第22話 作業99

「アンディ……」

「ごめんなさい……」


 僕とお父さんは、窓から外を眺めていた。

 きれいな青空だ。


「すごいねー!まさかこんなになるなんてー!」

「本当、すごいよ……」

「お母さんが見ていたらそれどころじゃなかったかもね」

「急用が入って出かけていてくれてよかったよ」


 お母さんはお友達と食事の為、今日はいない。

 普段も外出していることが多い。


 だけど今日は元々、家にいる予定だった。

 友達から連絡がきて出かけることになったため、家にはいない。


「見て!鳥がたくさんこっちに向かって飛んできたよ!」


 窓からはたくさんの鳥が飛んでいるのが見える。

 鳥が同じ高さで見えるけど。


 そう、家は今空にいる。


*


 事の始まりは1時間前。

 お姉ちゃんの一言で始まった。


「大きい魔法陣を描きたい!」


 確かに大きい魔法陣がどうなるかは気になる。

 大きければ大きいほど、中に描けるものが増えていく。


 そのため、大規模な魔法になればなるほど大きい魔法陣となる。


「でも何を描きたいの?」

「うーん……」


 肝心な描きたいものがなかったみたい。


 でも大きく描くならそれ相応の物ができてしまう。

 ここは不用意に動かないように見ておかないと。


 なんかお姉ちゃんを見張るっておかしいな。


「決めた!」

「何にしたの?」

「ちょっと待ってね」


 そう言うと紙に何かを描き始めた。


 てっきり魔法陣かなあと思ったが違う。

 一枚の絵だった。


「こんな風に大きな熊をつくりたいと思う!」

「ほうほう……」


 よくある熊のぬいぐるみだ。

 絵の熊は可愛いことにちょこんと座っている。

 確かにいい案だとは思うけど、気になることがある。


「それって大きい魔法陣じゃなくていいんじゃない?」


 ぬいぐるみをつくるなら別に普通の紙に描けばいい。

 わざわざ大きく描く必要はない。


「違う違う!ここを見て!」

「ん?」


 ちっちゃく熊の絵の横に文字が描かれている。


「岩……?」

「うん!大きな熊をつくろうと思うの!」


 いや、でかすぎない?

 下手したら公園に置いてあるオブジェクトサイズになりそうなんだけど。


「じゃあさっそくやろう!」

「ちょっ、待ってよー!」


 思い立ったが吉日、というより即行動。

 行動力が有り余っている。


 場所は移って家のはずれ。

 迷惑が掛からないように場所を選んだんだろう。


「ちょっと待っててね」


 そう言うと木の枝を拾い、まずは大きい円を描いた。

 最初の円は大きさを決めるから重要なものだ。


 ちなみにだけど、円の大きさは半径3メートル。

 大きいとは思ったけど、この後中に文字を描くと考えたら面倒くさそう。


「そういえばここって岩がないけど」

「土を地面から出して固めて、それを削っていこうかなあって」


 もう考え方がすごい。

 無いなら作ればいいって。

 その頭の回転力が普段の勉強にもあったらよかったのに……。


「えっと、そうなるとこの文字が必要になるから――」


 ついてきたものの、お姉ちゃんが描いている間は暇になってしまう。


 描いているところを見ていればいいかと思うけど、スキルがないとチンプンカンプン。

 今は下げてしまっている。

 なんでこの魔法はこうしないといけないのかという疑問ばかりで全然頭に入って来ない。


 もしかして自分流に魔法陣の中の文字を変えられないのか?とも思った。

 試しにやってみたけど、失敗。


 どうやら魔法陣は、決まっているやり方を上手く重ねないといけない。

 それを全部覚えて応用だなんて。

 僕には無理だと思った。


「よし!できた!」


 そんなことをお姉ちゃんが簡単にやってしまう。

 傍から見ると、『僕もできるんじゃないのかな?』と思っても仕方がない。


 それほどお姉ちゃんは自然に描いてしまうんだから。


「どうしたの?」

「いや、ちょっとボーっとしちゃっていただけ」

「そう?じゃあさっそくやってみるよ!」


 お姉ちゃんと僕は魔法陣から離れた。

 ちょうどいい距離まで離れると、お姉ちゃんは手を叩いた。


 発動条件は手を叩く。

 発動回数はこの1回だけだ。


 まずは地面から円柱状の土が固まった岩もどきが出てきた。

 そして、まるで何かに斬られたかのように少しずつ崩れていった。


 やがて、ただの円柱だった岩の柱は熊へと変わった。


「やったー!成功だよ!!」

「すごーい……」


 あっけに取られてポカーンと口を開けたままでいた。


 作業が必要で場所はとるものの、こうして魔法が使われるのを見るのは結構好き。

 それと、工場見学をして商品ができる過程を見ているみたいでこれまた面白い。


「でもいちいち動いて描くのが面倒くさそうだね」

「うん、でもこうしないと描けないし!」


 それならいい方法があるんじゃないかな?

 なんたって僕にはたくさんのスキルがある。

 その中に良いのがあるかもしれない。


 と、スキルを見る前に僕たちは家へと戻ってきた。

 さっきの熊は一応そのまま壊さずに取って置いた。


 エイミーやリリスが見たらどう思うんだろう。

 驚きより可愛いが先に出るのかな?


