第7話

「アンティシペーション、少し手伝ってくれますか?」

「分かっている。俺も戦おう」

「あとあれを使って欲しいかなあ」

「…今回だけだぞ。未来予知プリーシスエンス


 アンティシペーションが魔法をサプライズにかけると、早速動き出した。


痺れ羽パラライシス・ウィング!」

「ダングリア、俺の後ろに!高速化モア・スピード!」


 俺はダングリアを守るようにしながら、羽を打ち落としていった。


「くそっ!なんだこれは!!」


 剣を振った後にまた羽があり、高速化していないと必ず当たるように羽が飛んできていた。

 しかもどれも嫌なパターンだ。


 軽く斬り落として少し遠くにある次の羽を落とすときに強めに剣を振る。

 そこに重ねて来るため、今度は強めに振った剣を力強く抑えなければいけない。

 要するにほとんど全力で剣を振らなければいけない。


「たった一人でも化物級なのに一人加わるとは。これはピンチかもしれませんねー」

「だがダングリアは本来の力を使えない。片手を失っているのは大きいはずだ」

「そうだね。庇いながら戦うのにも限界がありますから」


 アンティシペーションが言った通り、ダングリアはハンマー使いなだけあって、両手ではないと全力で振ることができない。

 代わりとしてハンマーを小さくしても、それは相手には効かないだろう。

 出来れば腕を治す回復魔法を使いたいが、俺だと時間がかかる。

 サミナかアナスタシアがいればすぐにできるのだが……。


「ダングリア、近くにドラーグたちはいるのか?」

「いや、いない。訳があって俺一人なんだ」

「…そうか。痛くて辛いだろうが、今は耐えていてくれ」


 戦って勝つ希望は薄いな。

 ダングリアのことを思うなら、逃げるのが得策だな。


「ここは逃げるぞ」

「分かった。タイミングは合わせるが、大丈夫か?」

「策はある。行くぞ!」


 俺はサプライズとアンティシペーションに向かって殺意を込めて剣を2回振った。


光雷斬撃ライトニング・スラッシュ!」

「っ!?まずい!ロック――」


 アンティシペーションが焦り始め、魔法を唱え始めた。

 だがその時、斬撃は光を放ち始めた。


「「!?!?」」


 光は目くらまし。

 俺たちと周りにいる人たちは光に囲まれた。


「………」

「やられましたね」


 光が消えた時、アキヒサとダングリアの姿はなかった。


「ダングリア、腕は回収していたか?」

「ああ。この通り」

「今治すから、少しだけ持っていてくれ」


 俺たちは少し離れた町の細道に移動した。

 町の人達はサプライズたちがいるところに集まっている。

 大きな通りも人が少ないだけあって、細道付近には誰一人いなかった。


「よくあいつらを騙せたな」

未来予知あの魔法に仕掛けがあると思ってそれを試したんだ」


 あいつらが使っていたのは未来予知。

 だが魔法で使っているだけあって、完全ではないのかもしれない。


 全部が分かったわけではないが、恐らく最初の行動によって未来が見れるのだと思う。


 最初は『避ける』と考えて、最後まで避けていた。

 だから嫌なように羽が飛んできていたのだと思う。

 なら途中で変えてみたらどうだろうか?


