第3話 チョコってなぁに?
大学に着いても授業を受ける気にならず、ぼくは噴水のベンチでボーッとしていた。
―― あぁチョコ食べたい……。
ちょっとでも思考が停止すると、チョコが頭に入り込んでくる。チョコへの思いは時が経つごとに増していっている。
「まぁたサボってぇ」
石見知子が指をさしながら近づいて来る。そのうしろには暮本と田名瀬。決まりきった顔ぶれだが、もう、いやになるほどの日常とは思わない。ぼくの住んでいるのは、異世界の『チョコなき世界』なのだ。
「なぁ、ルカ最近ヤバいだろ」
目の前に本人がいるのだから、おまえ最近ヤバいだろ、と言えばいいものを、田名瀬は少し距離を取って言う。
「就職決まっとらんからね~」
石見知子が断定する。チョコのことで頭がいっぱいだからだよ、と言い返してやろうかと一瞬本気で思う。でも、やらない。チョコってなぁに? そう聞かれるだけだからだ。
「ホント大丈夫か? けっこう煮詰まってんじゃないのか?」
田名瀬が、今度はぼくの顔を覗き込むようにして言う。
「大丈夫だよ」
そこで沈黙。ぼくは石見知子から言葉が出るなと予測する。とにかく喋っていないと生きられない女なのだ。
「ルカっち、学食行こ~よ」
まだ1限が終わったばかりだ。お腹が空いていない。
「ご飯じゃなくて、お茶しよ~。ねぇねぇ、いいから、行こ~」
首を振ったぼくを、無理に立たせようとする。
「今週さぁ、私のすっご~く好きなんが出てんよ~。おごっちゃうからさぁ」
「石見が好きなものって、ニューヨーク・チーズケーキか?」
現実世界では、石見知子はそれが大好物だった。しかしぼくの言葉に石見知子は、きょとんとした顏になって引っ張る手を止めた。もしかして、ちがうのだろうか。もしちがってたら、これもまた現実世界との相違点だ。
「ちがった?」
「いや、そ~だよ。そ~だけどぉ……」
なんだ、合ってんじゃないか。ぼくは拍子抜けした。
「いいよ、おごりなら。食べに行くか」
「えっ、あ、うん」
めずらしく声がくぐもって消え入りそうだ。なんだ、石見知子の方がぼくよりよっぽど変じゃないかと思いながら。学食へと向かっていった。
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