異 世 界 建 国 記 〜「ロメア」〜

狐狸夢中

第1話「戦闘民族:ナイト」

この世界には情がない。

私たちナイトは常に戦争と略奪が尽きない。私たちは戦闘民族。戦って殺して奪ってやっと生きてゆくことができる。日々剣術を極め、新たな戦法を練る。それだけが我らの生きる道。


♢


「ルナ、準備はできたか?」


パパがあくせくと私を急かす。私は戦争なんてやりたくないのに。


「今、行くよ。」

「今日の敵はでかいぞ。なんてったって鉄壁の城塞を作り、そこから無敗のアカリアだからな。それを崩そうってんだから我らが当主は漢だねぇ。」

「ねぇパパ、戦争ってそんなに大事な事なの?」

「どうしたルナ。怖いのか。」

「そんなんじゃないけど。」

「確かに16歳の若さで戦争なんて私も本当はさせたくない。でもな、この狭いエウロペの大地には数多くの人たちが住んでいる。人々の集落、つまりポリネアだな。ポリネアは年々増えてゆくが、土地には限りがある。だから」

「だから他のポリネアから土地を奪うんでしょ。でもこの世界は広いんだから、そんな事しなくても開拓すればいいじゃない。」

「そうしたいのはやまやまだが、北と西には極寒の海が広がり、南にはアンデッド共がうじゃうじゃいるエジャノの国があって、東にはドラゴンたちが住まうロッジャ帝国があるんだ。」

「他種族に恐れて同族どうしで争うわけ?」

「分かるだろルナ。アンデッドは数も多いし気味が悪いからできれば戦いたくない。それにドラゴンに立ち向かおうなんて論外だ。まだ誰も世界の全てを見てないから海に出た所で何が待ち受けるか分かりやしない。」

「へんなの。」

「大丈夫さ。我らが当主、ペレクレス様はいずれこのエウロペの大地を統一させるお方。実際、我らがポリネア、アテナはここいらじゃ巨大な勢力だ。どれもこれもペレクレス様のおかげだ。」

「はぁ……。」


♢


今回の戦争のために集められた兵士は約3000人。今回は鉄壁の城塞を誇るアカリアを相手にするのだったら、もう少し兵士を集めても良かったのではと思う。殆どが成人男性で10代のしかも女は私を含めごく一部。私に剣術の才があるだかなんだか知らないけど、そういうのは男だけでやって欲しい。

アカリアへの移動の前にペレクレス将軍から皆へ激励の挨拶が行われた。


「諸君、今回はアカリアへと攻め入ることとなる。アカリアは間違いなく我らアテナに引けを取らない強きポリネアだ。鉄壁の城塞を築き、遠距離の弓矢攻撃で敵を近づけさせない戦法は非常に強力だ。だが、我々には我々独自の必勝の戦法があることを忘れるな。」

「(はいはいファランクスね……。)」

「長所を伸ばせ、最大限に。アテナを信じろ、団結の力が我らの力!ゆくぞアカリア!」


3000人の兵士たちから歓声が上がる。私にはあまり響かなかったけど、バカなやつらにはあれぐらいで心突き動かされるのだろうか。ペレクレス将軍は若きながら、将軍に任命された人。とにかく雄弁で、さらに男前。リーダーに必要なものは強さではなく、外見とパフォーマンス能力なのだ。

かくしてアカリアへの移動が始まった訳だが、私は一向にやる気が湧かないでいた。あくびをしながら歩を進める。


「ルナちゃん。調子どう?」

「大丈夫。セイラは?」

「私もおっけー。大変だよね男どもの戦争に私たち女たちも駆り出されるなんて。」

セイラとは近所に住む幼馴染だ。普段から仲良してほどではないが、セイラからぐいぐい話しかけてくる。私も鬱陶しいわけではい。私もセイラもアテナの少年少女の中では優等生。女子が10代のうちに戦争に参加するなんて異例らしいけど、実力があるのだから仕方ない。

