超循環のリヌリラ:Refreak(現役PS4ゲーム開発プランナーがゲーム化する)

タチマチP

超循環シリーズ-Season1-

第1章-プロローグ-(20世紀のメルボルン)

第1話:オーストラリアのメルボルン

 私の目の前に都市がある。

 かつて人が繁栄し、産業と工業が活動的だった巨大都市。

 オーストラリアのメルボルン。

 モダンな雰囲気の建物が立ち並ぶ、世界的にも有名な地。


 私は都市を崖から見下ろしている。

 全てが廃れ、ビルには草木が絡みつき、自然が元に戻ろうとしている様子がそこにある。

 メルボルンから人が消えて、約六十年という歳月が流れたらしい。

 一世代の人たちが世代交代出来ぬままに、大きな都市という器だけが残ってしまった。

 まるで、世界が終りを迎えている光景を見ているようだ。


 だがしかし、この世界は、確実に平和である。

 “今”は平和となっている。 


 誰も争いを求めようともしないし、それを起こす余力もない。

 ただ、自分たちが平和に暮らせることを強く望むものだけしか、この時代の人間は生きていない。

 私が生まれるずっと前から同じで、ただ静かに人々は暮らすことだけに人生を注ぐようになり、長い年月が経過した。


「そろそろ帰るか……」


 最近、都市の建物を根城にしているイノシシや鳥がいるという話を聞いてやってきたのだが、残念ながら、食料もないのに住み着くなんてことはなかったようだ。

 数時間掛けて辺りを念入りに調べたが、残念ながら、本日の夕食の肉となる動物たちを見つけることは出来なかった。


 これ以上無駄な体力を使うのは時間がもったいない。

 一旦村の方へと帰還しよう。


 私はメルボルンの都市に背を向けて、ダッと一気に駆け始める。


 ………

 ………


 都市から少し離れれば、自然が広がる広大な大地が私の目の前に広がる。

 まるで、人が生まれる前の大地を表現しているかのごとく、草原と森しか視界に入らない。

 元々は、誰かしらが生活をしていた場所なのだろうけれども、その痕跡は、長い年月をかけて失われていったようだ。


「はっ……はっ……はっ……」


 村まではここから約十キロ程度の距離がある。

 このまま走っていくには流石にしんどさがあるので、私はあたりを見渡して、『例の素材』がないかどうかを探す。


「う~…ん……あった」


 草原にはたくさんの草が生え揃っている。

 少し探しただけで、すぐに素材を見つけることが出来た。


 私は、草原を駆け続けたままに、その素材『疾駆草』を両手でつかみ、それを腰の【循環ポケット】の中へと放り込む。


 うぃーん……


 循環ポケットの中に入れられた素材は、背中に背負っている【カバン型循環機器】で瞬時に力として変換され、最後に私の右手に装備した手袋へと伝っていく。

 ファン……と青白く光る右手を目視し、力が宿ったことを確認すると、私は小指を小さくくいっと動かし青白い力を開放させた。


 ふぅぅぅぅ……


 全身を青白いオーラでまとわせた私は、軽くなった体を少しだけ浮かせ、地面を思いっきり蹴って草原を駆ける。

 先程までに比べれば、まるで馬が大地を駆けているかのごとく高速な移動性能へと変貌し、約半分にまで軽量化された体重をふわりと浮かせて数十キロの速度で走り抜ける。

 やはり、平坦な道は、疾駆草がないと、移動するには辛いところがある。

 地域によっては生えていないところもあるので、できれば素材として切らしたくないところだ。

 素材切れであった私が言うのもなんだけど……。


「風を感じずにオーストラリアを足で歩くなんて、もはや死を宣告されているに等しいもんね。主に体力的な意味合いで」


 人の住む集落は、それぞれ数十キロと離れていても珍しくはない。

 過去の時代に開発された自動車というものがあれば、移動も決して億劫ではなかっただろうが、いまやそれを開発する人も、工場も存在はしていないだろう。

 せめて、その設計図だけでも残してさえくれれば、どこかのマニアが再現してくれていたのかもしれないけれど。


 数キロ走ったところで高速に移動していた足で今度は思いっきりブレーキを掛けて、移動速度をゼロまで戻す。

 本来、そのまま大地をまっすぐ駆けていきたいところだったけど、残念ながら、私の目の前には高さ十メートルほどの大きな崖が存在する。

 まっすぐ進もうにも、段差が非常にあるので、駆ければ間違いなく壁に激突して死ぬだろう。

 疾駆草で体重が軽くなろうとも、流石に次のものは無理であると悟った。


 しかし、今度は別の素材がないかを探せばいいだけなので、私は辺りをキョロキョロと見渡して、次の『例の素材』が無いか、念入りに調べていく。


