第12話:悪魔の特徴、そして倒し方
「ねえルーミル、そのねーちゃん誰?」
「……ん?」
家を出て数十メートルと歩いた頃、近くの広場で遊んでいた子供たち数人が、私とルーミルのもとへ駆け寄ってきた。
「超循環士のお姉さん、遠くの国からやってきたのよ」
「うわーすげー! よーろっぱ? あめりか? あふりか?」
なんか知らない土地の名前を羅列されている。
一応はおなじメルボルン(近く)なのだけれど。
「彼女は旅路の中で戦争に巻き込まれそうになっていたから保護したの。同じ超循環士としてね」
「はは、偶然殺されかけちゃって」
「はは、ルーミルみたい。どこかふらっと消えたと思ったら、数日後に瀕死になって帰ってくるんだもん」
「えっ……」
思わず子供たちの言葉に驚きルーミルを見たが。
「悪魔が最近ゴキブリのように沸いてくるから、逐一殺虫剤まいておかないといけないの」
比喩じゃなく、もはや普通にゴキブリ扱いするあたり、憎まれている感がすり込まれているように感じた。
「……その、毎回死にそうにって、大丈夫なの?」
「怪我をした部位によりますかね。内蔵をやられると、さすがに苦しくなります」
「あ、うん……はは……」
この時代の超循環士はよほどのことがない限り、死を迎えることはないと聞いていたが、何とも不自然というか、違和感を感じざるを得ない光景だ。
「死を恐れずにいられるというのは、強い勇気へと繋がります。悪魔には再生という力はありません。数をこなせば、確実に改善されるのです」
「そう言われれば、確かに戦場に出る人の気持ちは分からないこともないかな」
悪魔に対する強い殺意とやらは私には分からないが、食糧のためにイノシシを全力で狩りたいという考えに似ているなら、その野心は少しばかり伝わるかもしれない。
「ルーミルは悪魔を狩るのがすごく上手なんだ。ねーちゃんも教えてもらったら良いんじゃない?」
「えっ、私?」
「超循環士というだけで、悪魔から命を狙われる時代だもん。強くなる分には損はないよ」
「確かに……リヌリラには、ここでの過ごし方というのを、ある程度理解してもらわないといけないですね」
「……ん、ルーミル?」
顎に手を当て子供の言葉に十二分に納得した様子のルーミル。
この時代が戦争時代といえども、悪魔が相手といえども、流石に敵を殺すという点については、私もある程度躊躇してしまうところがある。
「リヌリラ。悪魔にとって超循環士というのは、目の前に現れた蚊のようなものなのです」
「……煙たい存在という意味であってる? ちょっと表現が絶妙すぎるから」
「その言葉が、オオアリクイにとってのジャガーという表現なら、正しい意味合いです」
余計なクイズ混ぜるな。
子どもたちがクエスチョンしている。
「……それで、見つけられたら即襲われるって」
「即『殺し』にかかってきます。いたぶる趣味は奴らにありません。それが無駄だと長い年月を経て理解していますので、確実な死を狙いにかかるでしょう」
「まるでアサシンに狙われているような気分」
「実際、潜伏や急襲は悪魔にとっては得意分野です。森の中を歩くよりは、平原を駆けるほうがまだマシかと」
ハナに刺されたとき、音もなく背中に迫られたのはそういうことか。
あの感覚で迫られるとなると、確かに厳しい限りだ。
「でも、超循環士って少しでも部位を残していれば蘇生できるんでしょ? 何をそんなに躍起になっているの?」
「先ほど説明しましたとおり、超循環士は死を伴う数倍以上の損傷を受けても、無限に蘇生することができます。しかし、その組成先が悪魔の懐にい続ける限り、蘇生と殺害を永遠に繰り返させられるおもちゃとなってしまいます」
「……ああ、さっき、その苦痛から逃れるために、超循環士は自らを銅像にする選択肢があるって……」
「やつらにとっては、私たちが銅像になるということでしか戦力を削ぐことができませんからね」
「ああ、そういえば」
なかなかハードコアな事情があったことを思い出した。
確かに、急襲からの誘拐をされてしまえば、正直どうにもならない。
急襲されたいか? と訊かれれば、おそらくと言わずとも、ハイということはまず無い。
つい先程背中を刺されたことを思い出せば、二度と繰り返したくない末路だ。
「ですので、一度私と共に超循環の力について改めて実践訓練し、まずは生き残れるための防衛能力を身に着けましょう」
「そう言われてしまえば、確かに必要性があるということが理解できた。むしろ、お願いしたいくらい」
「都市の中央から少し外れに荒野があります。少しばかり派手に訓練しても問題ないかと」
「て、手荒な感じはご勘弁でね」
「ええ……なるべく痛くない部位を狙うようにしますので」
うーむ、この絶望感……なんかすごい。
私、今の時代に生まれて良かった。
今の時代、私もういないけど。
ルーミルは軽くニッコリと微笑むと、あちらですよと言い、都市の建物が少しばかり減った方向へと私を誘導する。
悪魔殺しのプロフェッショナルといわれたルーミルが相手だと、臆病な気持ちが湧き上がってしまいそう。
できれば、究極的に、手加減に情状酌量を入れていただくよう願いつつ、私はルーミルとともに荒野へ向かう。
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