第16話  石見知子の不思議な行動

 

 大学に着いても授業には出なかった。なにしろ、教科書も筆記具も持っていないのだ。

 

 噴水前のベンチに座っていると、彼らが歩いてきた。

 

「あ~、また座ってるぅ~」

 

 石見知子が、また間延びした口調で言った。田名瀬が、睨みつけるような視線でじっと見ている。

 

「ちゃんと行ったからな、会社」

 

 先手を打って、田名瀬に行った。

 

「で、就職することに決めたのか?」

 

 ぼくは首を振った。会社に行くとは言ったが、就職するなどとは約束していない。

 

「どうすんだよ?」

 

「どうすんのよぉ~」

 

 田名瀬と石見知子が同時に言った。

 

「帰るよ」

 

 ぼくは立ち上がって、歩き出した。

 

 彼らは本当に、親身になって心配してくれているのかもしれない。でもぼくは、やはり就職なんてする気が起きなかった。そしてまた、就職する気が起きない理由を説明できないのもつらかった。彼らの心配を受け流してしまっているのだ。ぼくは気持ちがざわついてしまい、その場を離れることにした。

 

 しかし、彼らはそうは取らなかった。駅に近付いたときに、石見知子が走って追いついてきた。

 

「ねぇねぇごめん~。ウチら言いすぎたね~。謝るから、なんか軽く食べてこうよ~」

 

 ぼくは石見知子に、怒ってないこと、逆に自分の気持ちを持て余して、心配してくれる友達に申し訳なく思っていることを伝えた。

 

「ほんとにぃ?」

 

 それでも石見知子は半信半疑だ。

 

「じゃあいいよ。ホントに怒ってないから、軽く食べてこう」

 

「うんうん~。じゃあどこにするぅ?」

 

「そうだなぁ。あんまりお腹も減ってないから……」

 

 ぼくは駅前にある、大手のハンバーガーチェーンを言った。そこで石見知子が、驚いた顔をして言葉に詰まった。

 

「どうしたの? イヤなの?」

 

「えっ、いやぁ、いいよそこで」

 

 なにか歯切れの悪い対応で、それでもぼくたちは店に入っていった。

 

 石見知子が注文し、ぼくはそのあとに注文した。石見知子のときには快活に返答していたアルバイト定員が、ぼくのときにはどぎまぎした感じだった。なんだろうと思いながらトレーを受け取って硬い席に着く。

 

 コーラを一口飲んだぼくは、石見知子がじっと見ていることに気が付いた。

 

「どうしたの? 食べないの?」

 

 それには答えず、石見知子はぼくの顔を見続けている。そして、

 

「これは?」

 

 とハンバーガーを指さした。

 

「えっ、どうしたんだよ?」

 

「いいから、これはぁ?」

 

 なにか意外にも石見知子が真剣なので、ぼくはバカバカしくも、ハンバーガーと答える。すると次に石見知子はぼくの飲んでいるものを指さして聞く。ぼくはコーラと答える。さらにポテトを差して聞く。

 

「なんなんだよ。ポテトじゃんかよ。なに言わせたいんだよ!」

 

 しかし石見知子は、眉間にしわを寄せてぼくをじっと見ているだけだった。

 


 


 

 

 

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