第7話 ジランジアのメインストリート
その晩、部屋に戻ったのは深夜3時だった。久しぶりに話をできる相手に喜んだ楊さんが、もう1本ボトルを出してきたのだ。
酒の場は貴重な情報収集場所だ。ぼくたちは、酒の場が起きたときはイチカワが付き合うことに決めていた。イチカワは酒が強く、ボトル1本くらいなら酔わないという。イチカワが楊さんと向かい合い、話がノッてくると酒を注いでカチンと乾杯し、酔わせて話を引き出すのだ。
夜もとことん深まってくると楊さんの呂律がまわらなくなり、話の要領も得なくなってきた。これ以上は情報を聞き出せないということで、解散することにしたのだ。
ぼくは、輸出の話をもっと深く聞きたかった。そのなかにカカオ豆があるかもしれない。しかし楊さんは品目を詳しく覚えてなく、また農作物にも知識がなかった。一応ジランジアの情勢をつかむことには大きく役立ったが、カカオ豆に関する情報はひとつも得られなかった。
それぞれの部屋に戻って睡眠をとり、翌朝9時に徐原の部屋に集まった。そして散策に出た。危険は承知だが、せっかく来てホテルに籠りっぱなしではなにも得られない。
楊さんは、出掛けるときは必ず2人ずつに分かれて、ちょっと距離を空けろと言った。どちらかが不当逮捕、連行されたとき、直ちにもう片方が急いでホテルに戻ってそのことを伝えるためだ。そうなった場合、楊さんは国連の運営する病院か、かろうじて数か国ある先進国の大使館に連絡を取って釈放の要請をするという。迅速に動かなければ、大統領官邸のとなりにある警察署の地下の取調室で、そのすさまじい拷問で命が尽きてしまうことにもなりかねないという。
そのありがたい忠告を守り、ぼくはイチカワと2人で歩いた。前には徐原と、死が分かる男、凛香が歩いている。
ホテルはメインストリートに建っているが、その大通りに車はほとんどない。ただ、ときおり来る車は例外なくすっ飛ばして来るので細心の注意が必要だった。車線も信号もなく、またこんなところで車を持つのは国民の命などに頓着しない地位の高い者に限られるので、ミサイルが通過するようなものなのだ。
ホテルの地下倉庫に眠っていた古い地図を貸してもらっていた。粗い紙質で擦るとボロボロ分解してしまいそうな、年代物の地図だ。しかしなに一つ発展していない国なので、その地図でこと足りた。道も、主要な建物も、記載のとおりだった。
メインストリートだけあって銀行や郵便局があったが、人は歩いていなかった。陽光の照り付けるなかでの静けさが、異様に不気味だった。
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