猫王

ポムサイ

猫王

 我輩は猫のようなモノである。


 猫ではない。あくまでも猫のようなモノである。

 とは言え、決して猫の亜種という訳ではない。より上位の存在である。

 我輩は今を去る事5000年前、人間を知る為に我が眷属を人間の社会に放った。そして見事に人間社会に入り込んだ眷属により、現在、奴らの情報はほぼ我輩の手中に収まったのだ。


 ある月夜の晩、我輩は遂に作戦決行の狼煙を上げる為に召集をかけた。

 集まった同志は25匹…決して多くはないが、近所の猫達はほぼ集まったと言えよう。


 人間達が『小平市立なかよし公園』と呼ぶこの場所で我輩は声を高らかに宣言した。


「皆の者!時は来た!これよりこの星を我々のモノとする戦いを始める!」


 辺りはシンと静まりかえった。無理もない、5000年もの我々の悲願が自分達の世代で成されるのだ。その感動で声も出ないのであろう。


「にゃ~。」


「何だ?確かお前は井上という人間に飼われているヤシチだったな?」


「にゃにゃ~!」


「『誰だお前』とは何事だ!!お前達の王だぞ!」


「にゃ~。」


「え?知らない?お前達、我輩の呼び掛けに集まったんじゃないのか?」


「うにゃにゃ~。」


「ただの定例会?」


「うにゃ。」


「あ…そうなんだ。で…でもね、みんな人間に取って替わってこの星の長になりたいだろ?」


「にゃ~。」


「いや、めんどくさいって…。」


「にゃにゃ~。」


「お前は魚屋のゴンパチだな。何だ?」


「にゃにゃにゃ~ん。」


「ウンコならその辺でしなさい。今我輩に言う事じゃないだろう?」


「にゃにゃ~!」


「誰だ!今、物凄い下ネタを言った奴は!!」


「にゃ~ん。」


「だからウンコはその辺でしろって言っただろ!!」


「シャー!!」

「キシャー!!」


「そこ!!ケンカしない!」


「にゃ~ん!」


「交尾はあっちでしろ!ムラムラするだろ!!」


「にゃにゃ~ん。」


「もうウンコの話はいい!!」


「にゃ~!」


「え?そうなの?」


「にゃにゃ~。」


「まさかあそこの奥さんがね~。人は見かけによらないな。」


「にゃにゃにゃ~ん。」


「相手は大学生だと!」


「にゃ~。」


「それ以上はいい…。我輩には刺激が強すぎる…。」


「にゃにゃにゃ~。」


「『本当は聞きたいくせにスケベ』って…誰に言っとるんじゃい!!」


「にゃにゃ~。」


「おっ、ウンコしてきたか。…いちいち報告するな!」


「にゃにゃにゃ~ん!」


「だから誰だ!!下ネタはやめろ!」


「にゃ~。」


「『元気ですね』って大きなお世話だ!」


「にゃにゃ~。」


「今誰もシイタケの話なんかしてない!」


「うにゃ~。」


「いや、なんのキノコの話もしてないから。」


「にゃにゃ~!」


「『じゃあ何の話してるんだ!?』…って逆ギレにも程があるぞ!?世界征服の話をしているんだ!」


「にゃにゃー。」


「それをすると良いことあるのかって?初めてマトモな質問だな。人間の様に振る舞う事が出来るようになるのだ。最高だろう?」


「にゃ~。」


「『人間は大変そう』だって?」


「にゃにゃ~ん。」


「うん…確かにあいつらいつも疲れてるよな。」


「うにゃ~。」


「まあ、猫の方が楽だわな。」


「にゃにゃ~。」


「そうか…。お前達は人間と供に生きて行く道を選ぶというのか…。」


「にゃにゃ~ん。」


「分かった。この話は無かった事にしてくれ。我輩もこれからは猫として生きよう。だが、もし人間に絶望し取って替わりたいと思う時が来たのならば、いつでも声をかけてくれ。その時が作戦開始の日となろう…。」


「うにゃにゃ~ん!」


「お~ま~え~か~!!さっきから下ネタ言ってたのは!!」



 こうして5000年越しの我輩の計画は中止…いや、延期となった。

 我が眷属達が人間を知り愛し愛され、そして自ら考え供に歩む道を選んだ事に我輩は誇りすら感じる。

 我輩もこれから人間と供に生きて行こう。


「にゃ~。」


「…結局ダラダラしたいだけなんだな…。」






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猫王 ポムサイ @pomusai

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