「ね、ね。どうやって攻略すると思う?」

「どうやってって、出発前にペレクレス将軍がファランクス使うって言ってたでしょ。」

「でもさ、鉄壁の城塞にファランクスで突っ込むのって頭悪くない?」

セイラは思ったことをそのまま口に出すのでたまに悪口が笑顔から出てくる。

「さぁね。弓矢が相手なら消耗させるのも手だけど、誰かを囮にでもするのかしら。」

「あ、分かった。今回は奇襲をかけるんだよきっと。正面から堂々と行くのではなく、こっそり攻めて弓矢が飛んでくる前にやっちまうんだよ。だから今回兵士の数がバレないためにあまり多くないんだ。」

「はいはいそうね。知らないけど」

私とセイラが他愛もない話をしてるとパパが近づいてきた。

「やぁセイラちゃんおはよう。今日も可愛いね。」

「ルナパパおはようー!」

「どうしたのパパ。」

「見てごらん、あそこにある集落を。」

パパが指さす方向には、小さく、閑寂な集落があった。敗戦地というわけではないのだろうが、人が住んでいるとは思えない。

「なにあれ。」

「あれはね、スパリタというポリネアさ。」

「ポリネア?ポリネア跡じゃなくて?」

「ルナ、失礼なことを言っちゃいけないよ。あれでもポリネアとして今も生きてるんだ。」

「とんだ弱小ポリネアなのね!あんなの数年もしないうちに無くなるわ!」

「セイラちゃん。何でもかんでも正直に言ってはだめだよ。あのポリネアは普通のポリネアではないんだ。」

「普通じゃない?」

「あのスパリタはね、剣術の精鋭たちが集められたポリネアなんだ。」

「剣術の精鋭って、近所のカールおじさんみたいな?」

「そうだね。でもカールおじさんはもう年だから戦えない。けど、スパリタは幼い頃から死ぬほど厳しい訓練を受けて育った怪物たちの集まりなのさ。」

「死ぬほどってまたオーバーな。」

「過剰表現なものか。実際体の弱い男子は何人も訓練によって死んでしまっているらしい。どこのポリネアよりも厳しく、そして強い。」

「でもそんなに強いなら私が聞いたことないなんてありえないわ。やっぱりそんなの噂でしょ。」

「スパリタは特殊な規則を持っていてね、スパリタは月に1回しか戦闘をしないんだ。だからあまり戦闘をせず名も知れ渡っていない。」

「なんで月に一回なの。」

「詳しいことは分からないがパパの予想だと兵士を育てるためだと思う。大事に強く育てた兵士をそう簡単に戦争で失うわけにはいかないからね。」

「本末転倒じゃない。そんな悠長なことしていたら他のポリネアから置いてけぼりにされて、すぐに滅びるわ。アテナの敵じゃない。」

「確かに今、スパリタの兵士は500人ほどしかいないと言われてるね。訓練で死ぬだけでなく逃げ出す者も多いのだとか。」

「その厳しい訓練とやらのせいで自分で自分の首絞めてるじゃない。」

「でもパパは将来アテナを脅かす存在になるのではないかと思っているんだ。」

「あのね、いくら一人一人が強くても数が足りないでしょ。戦争なんて所詮は数よ数。人口が多いポリネアが勝つの。」

「それも正解だ。アテナは成人男性で4万人もいる大きなポリネア。だから強い。でも実際ここら辺の弱小ポリネアは、3000対500という圧倒的有利な戦況でも次々敗れている。」

