第15話 身体能力99

 お昼を食べた午後。

 今日はエイミーと一緒ではない。


 その理由は、お姉ちゃんと一緒に遊んでいるため。

 今日は女の子同士で遊ぶみたいだ。

 ちょっとハブられた感じがするのが少し悲しいけど。


「ワンッ!」

「えっ、ボール遊びですか?」

「ワンワンッ!!」

「いいですよ、分かりました。もう少しでお掃除が終わるので待っていてください」


 廊下の先からドラグノールの鳴き声と誰かの声が聞こえた。

 誰がいるんだろう?


「あれ、坊ちゃま?」

「ルーシュか。もしかしてお仕事中?」

「はい。もう少しで終わりますけど」


 ルーシュはいつも掃除、洗濯や料理の手伝いなど幅広く仕事をしている。

 すごく大変だろうけど、本人自らやりたいと言っているためよく頼まれている。


 だけど働きすぎもよくないため、母親のアンドレアがストップをかけたりする。

 もちろん僕たちもしっかり休んでねと言っている。


 今日はたしか午後から休みなのに仕事をしていた。

 頑張って働いてくれるのはうれしいけど、体を壊さないでほしいから休むときは休んで欲しい。


「午後からお休みらしいけど、どこかに買い物とか行くの?」

「いえ、ドラグノールが遊びたそうなので一緒に遊ぼうかと。それに欲しいものがありませんので」


 年頃の女の子とは思えない発言だ。

 こっちのほうも心配になってきたよ。


「いいの?せっかくのお休みを使ってドラグノールの相手まで。僕は今暇だから変わろうか?」

「大丈夫です!むしろうれしいほどですので!」


 そう言うと、ドラグノールに抱き着いた。


 そういえばモフモフが好きなんだっけ。

 成長してからけっこうモフモフ度が上がったからなあ。

 嬉しそうに抱き着いている。


「それにしてもルーシュと同じぐらいまで大きくなるなんてね……」

「本当に驚きですよ。もしかしてもう越しちゃったかな?珍しいワンちゃんみたいですね」


 あぁ、うん。

 なんかもういっそワンちゃんでいいかも。


「よろしければ坊ちゃまも一緒に遊びますか?」

「うーん、そうさせてもらおうかな。特にやることもないし」

「ではもう少し待っていてください。向こうのお部屋で終わりなので」

「うん、急がなくていいからね」

「はい!」


 掃除をするために小走りで行った。

 たった今、急がなくてもいいって言ったのに……。


「さて!ドラグノール、ルーシュが戻ってくるまでもう少し待っていようか」

「ワンッ!」


 ドラグノールは床に座った。


 …ずいぶんとボサボサだな。

 少し毛づくろいでもしてあげようかな。


「ドラグノール、おいでー」

「ワウ?」

「ほら、毛づくろいしてあげるから」

「ワンッ!!」


 毛づくろいと分かった途端、嬉しそうにやってきた。

 やっぱり自分でもボサボサが気になっていたのか。


 ドラグノールが来てからペット関係の物は一応そろっていた。

 お父さんがすぐに用意したみたい。

 ドラグノールが来て一番うれしかったのはお父さんだったんじゃないかな?


「くぅ~ん」

「そうかそうか、そんなにうれしいか」


 ひっくり返り、お腹を見せてきた。

 そんなにうれしかったのか。

 ついでにお腹を撫でておいた。


 数分後、ブラッシングしていたらルーシュが戻ってきた。


「お待たせしまし――あぁ!!」

「ど、どうしたんだ?」


 僕とドラグノールを見るや否や、走ってこっちまでやってきた。

 なに?何か怒らせることしちゃった?