「……あった」


 一昨日、躍動鳥からフンを大量に喰らっただけのことはあって、一緒に羽も落としてくれていたことは幸いだ。

 この羽は可能な限り保持しておこう。

 毎回フンを落とされる代償を受けるのはゴメンだから、ね。


「あいつらの肉は食っても固くてパサパサしているから、狩猟しても全然旨味がない。もちろん、二つの意味でね」


 ともあれ私は躍動羽を数束つかみ、循環ポケットの中へとセットする。

 数秒で素材は力へと変換され、私の右手へと宿る。

 身体が軽くなったことを確認し、私はゆっくりとしゃがみ力を溜める。


 顔を上げ、崖の頂上に狙いを定め、着地するポイントを決定する。

 高く飛びすぎれば、着地の衝撃で骨を折る。

 痛い思いは勘弁して欲しいので、崖の高さに見合う跳躍を目標とする。


 シュタッ……と空高く舞い上がると、そこには広大な大地が広がっていた。

 青い空と白い雲、人が生活をせずに廃れた村々。

 そこには、自然の力で成長した緑が茂っており、地球の生命体が力強く生き続けている証明をしている風にも見えた。


「……うぉっと、危ない」


 見慣れているにもかかわらず、つい広大な景色に見とれてしまったせいで、危うく登った崖から落ちそうになってしまった。

 もたつく足を落ち着かせ、ゆっくり両手を地面に付けて、身体のバランスを落ち着かせる。

 自然にうわーなんて喜ぶ年齢でもないというのに、恥ずかしい限りだ。


 しかし、景色に見とれていたおまけとして、一つ良い物を見つけた。


「……………」

「……………………」

「……っ!」


「……ちっ、逃げやがったな」


 それは、草原を彷徨っていた一匹のイノシシ。

 私が今日探し求めていた、動物性タンパク質の食事だ。


 イノシシは少々匂いはきついが歯ごたえがあり、味付けをすればボリューム溢れる肉へと変貌する。

 家畜を育てる人間が少なくなった今、貴重な野生の肉だ。

 一言で言うなら確実に捕まえて独り占めしたい。


「よし、狩ろうっ……!」


 躊躇は一切無かった。

 自然の中で弱肉強食を求められるこの世界。

 狩ったもん勝ち、食ったもん勝ち。


「私のためにわざわざ存在をアピールしてくれるなんて優しいお肉♪ つまり捕まえてご覧という私に対する挑戦なんでしょう? いいよ。大丈夫。安心して。知ってるから」


 私は森へ逃げようとするイノシシを追いかけるべく、大地を蹴って走り進む。

 極力音を立てぬように、残った疾走草の力で低空飛行を試みたが。

 

「……っ! ……っ!」

「ちぃっ、やっぱり私に気がついたか。動物的勘っていうのは、随分とやっかいなものだ」


 二十メートルと近づかないうちに、イノシシは速度を上げて、私から逃げようとする。

 森の中へ逃げられてしまえば、もう奴を見つけることは難しい。


 その前に、なんとか足止めをしなくてはならないのだが、疾駆草は先程全て消費してしまい、物理的肉体でイノシシに追いつくことは難しい。


「近くに生えているのはキノコか……イノシシを足止めするにはギャンブルだな……」


 木々が増えて付近にきのこが生えているのが見える。

 キノコには、人が食べて美味という無害な種類と、猛毒によって生物に死を与えるもの、そして微量で短時間の影響がもたらされるものの三種類がある。


 普通に食べてうまいものは、超循環の力とはならない。

 逆に、猛毒の力を使ってしまえば、肉に毒が染み込んで食べられなくなる。

 ギャンブルに等しい上に、即席で使用するには運が必要すぎる。


「…………っ!!」


 しかし、このまま逃がすというわけにもいかない。

 チャンスを見逃すということ自体が、私にとっての一番の後悔となる。


 私は、カバンの中に少しだけ保持していた『爆熱石』を取り出して、循環ポケットへとセットする。

 数秒の後、右手に赤とオレンジに輝く炎が生成される。

 私は人差し指をイノシシに向けて、駆ける道筋を予測し弾丸を放つ。


「バンッ……!」


 人差し指の先端からは、尖るように炎が飛び出し、拳銃のごとくイノシシの駆ける方へと向かっていく。


「…………!」


 しかし、自然を生き抜くイノシシも馬鹿ではない。

 私が放つ弾丸の音を把握しているのか、僅かばかりに走る軌道をずらし、自らに危害が及ばないよう逃げ続ける。


「私のエイムが下手くそなのか、あいつが避けるの上手いのか……うん、多分後者なんだろうね。さすが大自然を生き抜く野生生物。私という実力者から逃げ切れるとはなー」


 自分で言ってて虚しくなるが、避けるのが上手いのは本当のようで、私の弾丸以外にも、木の枝やら草むらやらを的確に避けながら、最短平坦ルートを縫って走り抜けている姿が見える。

