第13話 増殖99

 あの後、僕たちがドラグノールを育てられることになった。

 それを聞いたダンフは喜んでいた。


 よかったら泊っていけばと言ったが、人のところに長くいるのは良くないと言って帰ってしまった。

 それから数日が経った。


 ドラグノールの餌当番は僕とエイミーがやることになった。

 一日二食で朝は僕、夕方はエイミー。


 僕が朝の当番になった理由は、エイミーがなかなか起きてこないからだ。

 元々エイミーは自分一人でやるつもりだった。

 だけどエイミーがなかなか起きてこず、ドラグノールがお腹空いているときの声は妙に悲しい気持ちにさせる。

 だから僕がエイミーに提案したのだ。


 次に餌について。

 餌は動物の大きな生肉。

 一応焼いたお肉と生肉を並べてどちらが好きか確かめたところ、生肉のほうが好きだったみたい。


 言語を使って話そうとも思ったけど、まだ生まれたばかりで言葉が分からないみたいだった。

 言語はあくまでも言語。

 元々別の言語を使って話せなかったら意味がなかった。


「ドラグノール、ごはんだぞー」

「ワンッ!」


 ドラグノールが僕の家に来て一日目。

 一番驚いたのが成長の早さだ。


 ドラグノールがお腹を空かせて僕のところにやって来た時だ。

 大きさが一回りどころではなく、べつのフェンリルかと思うほど大きくなっていた。

 その時にはもう僕と同じぐらいの大きさだった。


「ドラグノール、だよね?」

「ワウ?」


 どうやら合っているみたい。

 そもそも、この家にはドラグノール以外の動物はいない。

 一応ダルダやルーシュが見回るときがあるから他の場所からやってくることもない。

 正真正銘、ドラグノールだった。


「まさか一日でこんなに育つなんてね……」

「バウッ!」

「はいはい、おかわりね」


 ご飯を食べ終えたら吠えてきた。

 今では、僕の一日の食事分を一回の食事で食べてしまうほどよく食べる。

 そりゃあこんなに早く育つわけだ。


 そして数日が経った今。

 食事の量は最初の時の倍になっていた。


 そういえばいろんな絵を見た限り、フェンリルって結構大きかったよね?

 このまま育っていったら家の中にいられないんじゃないかな。


「おはよーアンディー……」

「おはようエイミー。ずいぶん早いね」

「ドラグノールが部屋にき――」

「「…あれ?」」

「「ワンッ!!」」


 僕の目、おかしくなっちゃったのかな?

 ドラグノールが二匹いるように見える……。


 いや見間違いじゃない!

 なんでドラグノールが二匹もいるの!?


 僕たちが驚いている中、ドラグノール同士がぶつかると一匹に戻った。


「これって魔法なのかなー?」

「そうだと思うけど、もう魔法が使えるんだね」


 生まれてまだ数日しか経っていない。

 もう魔法が使えるなんて…流石伝説の生き物だ。


「バウワウッ!」

「もっと欲しいみたいだって!あげてもいい?」

「しょうがないなあ、今回だけだぞ」


 エイミーを連れてきておねだりをするなんて……。

 なんて賢いワンちゃんなんだ。


「二人ともずいぶん早起きだな」

「おはよう」

「おはようお父さん、お母さん」

「おはようございまーす!」

「ワンッ!」


 食堂へ向かう途中の場所でドラグノールに餌をあげている。

 いつもはもう少し遅い時間にあげていたけど、今日は早く起きたからこうして出会ったのだ。


「それにしても驚いたな。犬は初めて飼ったんだが、こんなにも成長が早いとはな」

「そうね。本当にびっくりだわ」


 普通の犬ではないけどね、フェンリルですから。

 しかもどっちかと言うと狼。


「ねえねえ聞いて!ドラグノールは魔法を使えるんだよ!」

「ほう、すごいなドラグノール!見せてもらえるか?」

「ヴー、ワンッ!」


 ドラグノールはまた二匹へと増えた。

 見た目も変わらず瓜二つだ。

 どっちが本物なのかわからない。


「ほう!分身ツインズを使えるのか!」

分身ツインズ?魔法の名前?」

「そうだ。会得も難しいから非常に珍しいぞ」


 へぇ、この魔法は珍しいのか。

 まあ確かに使えたら強そうだし、会得は難しそうだよね。


 …というか、フェンリルがこの魔法を使えるってやばくない?


「この魔法って何かデメリットってあるの?」

「特にないな。分身のほうがやられたら消えるだけだし」


 そんなずるい魔法もあるってことね……。


 そうだ!僕もこの魔法を使ってみようかな?

 あるかは分からないけど。


「スキルオープン」


 分身なんてあるのかな?

 いつもはこうして探しているとあるんだけど、今回はないな。

 具体的すぎるとないのかも。


 分身…増える…増殖?

 まさかそんなわけ――あったわ。

 増殖、ねぇ……。

 なんかこう、別の言い方がよかったなあ。


 まあ、99まで上げてっと。

 上げたら分身ツインズは使えるようだった。

 さっそく使ってみよう。


分身ツインズ

「「「おおぉ……!」」」


 よかった、うまく使えたみたいだ。


 それにしても、分身ができても分身の方を動かすのが難しいな。

 感覚が増えて、手足がもう1セット増えた感じだ。

 ドラグノールはよくこんなのを使えたな。


「ワンッ!」

「ドラグノール、もうご飯は食べたんだろう?」

「くぅーん」


 ドラグノールはもう分身を解いていて、ご褒美をもらおうとしていた。

 それ以上食べると太っちゃうぞ。


「ん?」


 分身にも感覚がつながっているから、触られたりしたらすぐに分かる。

 これは誰かに引っ張られた感覚だ。


 分身のほうを見てみると、エイミーが僕の分身を持ち去ろうとしていた。


「…エイミー」

「なーに?」

「なーに?じゃないでしょ!勝手に持ってかないでよ!」

「ああぁ!!」


 分身は消しておいた。

 一体持っていって何をするつもりだったんだよ!


「かっこいいから一人欲しかったのに……」

「持っていかれたら僕が恥ずかしいよ……」


 もしかして部屋に飾る気でいたの?

 それは恐ろしい考えだぞ。


「さっ!朝ごはんを食べに食堂へ行こうか」

「ワンッ!」

「ドラグノールは食べたでしょう!」


 本当に食欲旺盛だな!


 その後、僕たちが朝ごはんを食べ終わってから会うと、ドラグノールは廊下で拗ねていた。

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