第4話:過去の戦争の手がかりは、


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【Tips003】超循環士の抗体性能


 超循環士は素材を使えば、火や毒など、有害な成分を発射させることが出来る。

 その際、使用した素材量に応じて発射者に若干降りかかることもあるが、自身の出した物質であるならば、たとえ致死量に達するような猛毒等であっても、抗体が発動して無害となる。


 また、有害物質の素材となるものを直接摂取しても、自身の体に悪影響を及ぼすことはなく、猛毒の植物であったとしても、味はまずいながらも非常食として取り扱っている人はいる。


 ちなみに冒頭でリヌリラがイノシシを狩る際に毒キノコの素材を使うことを控えたのは、味の劣化と保存期間の大幅な短縮につながるためである。


……

……


 ハナの話では、遺骨を納める洞窟の中で、スペース確保のために穴を掘っていたところに銅像が埋まっていたという。

 元々の壁からものの数メートル先にあったということで、前回洞窟を拡張した二十年ほど前から、随分と銅像に出会える縁がすれ違ったなぁと思う。

 当時の私なら赤ん坊だっただろうから、お目にすることがなかったかもしれないと考えると、僅かながらに運命的要素を感じないこともない。


 洞窟は、町の中央から少しだけ外れた樹林地帯の渓流近く。

 自然が多く、あの世で生きる人達にとっては穏やかな場所であろうという配慮で決めたらしい。

 足場が悪くて、足腰の弱った老人達がお参りに行けないという点では、なんだか本末転倒な気もするが。


「来たのねリヌ子。珍しくスルーしなかったとは珍しい」

「まあね、ハナがどうしても興味あるらしくって、渋々ながらやってきた」


 洞窟の入口前で立っていたのは、私の姉御分であるシーライ。

 集落での事務方の仕事をしている女性で、『リヌ子』と呼んでくるのは、私の名前が単純に呼びにくいという理由だからとのこと。

 なんだぁと思いつつも、私も小さい頃は五回に一回は噛んでいたことを考えると、なんとも強く否定できない。

 ちな年齢は三十四歳で、将来の事を考えて、もちろん現在は独身である。

 もちろんミニスカートでがっちり攻めるのは、昔も今も変わらない。


「リヌ子がハナ君の為に働くなんて事しないし、もしかしてお肉か何かで情報を取ってくるようにお願いされたな~?」

「……監視カメラを我が家に設置した記憶はないけど」

「はいはい。ハナ君は知りたがり屋だもんね~。食べ物のことしか考えない本能系女子のリヌ子とは大違い」

「魚のことだって考えるもん! えと、あと……山菜とか」

「あ~はいはい、合理的合理的」


 シーライは手を払いながら。


「ハナ君は本当に働き者でね~。先日、保存食を作らせに働いてもらったんだけど、あればリヌ子にはもったいない家政婦ね」

「あ~~!!! 私の家政婦勝手に取ったー! お金払ってるの私なのに~!」

「あたしだってちゃんとお金払ったわよ。しかも一生懸命働く姿がとっても可愛いから、こっそりチップも付けてあげちゃった♪」

「……えっ、もしかしてハナのこと気になってるの?」

「あたしがあと十歳若かったら、問答無用でベッドに連れて行ってブックマークしてたかもしれないわねぇ……」

「ひぇっ……」


 ハナ、よかったな。今年まだ十九歳で。

 ……いや、十年前の九歳の時点でもヤバかったかもしれない。

 昔のシーライは、色々とすごかったし。

 まあ、うん。一言で言い表しにくいアレだったよ。


 ……とまあ、脱線はさておきとして。


「今回発見された銅像はどこにあるの?」

「ええ、洞窟の中の発見された場所に置いてあるわ」

「まだ運び出していないの?」

「まあね。いつものように、重たいのと、洞窟の崩壊防止用の補強対策をするってので」

「この洞窟、結構古いからねぇ……大丈夫なの?」

「いたずらに破壊しようとしなければ大丈夫だろうけど、災害とかどうかしらね」


 この穴を掘ってから二十年ほど経過しているらしいから、必ずしも安心であるとは言えない感じかな。

 洞窟のあちらこちらには、木材鉄材を用いた補強工事の後がチラホラと残っている。

 普通に家を作るより手間をかけている分、大丈夫かとは思うけど。


「それにしても、今回はリヌ子が来てくれて助かった」

「どうして?」

「今回の遺品は、おじさまたちでも随分手こずっているみたい」

「私よりも圧倒的に波長が合うというか、力を持っているってのに?」


 超循環の力は、長く使えば使うほどに、性能を的確に使っていけるようになる。

 力の増幅はできないながらも、より工夫することで賢く使い回せるのが超循環の特徴で、馬車の運転だったり、工場での加工作業のような職人技の一種として才能を発揮できるのが特徴なのだが……


「どうやら、今回は本人の波長の部分で意思疎通の回線が接続できないみたい」

「ははぁん、嫌われたもんだねぇ……」

「だから、一人でも多くの超循環士に試してもらって、声が聞こえるかどうかを試してもらいたいという話になったようなの」

「それで、普段は特定のジジイたちしか集めない銅像のお披露目会に、招集率の低い私が誘われたわけだ」

「リヌ子だって年齢の割には超循環の力を上手に使いこなすものね。期待されているのよ」

「狩猟生活で美味しい食べ物を集めたいってだけで必死に覚えただけなんだけどね」


 超循環の力は世の中のために使われる特別な力なのかもしれない程に能力は利便性を誇る。

 戦争では敵を倒すことに使われたらしいけど、戦う必要性が無くなってからは、ただ毎日の生活に利便性を足す程度にしか活用されることはない。

 逆に力を持っていても、その人自身にとって必要性を感じなかったり、力に対して生理的に気味の悪さを感じたりで超循環を使わない人もちらほら存在する。

 ニッチとはいけずともメジャーではない。

 そんなレベルの立ち位置だ。


「うまく情報を汲み取ることが出来れば、お駄賃くらいはもらえるかもしれないわよ」

「梅干しなら五壺ほどストックがあるから勘弁して欲しいところだけど」

「さぁ、交渉次第ね。リヌ子の好きな肉って選択肢は歯の弱いおじさまたちには縁が無いだろうけど、いいとこ干し柿くらいは期待して良いんじゃないかしら?」

「……まあ、それならいいかもだけど」


 皮算用で報酬の選定というのも厚かましい限りだが。


「じゃあ、ちょっと行ってくる。さっと見てきてすっと帰ってくるから」

「はいはいじゃあね。ちゃんとおじさまたちには敬意を払ってね」

「へ~い」


 シーライの言葉を軽く聞き逃しつつ、明かりの灯った洞窟の中へと進んでいく。

 軽く崩れないようにと祈りを入れつつ、奥へ奥へと潜り込む。

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