第9話 探索99

 鳥の鳴き声が聞こえる。

 もう朝になったのか。


 昨日はお腹いっぱいの中、ご飯を食べるということがあった。

 寝るまでが本当に苦しかったなあ。

 今度からごはん前に食べることは控えよう。


「坊ちゃま。もう起きられましたか?」

「ダルダ?もう起きたから入っても大丈夫だよ」

「失礼します」


 珍しいこともあるんだね。

 いつもはお姉ちゃんかルーシュが起こしに来るのに、今日はダルダが起こしに来た。


 ダルダはこの家の使用人だけど、ほとんどお父さんの執事。

 こういうことは大体メイドであるルーシュがやることが多い。


「珍しいね。今日、ルーシュがお休みになったとか?」

「いえ、そういうわけではございません。少し大変なことが起きてしまいまして……」

「大変なこと?」

「ええ、ですのでお早めに食堂へお願いします」


 ダルダはそう言うと部屋から出ていった。

 結局大変なことって何だったんだろう?


 とりあえず早く食堂へ行くか。

 うーん、あんな話をされるとあまり気が乗らないなあ。


 食堂へ着くと、廊下にはルーシュが立っていた。

 なんで中に入らずに外にいるんだろう?


「ルーシュ?」

「あっ、坊ちゃま。おはようございます」

「何しているの?」

「その、私なんかが中にいるのはおかしいと思い、外で待っています」

「??」


 何を言っているのか意味が分からない。

 私がいるのはおかしいって、ここのメイドなのに?

 中に誰かがいるとか?


「おはよー」

「やあ、おはよう」


 部屋に入ると、中にはお父さんと同じぐらいの男の人がいた。

 しかも目の前に。


「うわぁ!?」

「はっはっはっ、この子がアンディくんか?」

「そうですよ」


 いきなり何なんだよこの人!

 朝から心臓に悪いことしやがって!


「お父さん、この人は?」

「おっとすまない。私はジャック・ダディス・ユグドラシルという」


 ダディス・ユグドラシル?

 えっ、もしかして……。


「その顔は気づいたみたいだね。そう、私がこの国の国王だよ」

「ええええっ!!」

「あっはっはっ!そうは見えないだろう!」


 本当に見えないよ!

 だって服なんて貴族服はおろか、一般人の服のままだよ?

 それに、話し方に威厳はないし。


「今日は遊びに来ただけだ。エイミーはいないのか?」

「そろそろ来ると思うぞ」


 ちょうどその時、部屋のドアが開いた。


「おはようございま――パパっ!?」

「エイミー!!会いたかったぞー!」


 あれ?この前はお父様って言っていなかったっけ?

 ははーん、分かったぞ。

 家だとついつい別の言い方をしちゃうあれかな?


「どうしたのパパ?いきなり来ちゃって」

「たまには娘に会いたいからな!こうして来たんだよ」


 まだこっちにきて何日も経ってないぞ。


「実はもう1つ理由があって来たんだ」

「もう1つ?」

「私の娘をたぶらかしたという子供を見に、ね」


 ちょ、ちょっとなんですか?

 たぶらかした記憶ないんですけど。

 そんな怖い顔をこっちに向けないで。


「違うもん!アンディはたぶらかしていないもん!」

「冗談だよ、エイミー。アンディのことは昔から知っているからね」

「そうだったの!?」


 えっ?

 今日初めて会ったんだけど……。


「ああ。ダルクからよく聞い――」

「国王様!俺の話は別にいいでしょう」

「はっはっはっ!お前も私と同じだからなあ」


 お父さん、もしかして僕のことを外で話していたの?

 似たもの同士ってそういうことか。


「まあ今日来たのはエイミー、そしてみんなの顔を見るために来たんだ」

「仕事のほうはいいのか?」

「……」


 あ、これサボってきたな。

 固まっちゃってるよ。


「そんなことしていると、オリヴィアさんに怒られるぞ」

「だ、大丈夫だ。見つからないように抜け出してきたんだから」


 やっぱりサボっているじゃん。


「オリヴィアさんって?」

「私のママ。パパよりしっかり仕事しているかっこいいママだよ!」

「へぇー、そうなんだ。でも来ていないみたいだね」

「お仕事だと思うよ!いつもパパの代わりに仕事をしていたりしているから!」

「こらこらエイミー。そういうこと言っちゃダメだろう」

「だって本当のことじゃん!」


 娘にまでバレているって……。


「そうよ、いつも私がやっているんだから」

「お、オリヴィア……」

「ママー!」

「久しぶりね、エイミー」


 うわぁ、すっごい美人。

 これで仕事できるなんて完璧すぎる。


「それで、一体どういう事かしら?」

「これはそのー……」

「言い訳は帰ってから聞きます。ほら、帰りますよ」

「あっ……」


 出て行こうとしたとき、オリヴィアさんと目が合った。


「あなたがアンディくんね」

「そ、そうです。アンディ・ルーク・デルクと言います」

「いい子ね。エイミーはわがままだけど優しい子だから、よろしくお願いね」

「ママ!」


 エイミーは頬を赤く染めていた。

 なんかもう、結婚する流れになっているような気がするんだけど。

 そう思っているのは僕だけ?


「あれ?ジャックは?」

「こっそり抜けていったぞ」

「いつの間に……」


 本当だ、いつの間にかいなくなっている。

 逃げるの上手すぎでしょ。


「どうしよう、今日中にやっておかないといけない書類があるのだけれど」

「それならアンディに頼んでみようよ!」

「アンディくんに?」


 なんで僕に!?

 みんなで探すならまだ分かるんだけど……。


「頼めるかしら?アンディくん」


 せっかく頼られたんだ。

 期待に応えられるように頑張ろう。


「じゃあちょっとまってて。スキルオープン」


 この家を探すにも時間がかかる。

 それなら探索系があればいいんだけど。


 あ、探索があるじゃん。

 これを99にあげればすぐわかるんじゃないかな。


「見つけた!」


 ゲームのマップみたいに誰がどこにいるか分かる。

 けっこう便利だな、これ。


「早いわね……。それでどこにいるのかしら?」

「お父さんの後ろにある棚の中」


 ここの食堂には何やら高そうなものが飾られている。

 その下にある棚はそういうものが閉まってある。

 だけど数はそんなにあるわけではない。

 しゃがめば国王でも入ることができる。


「ジャックー?」

「ひぃ!?なぜわかったんだ!」

「なぜわかったんだ、じゃないでしょう!帰りますよ!!」

「いたたっ!わかった!わかったから耳を引っ張らないでくれ!」


 おぉ、怖い怖い。

 オリヴィアさんは容赦なく耳を引っ張って、二人は部屋を出ていった。


 あれ?でもなんであそこにいたんだろう?

 たしかお父さんは逃げたって言っていたような。


「お父さん、確かさっき――」


 あ、そっぽ向いた。

 なるほど、お父さんは共犯だったのか。


「おはよー!何かあったの?」

「お姉ちゃん、おはよう。いきなりなんだけど、お父さんがお姉ちゃんのご飯食べてみたいんだって」

「いいよ!期待していてね、お父さん!」

「? あ、ああ」


 その日の午後、お父さんはずっとトイレにいたみたいだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る