第23話:誤ウイング・ゲロイン
一時間後――
「さぁて、リヌリラちゃぁん。キレイキレイできまちたね~♪」
「う、うぅ……」
強引なままにルーミルに押さえつけられ髪の毛をとかされている私。
普段使わないような花の香りがするシャンプーで根元の方までゴシゴシされて、さらに別の花の香りがするトリートメントでケアされた。
おかげで、いつもとは違うサラサラの髪の毛に違和感を強く感じてしょうがない状況でいる。
「お洋服かわいいでちゅね~、まるでお人形さんみたいだよ~♪」
「そ、その……スカート短いし、靴下は別に履かなくても……」
「それは西洋の衣類の一種でニーハイソックスと言うんでちゅよ~お膝までしっかり覆って可愛いでちゅね~」
「……なんかちょっと歩きにくい。膝当てにはなるかもしれないけれど」
(無理やり)着せられた衣服ではあるが、破れにくい生地、通気性の良さ、手足を自由に動かしやすい構造、関節の部位に薄いカーボン製のシールドと、確かに機能性は優れているようには感じる。
一応は軍服のようだし、性能は保証されているのは一安心だけど、胸元にリボンがあるのと、や、やはり短めのスカート……ちょっと恥ずかしいし、すーすーする。
「そ、そのルーミル。これやっぱり恥ずか……」
「お姉ちゃん」
「ルーミ……」
「お姉ちゃん」
「……お姉ちゃん、これちょっと恥ずかしい。ズボンとか無い?」
強引にお姉ちゃん呼びを強要するルーミルに、恐る恐る衣服のお願いを懇願すると。
バチィン……!
「…………!???!!!????!?」
突然、ルーミルが私の頬をビンタしてきて、倒れ込んだ私の前で仁王立ちしてこういった。
「戦場のおしゃれは……女性に許された最後の人権だっ……! お姉ちゃんはねっ……! せめてあなたに可愛いままに死んでいってほしいの!」
「死にに行くわけじゃないんだけどねー」
「お姉ちゃん、わかっている。リヌリラは本当は女子女子したいんだけど、なんか狩人とかしていた所以もあって、なんとなく女子女子したい気持ちをノリに乗じて言えなかっただけなんだよね?」
「女子女子したいの意味もわからない上に、妄想が多くて色々と酷い」
「本当は香水とかもつけてあげたかったけど、今ちょうど切らしているの。新作が出るのを待ってたら既存ストック無くなっちゃって」
「香水は狩猟するときに動物たちに気づかれやすくなるから使ったことなくて」
「……なるほと、これは重症ね。圧倒的に女子力が低い」
「おまえの方が重症だ」
なんだこの突然のコント大会は。
先ほどまでの真面目キャラ性能はどこへいったのか。
よそ様からしたら、確実にキャラが定まっていない適当な人に見えるぞ。
ベッドに押さえつけられている状況の中で、私はテーブルの上に置かれたとある大量の缶に注目した。
『麦ソーダ、アルコール度数十六パーセント』
「……ああ、なるほど」
朝から飲む人だったのかー。
そういえば、朝起きたときからルーミルの体からお酒の匂いがしていたけど、モーニング飲酒していたのかぁ。
別にお酒は夜にしか飲んじゃいけないというルールはないけど、朝から飲む人というのも滅多にいないから驚きだ。
先程まで別に普通に接することが出来ていたというのに、私に対する熱が上がって理性を失ったというのか。
なんだこの小説のような狂った覚醒の仕方は。
「うぷっ……あ、ごめんなさい、リヌリラ、良い?」
「ちょ、良いって何? 何をする気!? というか、何を出す気!?」
無理矢理抱きつかれている中で、彼女の胃がごぽっとざわめいたことに私は気づいた。
あ、やばい。
この後どういう運命を辿るか概ねの予想が付いた。
「うぶっ……あ、いける。生まれそう」
「その出産は確実にお口の方から生まれるタイプ! いいからトイレで出してきなさい!」
「ひっく、リヌリラも一緒に行く?」
「……お願いだから、一人で行ってきて」
「やだ、一緒に行きたい」
「ううん、一人で」
「一緒に」
「一人で!」
ルーミルの拘束を振りほどきながら抵抗し続ける私だったが。
「('ー')」
この、一瞬の悟りの表情を見た時点で、私は運命を受け入れることにした。
うん……なんか、さようなら。
今日はいいことあると良いな、きれいなお花さんたくさん積んで、輪っかをつく……
「うぶっ……げ……」
ーカットー
……
……
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