人間オークション

日日 詠 Yomi Tachigori

第1話 始

 逢魔が時にそれは開催される。とある港の隠し扉を開くと、地下へと繋がる長い階段が現れる。その階段を一段ずつゆっくりと下っていき、カーテンをくぐれば眼下に広がる大きなホール。ここは人間オークションが開催される会場である。開始30分前だというのに、既に会場は賑わっており人がごった返している。2000人分の観客席はあるのだろうが、立ち見で参加する人も出てくる始末だ。この人間オークションがどれだけ人気であるか、一目瞭然である。まぁ、なんだ、今回はなんといってもあの〝Crown〟がオークションに出品するのだ、彼ら目的で来ている人が半数だろう。


 席は指定席で、入場料を多く払った順に最前席から最後席にかけて座るシステム。最前席に座る輩は毎度お馴染みの面々である。最前の一番右に座っている紳士は仮面こそつけて身バレを防いでいるが、彼はパイロットの職に就いている。その隣に座って彼に媚びを売るように話しかけている婦人は個人投資家だ。ハイリスク・ハイリターンな世界で生きていることもあってか、リスクマネジメントが出来るらしい。本日も最前席で商品のしわというしわまで目に焼き付けるそうだ。まぁ、最前席にいる面々はほぼガチ勢と言っても過言ではない。私は最前から2列目の指定された席へ座る。ああ、はじめに断っておくが私は入場料を払っていない。招待状を受けて座っている。誰に招待を受けたのか、後々に分かるはずさ。予想はついているだろうけどね。



「あら、Mr.K。またお会いしましたね。」

「おや、マダム。奇遇だな。本日は如何様な子をお探しで?」

「今日はね、可愛い子を探しているのよ。お人形さんのようなお顔のね!特に瞳に注目したいわ。重要な部分ですもの!」



 彼女はOculophiliaオキュロフィリア、所謂で綺麗な瞳を集めるためにオークションへ参加している。オークションで競り勝った後の商品がどうなるか・・・言わないでも君は分かるね?みんなが彼女のように趣味のためにオークションに参加するのではないので安心してほしい。僕のように、観覧するために来ている者もいる。「そうですか、良品が見つかると良いですね」と微笑んで答えてやると、マダムは満足げな顔をして腕時計に目線を移した。・・・そろそろ、定刻か。



 会場の照明が段々と暗くなっていく。始まりの合図と言っても良い。



「Ladies&Gentleman!よくぞお越しくださいました。本日のオークション、司会を務めさせていただきます。〝Crown〟のクローネ・フォン・ケーニヒスでございます。以後、お見知りおきを。」



 スポットライトが2人を照らし、彼らは綺麗にお辞儀してみせる。すると、見事なまでの拍手喝采が飛び交った。彼は私の顔を見るとニコッと口角を上げて見せる。勿論彼も身バレ対策として仮面を着用している。この会場にいる皆がそうしていると言って良い。そんな彼の隣に並んで立っている小さな女の子はメアリ・フォン・エルフィ。クローネの相棒だ。観客に向かって手を振っている姿からは想像がつかないだろうが、彼女を侮ってはいけない。彼女に屠られた不憫な輩が脳裏に浮かぶ。嗚呼、哀れなり。



「今宵は我々も売人としてオークションに参加させていただきます。ここでPRさせてもらえるなら、そうですね・・・。子猫のようにキュートで珍しい人間を捕獲致しました。お手元にございますタイムスケジュール表通り、恐縮ながら大トリを務めます。お楽しみに。それでは大変お待たせ致しました。これより、人間オークションを開催致します。どうぞ、最後までごゆっくりお過ごしください!」



 クローネとメアリがお辞儀をする。



「あ、あとねあとね!オークションのあとは皆さん大好き仮面舞踏会マスカレイドのご用意もあるからね!♡・・・さてさて!一組目の売人さ~ん??どうぞ!♡」


 仮面舞踏会マスカレイドは、その名の通り身分素性を隠してダンスパーティを行うものだ。出席するか否かは個人の自由だ。高級な酒も飲み放題だし、綺麗な女と踊れるし一石二鳥だと個人的には思う。この会場にいる多くの婦人たちはクローネと踊るために出席することが多い。イケメンは苦労をするな。羨ましい限りだよ。

 ああ、ご挨拶が遅れたね。皆さん、ごきげんよう。私はMr.Kミスターケー、クローネの友人だ。そう、とても仲の良い友人だ。本名を教えてほしい?フフ、時期に分かるよ。それでは、共にオークションを楽しもうじゃないか。・・・君の瞳に乾杯。

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