魔王の魔物工場ツアー見学へいってみよう!

ちびまるフォイ

こうしてヒット作は生まれていく!

「はい、みなさん、今日は魔王の城への工場見学へようこそ。

 今日はみんなに魔物の製造工程を見せたいと思います。

 たくさん勉強していってね」


「「「 はーーい 」」」


「しかも、みんなはとっても運がいいよ。

 普段、魔物が余っているときは工場を動かしてないんだけど

 今日はちょうど在庫補充のためにたっくさん動かしているからね」


魔王の城の地下深くにある魔物製造ラインは

低音をうならせながら絶賛稼働中。


魔王は子どもたちをガラス越しの見学スペースへと案内した。


「ほら、ここが魔物の鋳型に具材を詰めている部分だよ」


「「「 すごーい 」」」


「魔物の型に、粉末スープとお湯を入れて3分待つと、

 型に合った魔物が誕生するんだ。


 今でこそ全自動になって楽ができているけど、

 昔はここも手作業で毎日冒険者ギルドからパートのおばさんをやとっていたんだ」


「「「 魔王と人間の関係ってズブズブなんだねー 」」」


「魔物だとどうしても知能に劣るから精密作業は難しいんだよ。

 それじゃ、今度は企画会議の工程を見せてあげよう」


「えーー。ねぇ、魔物の鋳型さわりたいーー」

「熱いからダメだよ。それにラインを止めるわけに行かないしね」


一行は魔物企画会議が行われている部屋へと移動した。


「壁から現れる魔物はどうだろう!」

「それよりもコボルトの上位種を作るべきだ!」

「偽魔王の魔物を作って惑わすのも良さそうだ」


「ここが魔物会議室。毎日、頭のいい魔物たちはここで次の魔物を考えるんだよ」


「それでさっきのラインで作られるんだね」


「いや、まずはここで考えられた魔物(試作)は街の近くに放たれる。

 で、そこで冒険者の殲滅率や、受けたダメージ具合を分析し

 使えそうな魔物だったら量産体制にいくんだよ」


「それで新しい街の近くには強い魔物が多いんだね」


「我々、魔族もどの街でモニタリングするかは大事だからね。

 それじゃ次は魔王のトイレを見学に――」


工場内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。


『緊急事態発生 緊急事態発生。急きょ製造ラインをストップします』


「な、なんだ!?」


魔王は慌てて警報が出た場所に向かうと、

見学で来ていた児童が製造ラインの魔物型を取ろうとしていた。


「ごめんなさい……お母さんへのお土産に欲しくて……」


「レプリカなら、城の外にあるお土産屋さんにあるからそれにするといい。

 いや、それよりも……」


魔王の嫌な予感はすぐに的中した。


「魔王さま! 魔王さま! ラインがストップして、魔物が足りません!」

「午後からは大型冒険者集団がやってくるのに、間に合いませんよ!」


「備蓄魔物は? コールドスリープしていたのがあっただろ」


「それは先週使い切っちゃったじゃないですか!」


「急いでラインの再起動をしろ! 冒険者への迎撃に間に合わせるんだ!」


「魔王さま、再起動には製造の数十倍の時間がかかるんです!

 再起動できたところで、魔物の数は揃えられませんよ!」


「くそ……八方塞がりか。ええい、こうなったらお前らがやるしかない!

 1匹が100匹分の強さで迎撃すれば、問題ないだろう!」


「そんな無茶な!」


青ざめていく魔王の服のすそを、ひとりの児童が引いた。


「魔物をたくさん作ればいいんだよね?」


「あ、ああ。でも見学はこれで終わりだ。みんなは帰って……」


「昔は手で作っていたなら、わたしたちでもできるよ。ね?」

「「「 うん! 」」」


子どもたちはみんなやる気と希望に満ちた汚れのない目で答えた。


「君たち……」


「魔王さま、いいんですか? こんな子供に魔物を作らせて。

 そりゃ人数は多いですがどうなるか」


「今、手段を選んでいる場合か! みんな協力してくれ!

 今からみんなで新しい魔物を作って量産するんだ!」


「「「 はーーい! 」」」


魔王の城工場見学はいつしか体験ツアーへと変わった。


子どもたちは持ち前の柔軟性と吸収力で

あっという間にコツを覚えると、どんどん魔物を作っていった。


すべての魔物が完成すると子どもたちは嬉しそうにお弁当タイムになった。


「魔王さま、魔物が完成しました!」


「おお! 間に合ったか! よかっ……ええええ!?」


魔王は一度自分の目を疑った。

そして、魔物製作を子どもたちに一任した自分を後悔した。


「ま、魔物じゃないじゃん! ただのマスコットじゃん!!」


子どもたちに"魔物"と"マスコット"を区別させることは難しく、

魔物の鋳型から作られた魔物たちは、魔物と呼ぶにはあまりに可愛らしかった。


つぶらなひとみに、抱き締めたくなるような毛並み。

魔物というよりみんなのペット。


「終わった……」


「ああ! 魔王さまが戦う前から闇のエネルギーを失ってる!」

「魔王さま! 勇者一団がもうすぐそこまで来てます!!」


「あばばばば……」


魔王は初めて直面する死への恐怖で体が8bitのドット化した。

すっからかんの魔王城をハイスピード攻略する冒険者はついに魔王へとたどり着く。


「見つけたぞ魔王! さぁ覚悟しろ!!」


冒険者たちが武器を構えたとき、作りたての魔物たちが行く手を阻んだ。



「やめてくだたい! ぼくがあいてでちゅ!」



冒険者は魔物を見て全員が武器を足元に落とした。


「こんなかわいい生物……攻撃できるわけない……!」




その後、魔物「ラブピィ」は冒険者数千人を葬った功績から

すぐさま量産体制へと進んだ。

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