「何千人に勝つ?たった500人で?嘘じゃん。」

「嘘じゃないよ。嘘だったらスパリタは今、現存すらしていないよ。他ポリネアからの攻撃を返り討ちにしている証さ。」

「ふん。いくら修行してもアテナの足元にも及ばないわよ。」

「今はそうだがいずれは……。」

「はいはい分かった。今はスパリタよりアカリアでしょ。そっちに集中するから。今回も私の剣でで余裕よ。ね、セイラ。」

「そうだねー!ジャキーンギラーンでズババババーンだよっ!」

「頼もしいね二人とも。」


♢


アカリアの城塞の付近までやって来た。昨日から歩きっぱなしで疲れたが、甘えてはいられない。これから命がけの戦争が始まるのだ。アカリアの城塞は石造りの普通の民家3倍くらいの大きさの城だ。所々に人の頭ほどが通りそうな穴が空いていることからそこから矢をを放ってくるのだと想像できる。将軍の話によるとどうやらアカリアには既に私たたの軍勢のことはバレているらしい。それを証拠に城塞付近に出歩いてる人がいないんだとか。城側からは隠れられる位置で陣取り、監視もつけてアカリアの動向もチェックできるようにする。もうすぐ日が暮れるから出撃は明日の朝早く。日の出の光が城塞側から逆光で多少の目くらましも狙えるし、徹夜で警備していたら眠気が襲ってくるピークの時間だからだとか。だから今日は移動の疲れを取るために早めにおやすみなさい。


「みんな起きろ!敵襲だ!」

監視のおじさんの大声で目が覚めた。休んでいた兵士たちも飛び上がる。

「来たな。」

ペレクレス将軍もすぐさま戦闘態勢につき、監視の元へ駆け寄る。

「ペレクレス様、どうやらアカリアのやつら攻められる前に攻めちまおうて魂胆ですぜ。休むことを逆手に取られた。」

「籠城戦が得意のポリネアでも奇襲を仕掛けてくるんだな。皆、たった今よりアカリアとの戦闘を開始する!奇襲は想定内、直ちに陣形を組むのだ!」

真夜中だと言うのに威勢のいい返事を返す兵士たち。私は眠くてしょうがない。

「んー?なになに、どうしたの。」

セイラは未だに寝ぼけている。

「敵襲だって。まさかあっちから奇襲してくるのは想定内だったみたい。」

「始まるのー?」

「そうなの。私も眠いけど頑張らないと。ほらさっさと起きて。」

「ふわぁ。」

私も急いで準備に取り掛かる。しかし、なぜアカリアは夜に攻めてきたのだろうか。そもそも今は何時だ。えーと月が、あ、今日は満月か。月が南東ぐらいだから22時くらい?よく分かんない。でも月の明かり以外何も見えないということは分かる。弓矢を得意とするのに暗闇の中を攻めるなんて正気なのだろうか。

「気を付けろ、火矢だ!」

なるほどね。矢に火をつければたとえ敵に当たらなくても辺りが燃えて被害を出せるし光源にもなる。上を見上げると真っ赤な光が束になって降り注いできた。だが火矢に対して対策がないほどアテナは弱くない。

「陣形を!」

ペレクレス将軍の一声で火矢に対する陣形が組まれてゆく。三人一組になり周りに散る。

「突撃隊、《夜蛇の構え》!」

3000人の兵士は三つの役職に分かれる。内訳はそれぞれ城へ責めゆく突撃隊、自分の陣地を護る守護隊、そしてそのどちらにも即座に援護にまわれる用に自由に動く遊撃隊。私とセイラとパパは遊撃隊だ。守護隊と共に火矢で燃え上がる炎を消しにかかる。三人一組になったのは、一人が炎を消してるうちに他二人が迫り来る火矢を剣で切り落とすためだ。今回は城から敵兵士が一人も出てこないため、守護隊のサポートに徹する。ペレクレス将軍は即席の高台に乗り、闇世の中をじっと見つめ状況判断に努める。突撃隊は、途中火矢を拾い掲げることで将軍に自分たちの位置を分かるようにしていた。突撃隊が自分たちの位置を明るみにすることで当然城側の火矢攻撃も突撃隊を狙うようになる。

