第4話  チョコの国に行ってみないか?

 

 チョコの原産国に行ってみないか?  社長のその言葉に、ぼくは戸惑った。でも、その心の片隅が、妙にざわめいた。

 

「派遣、ですか?」

 

「うん。そう。君から影響を受けて、私もチョコの原料がどうなっているのか知ってみたくなったんだ。やはり食品関係の仕事に携わっていると、食べ物のことで疑問が生まれれば気になるもんだよ」

 

「それで、ぼくに……」

 

「だって君も、カカオ豆がこの世界にもあるのか、あるとしたらどういう扱いをされているのか、知りたいだろう?」

 

 言いながら、社長はぼくの顔をいたずらっぽく覗き込む。

 

「そう、です、ね……」

 

 ぼくは歯切れ悪く答える。

 

「知りたくない?」

 

 社長が重ねて言う。

 

「え、あ、はい。とても知りたいです」

 

 社長の追い打ちに抗えず、ぼくは正直に肯定した。

 

 カカオ豆がこの世界でもあるのか?  あったとしたら、それはどうしているのか。捨ててしまっているのか。それとも、なにか別のものに使われているのか。そういった疑問は、ぼくも何度となく考えていた。とにかく、チョコに関することを、あらゆる角度から頭の中にころがしていたのだ。

 

 しかし、その現場に行こうなどとは考えなかった。なにしろこの異世界でも、ぼくの住むのは島国日本なのだ。はるか赤道直下の国々まで、なにしろ遠い。それをこの社長は、飲みの席で簡単に言う。ぼくが戸惑うのも当然というものだ。

 

「やっぱり知りたいよなぁ。じゃあ、この派遣の話、真剣に考えてみないか?」

 

 社長の口調は軽い。しかしそれは、あえて軽い感じでこちらの気持ちをわきたたせようという風に思えた。けっしていい加減な響きはない。

 

 カカオ豆は、とても限られた条件のところでしか栽培できない。平均気温が常に30度近くの、日の光が長時間当たるところ。それでいて、降雨量の多い湿気の多い水はけのいい土地とくる。こういった条件に当てはまる地帯を持つ国は、非情に限られている。

 

 ぼくは、とりあえず考えさせてくれと言って社長と別れた。しかし帰りの電車では、もうこのことが頭の中にいっぱいになっていた。なにしろ24時間チョコに思いを馳せているところにもってきて、そのチョコに関する話が舞い込んだのだ。

 

 まだ派遣を受けるとは決められなかったが、しかしこの話をもうちょっと細部まで社長から聞いてみたい思いが膨らんだ。自宅の最寄り駅に着いたぼくは、ホームですぐ社長に電話した。

 


 

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