第15話 多数の転生者
「特殊能力を持っている?」
「そう」
「3人とも、ですか?」
「あぁ」
ぼくは首を傾げた。特殊能力なんて、そんなに誰もが持っているわけではない。そうそういるものだろうか。
「トップアスリート並みの身体能力とか、射撃の名手とかじゃなくて?」
「いや。君や私のように、科学で説明のつかない、人間離れした能力だよ」
「それってもしかして、その3人も現実世界から来たということでしょうか?」
「そう。そのとおりだ」
「そんなにたくさん、現実世界から来た人間って多いんでしょうか?」
「いや、多くないよ。とても少ない」
「じゃあなんで、社長はそんなにたくさん転生した人間を集められたんですか?」
「それは簡単だ。君のように、この世界にない食べ物を欲している人間であれば、現実世界から来たってことだろ。私の能力があれば、すぐ見分けがつくよ。それに私は、この異世界に15年もいるからね。君はまだ2ヶ月程度だろ。15年も生活していれば、ある程度、転生した人間とも出会うよ。今までに、30人程度かな」
なるほど、とぼくは思った。社長の特殊能力は、現実世界から流れてきた者を見分けることに適している。それにしても15年間で30人というのは、多いのか少ないのか見当がつかなかった。
「30人それぞれに、コンタクトを取ったのですか?」
「いや。何人かは、話しかけるのを躊躇うような人間だった。人を喰いものにするようなね」
「そいつらは、特殊能力を悪いことに使っていたのですか?」
「そういう人間もいたし、自分の特殊能力に気付いていない人間もいた。とにかく、そんな連中に関わると悪影響を及ぼすから、接触しなかった。なにしろ、この異世界のたくさんの人たちの生活を担っているからね。なかなか自分一人の好奇心で行動しづらいんだよ。それでその30人ほどの転生者から、連携できそうな者を選んで秘密を打ち明けた。会社の幹部の中には、転生した者がいるよ」
ぼくはちょっとした衝撃を受けた。この田名瀬食品は、転生した者の集まりだったのだ。だとしたら、会社が急成長するわけだ。特殊能力を駆使するトップや幹部がいるのだから。
「それで……」
ぼくは緊張で唾を飲みこんだ。
「なにかな?」
「その3人には会わせてもらえるのでしょうか?」
「君が会いたいなら」
「会いたいですね。いつ、会わせてくれるのですか?」
「今」
「今?」
「実は、会議室に控えている。そしてこのやり取りを、モニターで見てもらっていた」
「この一部始終を?」
「黙ってて悪かったが、しかし3人から見れば、必要なことなんだ。なにしろ、命をすり減らすような場所に行くわけだからね。足を引っ張りそうな人間と行けば、自分も命を落としてしまう。だから君を観察させていた」
「なるほど。それで、合格だったのでしょうか?」
「そのようだ。不合格ならメッセージが来ることになっているが、それがない」
社長が苦笑いを浮かべた。そしてインターフォンに、会議室の3人を呼べと言った。
「すぐ来るよ」
ぼくは振り返り、ドアを見つめた。
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