「あとで私がブラッシングしようと思っていたのにぃ~……」

「ご、ごめん」


 聞いていなかったから仕方ないじゃん。

 見ていて気になっちゃったからブラッシングしちゃったよ。


「今からでもやる?」

「いいんですか!」

「うん、ほら」


 ブラシをルーシュに渡して選手交代。

 ルーシュは嬉しそうにブラッシングしている。


 心なしか、ドラグノールはさっきより嬉しそうだった。

 もしかしてルーシュは時々ブラッシングしてあげていたのかな。

 ドラグノールがボサボサだったの、なんだかんだ今日初めて見たかもしれない。


 1時間後、ようやくブラッシングが終わった。

 僕はいつの間にか寝ていてしまった。

 ブラッシングにそんなにもかかるのか……。


「よし!じゃあお外に行きましょうか」

「ワンッ!」

「あ、でもせっかくブラッシングしたからあまり暴れちゃいけないよ?」


 ドラグノールはボールを持って外へ走っていった。

 僕たちは追いかけるように外へ出た。


 僕たちが外に出ると、ドラグノールがルーシュにボールを渡した。


「それっ!」


 ルーシュがボールを投げると、上手にドラグノールがボールを取った。

 平和だなあ。


「ワンワン!」

「きゃあっ!」


 そう思っていた時、ルーシュが悲鳴を上げた。


「どうしたの!」

「ぼ、坊ちゃま!今はこっちを見てはダメです!!」

「……」


 ごめん、心配になってすぐ見ちゃった。


 見えた光景はドラグノールがルーシュの足と足の間に入ろうとしていた。

 ルーシュは必死にスカートを抑えて耐えていた。

 何をしているんだよ、ドラグノールは。


「うわぁ!?」

「おおぉ……」


 ドラグノールはルーシュを背中に乗せた。

 何かやりたいんだろうなあと思っていたけど、ルーシュを背中に乗せたかったみたい。

 同じぐらいの大きさなのによく持てるなあ。


「あ、危ないよ、ドラグノール!」


 持ち上がったのはいいけど、ドラグノールが歩き出すとルーシュが落ちそうに揺れている。

 どうやらルーシュはバランスを取りにくいようだ。

 どうにか安定させる方法はないかなあ。


 そうだ!ルーシュのバランス感覚が高ければいいんじゃないのか?

 反則な気がするけど、ドラグノールが乗せたそうにしていたから付与プレゼントで渡してあげよう。


「スキルオープン」


 バランス感覚というのは…やっぱりないよねぇ。

 単純にステータスなのかな?


 いや、身体能力っていうのがあった。

 こっちのほうがよさそうだから99にあげてっと。


 次に付与プレゼントだ。

 以前使ったときは、贈ったらスキルが1から再スタートだったけど、付与自体は下がっていなかった。

 じゃあこれをまた使えばいい。


付与プレゼントが選択されました。99まで上がっているため、贈れるものの制限はございません。対象はルーシュです。何を贈りますか?』

「身体能力で」

『かしこまりました。ルーシュへ身体能力99を贈ります』


 よし、これでうまくいくだろう。


「あ、あれ?安定してきた。段々慣れてきたのかな?」


 さっきとは違い、揺れることなく安定して乗れている。

 成功したみたいだ。

 でもスカートだけど大丈夫なのかな……。


 そんな二人を見ていた時、背中を誰かにつつかれた。


「ん?」

「ワンッ!」


 後ろにはドラグノールがいた。

 あっちにもドラグノールがいるし、分身なのかな?

 ドラグノールの分身を見ていると、さっきのルーシュと同じように足と足の間に入ろうとしてきた。

 ルーシュの時とは違い、僕は軽かったせいですぐに上に乗っけられた。


「ちょっ!いきなりは危ないって!」


 あ、あれ?

 さっき身体能力が上げたのに全然安定しない。


 そうだった!

 身体能力は贈ったから再スタートになったんだ。

 もう1回上げないと!


 僕はまたスキルを上げ、ドラグノールに乗った。


 なんでドラグノールが急に僕たちを持ち上げたのか。

 どうやらドラグノールは大きくなったことが嬉しくて乗せていたみたいだった。


 その後は嬉しそうに庭を走り回っていた。

 乗っている僕もけっこう楽しかった。

 けど2メートルをも超えるジャンプをしたときは生きた心地はしなかったよ。

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