第10話 カカオ豆の存在
「独裁国家ですか?」
ぼくは硬い表情のまま聞いた。
「そう」
社長も、先ほどまでとちがって、表情を引き締めている。
「つまりは、危険なところなのですね?」
「極めて危険だ」
「そんなところに、ぼくを行かせようと?」
「無理にではない。提案しているだけだ」
ぼくは、ひとつため息をついた。
「では言い方を変えます。そんな極めて危険な場所に、行ってみないかと提案しているわけですよね?」
「そう。そのとおりだ」
「そんな危険なところに若い人間を行かせて、なんとも思わないのですか?」
「だから、無理に行かせようとしているわけではない。君はチョコレート中毒とも言っていい状態で、まともな生活を送れないようなことにまでなっている。しかしこの世の中にチョコはない。それならチョコを作り出すしかない。ところがその原材料がこの世にはない。唯一、カカオ豆がある見込みがあるのが、その独裁国家なんだ。それで調べに行ってみないかと提案したにすぎない。そんなところに行きたくない、ということであれば、断ればいいだけの話だ」
たしかにぼくは、無理に行かされようとしているわけではない。社長の言っていることは間違っていない。しかし、とぼくは思う。行かせるように誘導されているような感じを受ける。こんな重要なことを、最初に誘ってきた段階では黙っていたのだ。まずは状況を隠して行きたい気持ちにさせて、それから現状を伝える。その話の流れに、ぼくは不信感を持った。
「まずは、あの居酒屋で伝えてほしかったですね。最初は危険だということを隠して、その気にさせようと思ったのでしょうか?」
「そうだよ。そのとおりだ」
あまりに素直な返答に、ぼくは再び言葉を詰まらせてしまった。
「いきなり独裁国家に行けと言ったら即座に断られると思ったから隠してたんだ。どうかな、断るかい?」
「うーん……」
「私はどちらでも構わない」
「当然ながら、行く気にはなれません。怖いですから。しかしせっかく聞いたチョコの手掛かりを、パッと拒否してしまう気持ちにもなれません。こうやって躊躇していること自体、うまくノセられてしまっているようで悔しいですが……」
そこで2人とも黙った。
「じゃあ……」
しばらくして口を開いたのは社長だった。
「行く行かないはともかくとして、ジランジアという国のことを分かっている範囲で話すから、聞いてみないかい?」
「ジランジアのことを?」
「そう。聞くだけなら、何ひとつ危険は及ばないだろ?」
社長は表情を和らげた。
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