 しかし、道の弊害を避けて進むということは、私の視界から姿が消えないという利点でもあるので、奴と距離を取れているうちに、続けて弾丸を連続発射し続ける。


 ヒュン……

 ヒュン……

 ヒュン……


 連続して弾丸を放つが中々イノシシはしぶとい。

 普段はあまり超循環の力を弾丸モードで使わないのが仇となったのか。


「はっ、はっ……そ、そこの獲物~! 私は魔法使いじゃないんだから、無駄撃ちさせるのはマジで勘弁してくれ~!」


 親にもらった足で森を駆け巡っているせいで、体力がいかんせん消耗される。

 疾走草が残っていれば、もう少し早く走れるだろうに。

 右手に宿っていた爆熱石の力は次第に弱まっていき、あと一、二発も撃てば生成した力の残量はカラになるだろう。


「まさかのエイムミスで今日の晩御飯は野草の煮汁? いいや、私が食べるのは骨付きの肉。三日は連続で肉祭りで体に取り込む予定組んじゃっているんだよね」


 手帳はないけど既に予約は確定している。

 そこのイノシシには悪いけど、私のスケジュールを守るための糧となってもらわないといけないのでね。


 雑に打ちすぎないように。

 せめて、足止めをするきっかけがあれば……

 追いかけながら数秒考え、私は機転を思いつく。

 それは……


 ヒュン……バキッ……!


「………ヒッ!」

「……よし、当たった」


 私はイノシシの走る先にある木に注目し、そこから生えた太い木の枝に燃える弾丸を当てた。

 枝は弾丸の力で折れ、そして爆熱石の力で燃え上がる。

 突然走る先に現れた木の枝に対処しきれなかったイノシシは、そのまま燃える木の枝に引っかかり、数秒悶えた後に、燃える足を何とか動かし、更に森の奥へと駆けていく。


 先ほどとは違い、足を負傷しているので、ずいぶんと距離を詰めることができそうだ。

 これなら完全に逃げられるということはない。


 しかし、それでもイノシシの速度は早い。

 私との距離を空けるには十分な速度を維持している。

 だが、速度が遅くなったことで、今度こそ弾丸を命中させるのが容易になった。


 私は木の根元に生えている『沈黙キノコ』を数本抜いて、循環ポケットへと入れる。

 生成された超循環の力が薄く輝く水色の光となって、私の手の上で輝く。


 それをギュッと右手で強く握りつぶすと、それは一つの丸い塊へと変化して、爆弾のような形へとなる。

 私はそれをイノシシの駆ける方向へと投げつける。


 ボゥムッ……!!!


「…………!」


 爆弾は地面に着弾と同時に青い粉のような粒子を拡散させ、イノシシの周りを囲うよう爆散する。

 その匂いを嗅いだイノシシは、最初は驚き、軽く暴れまわる。

 しかし、次第に胞子の効果が効いてきたのか、暴れる元気が次第に失われていき、最後は――


「…………」


 沈黙キノコの成分によって、深い深い眠りへと誘われたのだった。


「ふぅ……なんとか仕留めることに成功したけど、なんとも安定しない捕まえ方だなぁ……」


 今回は、拾えた素材の内容が良かったおかげで捕まえることができたが、普通ならここまで完全に捕まえることはできなかっただろう。

 特に私は超循環の力の中では弾丸を扱うのが苦手だ。

 木の上から急襲して、物理的に超循環の力を打ち込むほうが性に合っている。


「けほっ、けほ。さすが沈黙キノコの成分。この時代に不眠症の人がいない理由がよく分かる効果」


 少しでも近づけば、脳が確実に本日の営業を停止してしまうだろう。

 そうすれば、起きた頃にはイノシシは逃走。

 手で巻き上がった胞子を払いながら、手ぬぐいでマスクをしてイノシシに近づく。


 イノシシを連れて帰ろう。

 可能な限り新鮮な肉のままで運びたいから、生かしたままで。

 目を覚ませば、また元気に逃げ回ってしまうだろうから。


 手足にロープを固く縛り付け、背中に横向きで背負う形でイノシシを持ち上げる。

 私の住んでいる村は、二キロ先だ。

 大自然で生き続けた恩恵で、体力だけは静かに自信ある。


 持ち上げたままに小走りをして、せっせせっせと森を抜けて走っていく。


 ……

 ……

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