 まあ、それもいいけどスキルを見てみよう。


「スキルオープン」


 何かいい方法がないかと調べ始めた。


 まず一番に思い浮かんだのが飛行。

 そうすれば飛びながら描ける。


 ちなみにだが、魔法陣だと認識されれば描く方法は特に決まりはない。

 チョークはないが、運動場によくあったラインカーと似たように粉で描く人もいる。


 さて、それを使って飛行を使うのかどうかと言えば面倒くさいだろう。

 何せ後から書き足すたびにそこまで飛ばないといけないからね。


 巨大化なんていうのもある。

 お姉ちゃんが大きくなって描くのもありかなあと少し思ってしまった。

 でもそうなると、お姉ちゃんが動いただけで被害が出てきそう。


 それなら単純に作業っていうのを上げてみるのもいいかもしれない。


 作業が早くなるものかと思ったが、これとは別に作業効率と言うのがある。

 こっちは作業をする方法をたくさん使えるようになり、効率はそれをどう使えば一番なのかが分かるやつだと思う。

 実際に使ってみないと分からないけどね。


 とりあえず作業を上げてみよう。

 上げた瞬間、作業の使い方が頭の中に入ってきた。


「…あっ!これいいかもしれない」


 口だけで説明するより、使いながら教えたほうが分かりやすいかも。

 どういうものかもわかったし、お姉ちゃんに渡そう。


 僕は前の付与をまた使い、今度はお姉ちゃんに作業を渡した。

 なんだかんだで、この付与が一番やばい奴だよね。


「ん?アンディ何かした?」

「僕からのプレゼント!何が変わったか分かった?」

「あまり分からないけど、何かを貰ったことはすぐ分かったよ!」


 うーん、上げた時にしか分からないのかな?

 贈っても分からなかったらそれはそれで面倒くさいけど。


 まあこれぐらいデメリットが合ってもおかしくはない。

 と言うかデメリットが無さ過ぎて逆に怖いよ、この付与。


「じゃあまず『メイキングスタート』って言ってくれる?」

「メイキングスタート!」


 すると、お姉ちゃんの目の前に画板が現れた。


「これは?」

「これは大きな魔法陣を描くときに便利なものだよ!わざわざ移動しなくても大丈夫!」

「へぇー!すごい!」


 確かにすごいものだよ。

 まさかこんなものがあるとはね。


「でも何もないよ?」

「ここの家をイメージしてみて」

「イメージ……」


 すると、画板に家を空から撮ったような写真が出てきた。


「これは?」

「これに魔法陣を描けばそこに魔法陣が浮かぶんだよ。さっきの熊の近くで試してみたら?」

「わかった!」


 そう言うと黙々と魔法陣を描き始めた。

 さっきの熊と同じ魔法陣で、すぐに描き終わった。


「それでどうすればいいの?」

「うーん、完了とかもないし……。見に行ってみようか」


 さっきの熊のところへと戻ってきた。


 何とそこには新しい魔法陣が描かれていた。


「これは、鉛筆の芯を削ったやつなのかな?」


 まるで空から雪のように降ってきたみたいだった。

 てっきり地面が掘られていたりしているのかと思ったけど。

 元々あるものに被害が出ないよう、粉状の物が降ってきて描かれるのか。


 新しくできた魔法陣を見たお姉ちゃんは手を叩いた。

 さっきと同様、同じ熊ができた。


「すごい!これなら簡単に大きな魔法陣が描ける!」


 ちなみにだけど、拡大縮小の機能も付いている。

 まるでパソコンで絵を描くように魔法陣を描くことができる。


「ちょっと魔法陣描いてみるね!」

「あまり無理しないでよー!」


 お姉ちゃんは走って家に戻っていった。

 相当嬉しかったみたいだ。


「さて、僕は家で出来るのを待とうかな」


 僕も家に戻った。

 ゆっくり歩いてだけど。


 お姉ちゃんが描き終わるのを待っている間、段々眠くなっていつのまにか寝てしまった。


*


「――ンディ。アンディ!」

「んー?お父さん?」

「起きてくれ!一体、何かやったのか?」


 今日、お父さんは部屋で仕事をしているはず。

 でも今は僕の目の間にいる。


「何かあったの?」

「家が浮いているぞ!」

「えっ!?」


 僕は慌てて外が見える窓へ向かった。


 そこには鳥が同じ高さで飛んでいて、雲がとても近くに感じる場所だった。


「本当に浮いている……」


 まさかお姉ちゃんが!?

 いや、でもさすがに飛行の魔法までは出来ないでしょう。

 それに家を丸ごと浮かせるなんて――


「アンディー!外見た?やっとできたよ!!」

「出来たって?」

「新しい魔法陣!こうして家を浮かせることができたの!!」


 ……出来ちゃっているし。

 まさかそんなことが。


「アンディ……」

「ごめんなさい……」


 その後、魔力切れかは分からないけど、家はゆっくりと地面へと戻っていった。

 家にいる他の人達は笑っていたが、僕はどうしても笑えなかった。


 不用意に渡すのは今度から気を付けよう。

 そう心に決める日であった。

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