第4話 解毒99

「アンディ、何かしたのか?」

「何もしていないんだけど……」


 強いて言えばキズを治して一緒に遊んだぐらい。


「どうでしょうか?」

「どうもこうも、王女様が望むなら俺は構わない」

「ありがとうございます!」

「あのー、僕の意見は……?」


 なぜか勝手に、僕に花嫁候補ができちゃったんだけど。

 本人が目の前にいるのにガン無視するのよくないと思います。


「ダルク様、これを」

「ん?この封蝋の形、国王様からか?」

「左様でございます」

「では拝見しよう」


 お父さんはエイミーのじいやから手紙をもらうとその場で開けた。

 しばらく手紙を読むと、僕たちに話し始めた。


「わかった。では当分の間エイミーちゃんをうちで預かろう」

「えっ!?」


 一体どういう事!?

 なんでエイミーが僕の家に!?


「お父さん、手紙にはなんて書いてあるの?」

「見せるわけにはいかないが、簡単に言えば花嫁修業だそうだ」

「報告早すぎないかな?」

「にひひっ」


 王女様とは思えない笑い方をするなあ。


「国王様は娘を溺愛しているからな。報告を受けてすぐ書いたんだろう」

「権力を使う娘、恐ろしいな……」

「お腹が空いたわ!早くご飯を食べましょう」


 君のせいでこうなっているんだよ!?

 少しは自重をしてもらえないかな?


「……」

「お姉ちゃん?どうしたの?」

「べっつにー。なんでもないよ」

「でも怒っているように見え――」

「何でもない!いただきます!」


 そういうとご飯を食べ始めた。

 絶対怒っているよね。

 僕、何か怒らせることしちゃった?

 頼むから悩み事を増やさないでよー!


 エイミーが来たことにより、僕の生活が変わり始めた。


 食後、エイミーはお父さんたちと話や案内をするため、別々となった。

 僕はお姉ちゃんが気がかりだから、先に戻ってしまったお姉ちゃんの部屋へと向かった。


「お姉ちゃんいるー?」

「……なに?」


 暗い部屋の中、毛布にくるまっていた。

 そんな暗い中にいると目を悪くしちゃうぞ。


「えっと、エイミーのこと言ってなくてごめんなさい」

「……アンディはあの子のこと、どう思うの?」

「どうって、うーん……」


 どうと言われても、仲良く遊んでできた、こっちでの初めての友達としか。

 でもあんなにかわいい子と結ばれるのは正直うれしい。

 そんなこと言ったらまた起こりそうだし、うーん。


「とても自由で自分勝手で、ほっとけない感じかな」

「ほっとけない?」

「うん、最初あった時もケガをしていてね。木に登って部屋に入ってきたんだよ?それで治してあげたら今度は――」


 いつの間にか、僕はエイミーと会ってからのことを話していた。


「だから……あっ」

「ふふっ、初めて見た。アンディがそこまで人のことを話すなんて」

「い、いやぁ」


 ちょっと恥ずかしくなってきた。

 顔、赤くなってないかな?


「わかった!いいよ!」

「何がいいの?」

「そこまでいうならお姉ちゃん、結婚を認めるよ!」


 何でそうなるのおおお!!??

 そういうつもりで話したわけじゃないんだけど!


「お姉ちゃん、応援するから!」

「ちょっと待って、話を――」

「お姉ちゃん、まだお勉強が残っているから話はまた明日ね」


 言い訳をしようとしたけど、部屋から追い出されてしまった。


「おやすみ、アンディ」


 目の前でドアを閉められた。

 どうしよう、まさかそっちのほうへと説得することになるとは。

 僕は仕方なく部屋に戻り、寝ることにした。


 翌日、なにか異様な匂いがしたせいで朝早く目が覚めた。

 何の匂いかが気になり、食堂へ向かった。


「何の匂いだろう?」

「あっ、おはようアンディ!」

「お姉ちゃん?なんで台所に?」

「二人の結婚祝い!」

「いや、決まったわけじゃないし結婚もしていないんだけど……」


 そのために料理していたのか。

 でもこの異様な匂いはなんだろう?


「何をつくっているの?」

「ホワイトシチューだよ!」

「ホワイト……」


 そもそもホワイトシチューはこんなにおいはしない。

 隠し味で少し匂いが変わることはあるけど、そんなレベルではない。

 それに、ホワイトシチューなのに色は紫になっている。


「そうだ!ちょっと味見してみてよ!」

「えっ、お祝いなら僕たちは最後がいいんじゃ?」

「そんなこと言って、今すぐ食べたいっていう目をしているよ?」


 全然していませんから!

 どっちかというと、ここから逃げられないかを考えていたよ。


「ほらほら、あーん」

「い、いや今は大丈夫だから」

「……お姉ちゃんの料理は嫌なの?」


 涙目になり始めた。

 エイミーといい、女の子がそんな風に言うのはずるいって。

 昨日がんばって説得したのに、またふてくされるとめんどくさい。


 もしかしたらこのシチュー、美味しいという可能性がある。

 もうそれに賭けるしかない!


「あーん!」

「どう?美味しい?」

「!?!?」


 い、痛い!痛すぎる!!

 何で口に入れただけで足の指先まで一瞬で痺れ始めるの?

 だめだ、立っていられない。


「あ、アンディ!?どうしたの?そんなに美味しくて倒れちゃったの?」


 そんなわけあるか!

 全身麻痺で立っていられなくなったんだよ!

 一体何を入れたらこうなるんだ?


「す、スキルオープン……」


 早くしないと死んでしまう!

 見つけるのはただ一つ、解毒だ。

 こんなにあるんだから絶対にあるはず。


 あった!

 これを99にまで上げて……。


「!? 今度は急に立ち上がった!」

「お……」

「お?」

「オイシカッタヨ」

「本当に!じゃあみんなの分までつくってあげよう!」


 なんていうテロ行為をしようとしているんだ。


「待ってお姉ちゃん!こんなに美味しいのをみんなにあげちゃうと、お姉ちゃんがお店に取られちゃうよ!」

「そ、そうだね。アンディと一緒にいられる時間は減らしたくないし。じゃあアンディ全部食べていいよ!」

「あ、アリガトウ」


 解毒を使っている今のうちに全部食べておかないと。

 僕は一生懸命パープルシチューを食べ、ようやく食べきった。


「また今度アンディのために料理してあげるね!」

「今度は僕がつくるよ!お姉ちゃんの料理を食べたくなったら僕から言うからさ!」

「そう?わかった!」


 これ以上僕に拷問をさせないでほしいよ……。

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