 さっきほどの斬撃は、最初は殺す気で使った。

 そのため、アンティシペーションが動いたのだと思う。

 確かに当たれば重傷どころではなくなる。

 だから向こうが動き始めた瞬間、俺は『殺す』から『目くらまし』に変えたのだ。


 だが『目くらまし』だと分かり、それを見られればまた未来予知をされるだろう。

 そうすれば避けられていたんじゃないかな。


 これはタイミングを見計らってやらないといけない。

 俺たちがこのことを気づいたから、あいつらはもう隙は見せないだろう。


「それで、なぜ一人でいるんだ?旅をしていると聞いていたが」

「そうか、こんな場所にいても情報はしっかり回っているんだな。その話の中に俺の名前、ダングリアの名前はあったか?」

「いや、ドラーグを中心に活動しているとしか……」


 確かに名前は見ていないし聞いてもいない。

 ドラーグは聞いているものの、サミナ、アナスタシアの名前も聞いてはいなかった。


 だが、俺が置いて行かれた時はみんなドラーグについて行っていたんだ。

 みんなが行動していると思っていてはおかしくない、そう考えていた。


「あの後、確かに俺たちは悪魔を潰すために行動をしていた。だがそんな時、事件が起きたんだ」

「事件……?」

「ああ。それは獣人と人間がもめているときに起きたんだ」


 それは初めて聞く。

 いや、詳しく知らないだけかもしれない。

 獣人も倒していれば、人間まで倒しているとまでは聞いている。


「ある町での出来事なんだが、そこは魔王が死んだということで獣人を受け入れていたんだ。それは町の人達も了承済みだったため、俺たちが訪れた時は平和な町だった」


 ここ数年の間、そう言った町が増えているのは少しだけだが聞いていた。

 やはりみんなは平和を望んでいるようだ。


「だがドラーグはその町を気に入らなかった。その時、俺たちはドラーグを抑えるのに必死だったんだ。そして事件は起きた。

 町を歩いていると獣人の子供と人間の子供が些細なことでケンカをしているのをみかけたんだ。話を聞く限り、人間の子供の方が悪かったし、獣人の子供がケガをしたから一目瞭然だった。

 そしてドラーグが何をしたと思う?」

「あいつのことだから人間の方が正しい、とか言ったんじゃないのか?」


 毛嫌いと言えるほどドラーグは獣人を嫌っている。

 あいつなら普通に言いそうだ。


「それだけだったらよかったよ……」

「それはどういうことだ?」

「…殺したんだよ、その獣人の子供を」

「っ!?!?」


 驚きのあまり、声が出なかった。


「その時、俺とサミナとアナスタシアはこう思ったんだ。『俺たちはこんなことのために戦っているのか?』ということを」


 ダングリアはまるでさっき起きたかのように話した。


「そして俺たちはドラーグ抜きで話し合ったんだ。このままついていくかどうか、と」

「それで抜けた、と?」

「俺はその時にすぐ抜けた。サミナとアナスタシアはいい町を見つけたらその時に抜けると言っていた。今はもうやめていると思う」

「じゃあ今はドラーグ一人で?」

「もしくは新しく仲間を入れていると思う。アキヒサは俺たちにとって大きな存在だったんだ。新しい仲間を集めるために旅の途中、声をかけるときがあったからな」


 そんな事件が起きたのにドラーグはまだ活動しているのか。

 家族が殺されて恨むのは分かるが、流石にやりすぎだ。


 そう考えているとき、ダングリアは泣き始めた。


「どうした?腕ならもうすぐ治るぞ」

「違うんだ。俺は、いや俺たちはアキヒサに許されないことをしてしまったんだ。アキヒサが言っていたことは間違っていなかったんだ。なんであの時、アキヒサの言う事を聞いてやらなかったんだと」


 確かにみんなはドラーグに賛成してついて行った。

 そのことは5年経った今でも鮮明に覚えている。


「俺は、すぐに許せることはできない」

「そうだろうな。死んでも償えない、それほどのことだと考えたこともある」

「そう思ったのなら、今からでも変わってくれ。一緒にいることは難しいが、平和のために動いてくれれば気持ちが変わるかもしれない」

「…分かった。これからはドラーグのようなやつが生まれないように動こう」


 一人でも多く平和のために動いてくれるなら確実に平和へと動いていく。

 完全に許せるほど俺は大きくはないが、それでも少しずつ変わっていくだろう。


「そう言えばあの獣人の赤子は?」

「一緒に暮らしているよ。今は友人に見ててもらっているが」

「そうか、よかった……」

「よし、回復は終わったぞ」


 ようやく治していた腕は戻り、ダングリアは試しに動かしていた。

 時間はかかったものの、腕があったから無事に元通りに戻せた。


「俺は戻るけど、ダングリアはどうする?」

「俺はこのまま旅に出る。だがまた捕まらないようにまずは仲間をつくるよ。種別関係なく、ね」

「ああ、応援している」


 ダングリアのケガも治り、決意も固まって別れようとしたその時だった。

 後ろからガサゴソと物音が聞こえた。


「ここにいたか」


 殺気とは違い、今度は怒っている顔をしたお面を被っている者だった。

 そして驚いたことに、頭に二本の角が生えている。

 これは悪魔の特徴だ。


「俺の名はアングリー。話を聞いてやってきたが、よくも処刑パーティーを邪魔してくれたな」


 その声はお面通り、怒りの声だった。

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