垂れ落ちている。
先程からワチャワチャと戦っていたこともあり、大惨事と言えるレベルに辺りが紫色の猛毒まみれ。
ただ、その中でも一片だけ猛毒に染められていないエリアがある。
そう……真っ赤に染まる雑草のエリア。
前方十メートル先、やや右側。
「あそこに行こうとすると、なんかヤキュが邪魔してきたような気がするんだよね。触ると猛毒が掛かっちゃうから、無理して行こうとしなかったけど」
「悪魔も素材の価値は十分に理解しています。だからこそ、自分たちにとって不利にならないような行動を取ります」
合理的というかなんというか、やはり人間並みのズルさも持ち合わせているのか。
心理戦が重要になってくるな。
「ははは……答えがわかったところで、俺がテメエを『抗強烈草(こうきょうれつそう)』の場所まで行かせるわけがねえだろう?」
「へぇ、あの草の名前、そんな風にいうんだ。知らなかった」
私は悪魔の煽り文句に耳を貸さず、その抗強烈草とやらに向かって一直線に駆けていく。
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