鋼城事変

髙座創

プロローグ

 CMは打ち切られ、報道特別番組が差し込まれた。キャスターは早口で間もなく会見が始まると繰り返し、言葉違わず、中継に切り替わる。

 画面にはマイクが何本も立てられた席に着く人物が映っていた。

『それでは、仮想現実ゲーム不正使用における多数監禁殺人事件の利用者開放について発表いたします』

 フラッシュで映像が白く点滅する。

『十一月七日、本日、午後二時五十五分頃、利用者のログアウトが確認されました。午後三時五分、総務省CIO事件対策チームは、北浜博明容疑者より、ゲーム終了のため人質の開放を行ったという旨のメールを受け取りました。午後三時二十五分現在、五八二七名のログアウトを確認しております』


 テレビで会見を見る男の心中は複雑だった。

 二年前、この事件が起こったあの日。

 それがターニング・ポイントであり、始まったときにはすべてが終わっていた。

 そのことに当時は気づいていなかった。

 今になってわかる。

 これは事件ではなかった。事変であった、と。

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