「……まだだ。もう少し。」

ペレクレス将軍が指示した夜蛇の構えは無言で相手に責めてゆく戦法だ。敵からしてみれば突撃隊は火矢を掲げているため攻められていることは分かるが音もなく近づいてくるため、どれほど来ているのかは正確には分からない。敵に圧をかけるための戦法。

「置け!」

ペレクレス将軍の司令で突撃隊の動きが止まる。城側は一瞬困惑したようだが動かなくなっと突撃隊に向かって火矢を放つ。だがそれでも移動しない。突撃隊を始末したと思ったアカリアは続けて遊撃隊に向かって火矢を放った。しかしその瞬間

「声を上げろ!!!」

ペレクレス将軍の大声と共に突撃隊の大声が闇の中から聞こえてくる。なにも突撃隊は止まっていたわけではない。自分たちの位置を示していた火矢を地面に突き刺してあたかもその位置にいるように見せかけていたのだ。これも夜蛇の構えの戦法のうち。無音になることで敵に音による索敵をさせず、視覚に頼らせる。そこを突く。さらに突撃隊は先程までいた場所でなく城を左右に別れて攻め込んでいく。突然城の両サイドに現れた突撃隊に焦ったアカリアは火矢の射撃位置がバラバラになる。そうなったら攻めどき。ペレクレス将軍が司令を出さなくても分かる。私たち遊撃隊の出番。突撃隊は500ずつに別れて城を左右を攻め、アカリアもそれに対応する。そうすれば自ずと正面はがら空き。1000人の遊撃隊が一気に攻め込む。そしてその時には三人一組ではなく、縦5列横4列の20人の長方形となり正面に対しての攻撃力を倍増させる陣形。これが私たちアテナが生み出した必殺技ファランクス

ついでに言うと突撃隊に組み込まれる兵士より遊撃隊に組み込まれる兵士の方が優秀である。そんな優秀な兵士たちが不意打ちで集中して攻めてくるのだからアカリアに為す術もない。城からアカリアの兵士たちが出撃してくるが時すでに遅し。突撃隊がやられてもすぐさまファランクスを組んだ遊撃隊が襲いかかる。アカリアは、城での籠城戦が得意だったらしいが、逆に言えば城から出ず遠征などはしなかったということだ。アカリアの敗因は、百戦錬磨のアテナに対して経験値が足りなかったということだ。


♢


勝負が決したのは夜も明けて日が昇り始めた頃。本来なら戦争は何日もかけるものだがアカリアが城に籠るなら長引かせると圧倒的にアテナが不利。電光石火で攻め込んだペレクレス将軍の作戦勝ちだ。ペレクレス将軍が言うには敢えて奇襲をさせることで本来の得意分野である待ちの体勢をとらせなかったのだとか。やっぱ普段やらないことはやるもんじゃないね。

城の中にいた多くの兵士は捕虜として捕えた。アテナ陣営も突撃隊から多くの戦死者が出たが、いつもよりは少なかった方だ。私もセイラもパパも無事だ。ペレクレス将軍とアカリア側の将軍が話をしている間、負傷者の手当とご飯タイムだ。戦争中に食べるご飯は不味い。だが泥が付こうが臭みが多少しようが体に詰め込めなければ死んでしまう。将軍同士の話し合いはとても長引いた。

「皆聞いてくれ。アカリアの者と話し合った結果、アカリアも我がアテナの一部となることになった。」

アテナ側からは歓声があがり、捕えられているアカリア側からは悲愴の嘆きが聞こえた。

「だが勘違いするなよ。アカリアの人々はたった今より我々の仲間だ。蔑むことやこき使うことなぞ決して許さん。いいな!」

まるで天井を突き破るかのようなアテナ兵たちの大きな返事はアカリアの人々を安心させたようだ。ペレクレス将軍は顔もいいが性格もすこぶる聖人なのも支持される理由の一つだ。

我々アテナはエウロペの地を統一するため今日もまた戦に出る。戦って戦って戦い抜いたその先になにがあるのかは分からないけど、まぁ、うん。がんばる。

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