第6話
「まずは紹介からしよう!」
「そんなことより早くしろ!」「いいから殺せ!!」
「まあまあ、慌てない慌てない。知らない人もいるだろうからしっかりと説明しないとね!」
ダングリアの近くにいるお面を被った獣人がまるでショーをするかのように話し始めた。
「進行は
「………」
「この暗い男、アンティシペーションで行います!」
周りの歓声は一気に上がった。
よく話しているサプライズという男は鳥、無口のアンティシペーションという男は猿の獣人だ。
それぞれ驚いた顔、何かを考えている顔をしたお面をしている。
「まずダングリア・バーク、ダングリアは勇者アキヒサと一緒に魔王を倒すために戦った仲間の一人です!そして5年前、とうとう魔王を倒しました!!」
さっきの歓声が嘘かのように消えた。
集中して聞くためのように。
「だが!魔王を倒した勇者一行は目的を失い、殺戮を繰り返す悪魔となったんです!悪魔を倒したと思ったら獣人を殺し、そして同じ人間まで殺し始めたのです!」
「情がない奴だよなあ」
「ああ、あいつらが生きているならいっそ魔王が生きていた方がよかったんじゃないのか?」
周りにいる人達がざわざわと話し始めた。
どこの話も全部勇者たちを批判する話だけ。
だれもダングリアに同情する者はいなかった。
「さてさてー?この悪魔と化したこの男を放置しておくべきかなー?」
「よくないだろ!!」「生かすな!!」
「でしょー!だから僕たちは頑張って一人、こうして捕まえたのです!」
「やるじゃねえか!」「どこのどいつか分からないが、よくやった!!」
「お褒めの言葉ありがとう!僕たちも嬉しいよ、こうしてみんなも喜んでくれて!」
ここはもう、サプライズの独擅場だ。
声はサプライズの元へ全部響いた。
「それでみんなに聞きたいことがあるんだ。こいつをどう処刑するか悩んでいるんだ」
「楽に殺すな!」「痛みという痛みを与えろ!!」
「おぉ、怖い怖い。僕たちでもそんなこと思いつかないよー」
「嘘をつけ。そんなこと考えているならこんなところで殺さないだろう。いいから早くやるぞ」
「おっ、ようやくしゃべったね」
「………」
「ありゃりゃ、また黙っちゃった」
アンティシペーションがようやく話したと思ったらまた黙ってしまった。
「じゃあ期待に応えて、まず腕から行こうか。そーれ!」
「――っ!?!?!?」
「「「「「うおおおおお!!!!」」」」」
サプライズはダングリアの左腕のほうに移動すると、容赦なく左腕を斬り落とした。
ダングリア口を縛られているため、声を出せない。
声を出せないが、痛みのあまりに涙をボロボロと流し始めた。
そんな光景を見ていると、俺の服が引っ張られた。
「ねえねえ、何が起きているの?」
「見ちゃだめだ……」
「? なんでー?お祭りなんじゃないの?」
「祭りなんかじゃない」
これを祭りというなら、そいつは悪魔だろう。
「ガガドラ、ピースを頼む」
「おいおい、あの中に行くのか?」
「ああ、そのつもりだ」
これ以上黙って見ていられない。
「アキヒサが裏切らたことも知っているし、お前なら助けることも分かっていた。だが危険すぎる」
「大丈夫だ、無理はしない。だから頼む」
俺は今までにないほど、真剣な目つきでガガドラを見た。
決意が分かったのか、ガガドラは話し出した。
「…無理をするとグラドリアに怒られるからな」
「気を付ける。ピース、パパはちょっといなくなるけど、ガガドラと一緒にいられる?」
「うん!でも早く帰ってきてね」
「うん、絶対に帰ってくるよ。それとそのお面を貸してもらっていい?」
「いいよ!はい」
これを被れば正体は隠せるだろう。
「じゃあ行ってくる」
「がんばってね!」
俺はフードをさらに深くかぶり、そしてお面を付けた。
久しぶりの戦闘になりそうだな。
5年というブランク、大丈夫だろうか。
「ブレイブ・バトルモード」
これも久しぶりに使うな。
勇者スキルの一つ、勇者の戦闘用魔法。
戦闘に必要な身体能力を向上させて基礎能力を上げてくれる。
「待ってろよ、ダングリア」
俺は観客の上を飛んで一気にダングリアがいるところまでやってきた。
周りにいる人たちはサプライズから俺へと視線が移った。
「誰でしょうか?ゲストは用意していないのですが、まさかサプライズがサプライズにあうとはねー」
「御託はいい。
「ほう!こんなにも人がたくさんいる中で奪還とは、随分と強気ですね!」
挑発するようにサプライズは言い出した。
周りにいる人たちは先ほどとは違い、殺気を放っている。
だが、それぐらいでは動じない。
仮にも魔王を倒した男なんだから。
俺はダングリアが話せるように口を縛っていた布を斬った。
「話せるか、ダングリア」
「その声は…アキヒサ、なのか?」
「そうだ、助けに来たぞ」
俺は周りには聞こえないようにささやくように話した。
「――ほうほう、勇者様のご登場と」
「!?アキヒサ!後ろ!!」
「分かっている」
後ろに移動していたサプライズは俺に攻撃をしてきた。
身体能力だけではなく、こういった察知能力も上がっている。
お面の意味がなかった、と思ったが観客の方は気づいていない。
ならまだマシだろう。
「神聖の剣」
「おっと!危ない危ない」
殺す気はなかったが、それなりに力を入れて剣を振った。
だがそれは当たるどころか、簡単に避けられてしまった。
「そいつは素早い。複数で囲って倒さないときついぞ」
「なるほどな、そういうことなら対策はある。
「…これはまずいですねー」
俺が使える魔法の一つ、分身。
言葉通り俺の分身ができる。
「「これなら避けられないだろう」」
「アンティシペーション!」
「右に30センチ、50センチ程度ジャンプをし、そのまま真っ正面を蹴ろ」
「ぐあっ!?」
俺の分身がやられた。
まるで動きを知っていたかのようにかわされ、反撃までされた。
「倒すなら鳥の獣人より猿の獣人を倒せ。あいつがいる限り攻撃は当たらないぞ」
「どうやらそうみたいだな」
「次いくっすよー!」
「気を付けろ。仮にも勇者だ。気を抜いたら死ぬぞ」
「わかってるってー!」
そして俺に飛びかかってきた。
「大丈夫、殺しはしないから。ショーのゲストとして歓迎しますよ!
「
高速化の魔法を使い、飛んでくる羽たちを避けた。
数は多く、よけきれないのは何枚か落としていった。
「次はこっちの番だ!」
「おっと、いきなり頭は潰させないよー」
先にアンティシペーションを倒そうにも、サプライズが前に出て邪魔をする。
「左後方に足を動かし、体を後ろに曲げろ。手を地面につけて地面を思いっきり蹴り、そのまま後ろに飛べ」
「くそっ!」
また全部かわされてしまった。
当たればそれなりにダメージを負わせられるのに!
「アキヒサ、俺の拘束を解いてくれないか?」
「だが、そのケガだと――」
「大丈夫だ。まだ動ける」
「…分かった」
俺はダングリアの拘束具を外した。
使われていた拘束具がベルトと似ていて、ダングリアの左腕に巻き付けて止血した。
「だがお前のハンマー、ドルマーがないけどどうするんだ?」
「なくなった時用にしっかりと対策をしている。
ダングリアは大地に手をつくと、そこからハンマーがつくられた。
片手で持てるよう、少し小さめのハンマーを。
「もう行けるぞ」
「よし!久しぶりの共闘だ!!」
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