第18話:リヌリラVSルーミル・終演
「その煙が、邪魔ですね……せめて、これ以上炊かれないように……!」
バシュン……! バシュン……! バシュン……!
バシュンバシュバシュンバシュン…………!!!!!!!!!!!
ルーミルは空中から水たまりに向けて熱烈草の弾丸を放ち、わずかに残っていた付近の水たまりを蒸発させた。
私の近くだけじゃなく、四方八方あらゆる地点で目に見える水分へと弾丸を放ち、再び私が同じ作戦に出られないようにしている。
「ふぅ……これでリヌリラの奇策を再現する術を防ぎました。残念ですね」
「くっ……なんて強引な手法。ルーミルのイメージと合わない」
「あと数秒もすれば霧は晴れます。その時、特大の攻撃を与えましょう」
ルーミルは霧の中にいる私を探すことに集中している。
ギロリと強い目つきで探すそれは、ネズミ一匹逃すまいという凄まじい集中力のように見える。
のこのこビビって霧の外に出てしまえば、瞬時に弾丸を撃たれて終わるだろう。
しかし、私だって馬鹿じゃない。
霧の中を探されるなんていうのは、野生の生物だって予測できる。
だから私は既に”そこ”にはいない。
どこにいるか? それは簡単――
「私はルーミルの更に上でゲンコツを構えているんだァァァァ……!!」
「……えっ!!!?」
煙の中で旅路花を拾い集め、弾丸を発射しのけぞった瞬間から上空へと移動していたのだ。
とっさにルーミルが上に首を向けようとするがもう遅い。
私のゲンコツがルーミルの背中に直撃し、ズドンと真下に落下した。
すかさず私も一気に重力をかけて落下する。
一撃目は入れられた、後はもう一撃っ……!
「…………っ!」
「くっ、げほ……さ、流石に今のは予想外でした。そういえば、狩猟生活長かったんですものね……」
砂まみれになりながらも、急接近した私に対して右手を差し出し攻撃を構えている。
「ふふ、この素材……なんの力か教えましょう。これは先ほど落としたマグマの素材の一部を使って生成した粘り火炎という素材です。当たれば最後、骨まで溶ける強烈な液体が体に付着し、振り解けることなく絶命へと招く強烈な素材です」
「うわぁ……刺激的」
「これは訓練なので、本気の殺意なんてものは一切ありませんが、今後の戦いのことを考慮して、一度は激痛に耐える訓練も必要かと思いましてね……ふふふ」
「も、もしかして……ちょっと怒ってる?」
「いいえ、怒ってないです。熱が入りすぎたというのが正しいでしょうかね」
つまり、私に対する対抗心がエグいと。
「とりあえず、今回は私の勝ちですね。しかし、リヌリラも十分頑張りました。攻撃は一度しか当てられませんでしたが、期待以上の行動を私に見せてくれましたから」
「うぐっ……!」
ルーミルは言うと、私の胸元を掴んで荒野の壁際まで強引に叩きつける。
これはなんの素材で、どうやって私を叩きつけたのだろうか。
教えてもらいたいところだけど、状況が状況じゃなさそうだ。
「痛み訓練。大丈夫、苦しいのは十分程度です。後でちゃんと治療しますから」
ルーミルは猟奇的言葉をニッコリとした表情で言うが。
「……で、でも、良いのかな? 勝負って、まだ終わっていないんでしょ?」
「はい? 焦らしは嫌いということですか? すぐに終わらせてほしいのですか?」
私はニヤッと笑うと。
「フィンガーシールド。さっきルーミルが使ってたメヌリ樹液。壁際で当てれば私に当たらず跳ね返って、ルーミルにあたっちゃうけど大丈夫?」
「ふ、何を。シールドの効果なんて一時的なもの。効果が消えたと同時に私の攻撃を撃ち込んでおしまいです」
「さて、どうかな?」
「えっ……?」
私はちらっと足元を見る。
ルーミルもつられて同じ場所を見て驚く。
「……ね、熱烈草の力が私の足元に落とされている」
「シールドを展開する前に、ちょっと”保険”で準備していてね。今、色々教えてもらっていた時間にこっそり手に隠した素材を使わせてもらったのよ」
「で、でも……これじゃあ二人共共倒れ……メヌリ樹液のフィンガーシールドでは、熱烈草を防げないですよ」
「二回攻撃を与えれば私の勝ちなんだよね? 一緒に痛い思いすれば怖くないよ」
「くっ、まさかこんな形で……勝負が……」
ボゥウムフ……!!!!!!!
私たちの足元で爆発した熱烈草の爆弾。
爆風の衝撃で私とルーミルは大きく吹き飛び、互いに地面へと激突する。
幸い頭をぶつけることなく済んだので、全身痛いながらもなんとか体制を整えられた。
「二撃目……私の勝ちだよね?」
吹き飛ばされて倒れたルーミルの方へと近寄り、無事であるかどうかを確認する。
ものすごい勢いで壁に激突していたので、大丈夫かどうか確認しようとしたところ。
「……ん、藁人形?」
そこには、倒れているはずのルーミルの姿はなく、代わりにバラバラに砕け散った藁人形の姿がそこにあった。
「……流石にあれば危なかったです。私だって、本当は痛いの嫌いなんですよ?」
「……っえ!! う、うし……」
パシュ……!
「うっ……」
背中に燃えるように熱い銃弾を喰らった感触。
ハナに刺されたときと同じような、力が抜ける強烈なやつ……
あまりの激痛に立つ体制を維持できなくなった私は、その場にドスンと倒れ込んでしまう。
そこにルーミルが近寄ってきて。
「ふふ、ごめんなさい。私がさっき右手に力を込めていた力は粘り火炎と言っていたけど、それは嘘。本当は、自らの身を直前で入れ替えられる藁藁草という素材の力……もしものときのために隠していた最終手段というやつです」
「と、い、いうこと……は……二撃目……は」
「爆発に巻き込まれたのは藁人形ですから、結果的に『ハズレ』ということになります。残念ながら」
「く、ま、負けた……わたし、負けた……」
「ええ、負けです。でも、ここまで裏をかいてきたのは予想外です。だって、私に万一の最終手段を使わせたんですもの。相当手ごわかったということになります」
「そ、そう……ぐふっ……」
会話するのも辛いくらいに、体の中が熱くて痛い。
視界が真っ暗になり、走馬灯が見えてきそうな気がする。
「戦争はこういう酷なことに耐えなくてはいけない。決してあなたが嫌いというわけじゃないの……今は苦しいくらいに辛いでしょうけど、すぐに治してあげます。だから、今はゆっくりと……ね?」
ルーミルが何かを言っているようだけど、ほとんど耳がかすれて聞こえなかった。
きっと、なにか優しい言葉を呟いてくれたに違いない。
超循環士は死を伴う痛みでも助けてもらえる。
先程のハナのときと比べれば、痛いという気持ちはありながらも安心感が強い。
今回はルーミルに褒められた。
目標は未達に終わったが、ひとまず今はそれで良い。
私はそっと目を閉じて、お姫様抱っこしてくれるルーミルに身を委ね、ゆっくり眠りの世界へと入り込んだ。
……
……
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