第53話

「いやー、久しぶりに見たけど、ここも変わっていないねー」


 俺たちは人ごみをかき分けるようにして冒険所へと向かった。

 噂は早く、行く先行く先でスロウを待っている人がたくさんいた。

 現に今も冒険所の前には人だかりができている。


 これだけずっと人がいるせいで進みにくく、危ないからファラとメルは先に休んでもらうために家へと帰ってもらった。

 俺は報告をするためにスロウと一緒に冒険所へ向かたが、「手を出さないように」と2人に注意されたのが少し気になったんですけど。


「早く終わらせようか。スロウも早く終わらせて休みたいだろう?」

「うーん、別に休まなくてもいいかなあ。止まっているよりほら、強いとずっと同じ場所にいてもつまらないでしょう?」

「分からなくはないが、休むことは大切だと思うよ。居場所をつくるのもいいと思うし」

「君たちはここを拠点にしているんだっけ?」

「そうだよ。わざわざここにしなくてもいいと思うけど」

「うーん…それなら候補があるからそこにしようかな」


 どこか気になって聞こうと思ったが、スロウは先に冒険所の中へと入っていった。

 まあ終わってから聞けばいいだろう。


「次の方どうぞ――ってスロウ様!?」

「久しぶりだね。奥に誰かいるかな?」

「は、はい!こちらへどうぞ!ディラ様もご一緒にどうぞ」


 言伝でもしていたのかな?

 すんなりとまた奥の部屋へと案内された。


「失礼す――」

「このサボり魔ああああ!!」

「ぐふっ!」


 中から勢いよくサリーさんが登場し、スロウはカウンターを通り越してテーブルがあるところまで吹っ飛んでいった。

 ただでさえ勢いよく出てきたのに、しっかりとキックを決めている。

 しかもみぞおち、見ているこっちも痛いよ。


「ひ…久しぶりだね、サリー」

「久しぶりじゃないわよ!あんたがいないせいで仕事が全部こっちに回って来たんだから!!」

「ご…ごめんよ。でも今度からみぞおちはやめてくれ……」


 あのみんなのアイドルレベルのスロウは地面で悶えながらも、立ち上がろうと頑張っていた。

 そんなに無茶しなくてもいいのに……。

 サリーさんの気持ちもわかるけど、手加減してあげなよ。

 周りの人達はいきなり人が吹っ飛んできてドン引きしているぞ。


「ったく、もう」

「あ、俺が運ぶよ」


 立ち上がろうとしていたスロウの足を持つとそのまま引きずっていこうとしていた。

 流石にそれは見ていられなかったため、俺が運ぶと名乗り出た。

 ステータスが高いだけあって軽々と運べたのが幸いだ。


 それにしてもサリーさんってこういう人だったんだね。

 仲がいい人にしか見せない性格なのかな。


「そいつはそこにおいといていいよ」

「あ、はい」

「大丈夫だよ。サリーは僕に対してしかあんな思いっきり蹴ったりはしないから」

「そうよ。スロウは私のとっておきのサンドバッグなのだからね」


 もはや人として見ていない発言が出てきてしまった。


「それじゃあまずは依頼の品を出してもらえるかしら?」

「はいよ。ついでにその花について書き記した本があるんだが……」


 スロウは俺のほうを向いた。

 ああ、ファラが見つけ出したことも書いたから渡していいのか迷っているのか。


「ファラもオーケーと言うと思うよ。何回も採りに行くわけでもないし」

「ありがとう。じゃあこれも一緒に」

「…ふむふむ、条件が分かればSレベルに下げてもいいかもしれないわね。検討するわ」


 少し本を読んだがすぐには答えを出さなかった。

 ゲームと違って危険があるならしっかりと検討しないといけないだろうけど、だいぶ難易度は下がったからSレベルに下がりそうだな。


「あとはディラくん、こいつを連れ戻してきてくれてありがとうね。まさか数日で戻ってくるとは思わなかったよ」

「俺のおかげ、というよりファラのおかげなので」

「そう言えばファラちゃんとメルちゃんがいないけど、大丈夫かな?」

「ここに来るまでに人だかりがあったので。俺が報告しに行くから先に休んでもらいました」

「そういうことね、分かったわ。じゃあ今度会ったらお礼を言っておくね」


 たぶん俺1人でスロウを助けに行ったらもっと時間がかかっていただろう。

 今回のMVPはファラで間違いないな。


「さて、スロウ。今後はしっかりと働いてもらうからね」

「その件だけど、まだデサローダって担当はいないよね?」

「いないけど、なんで?」

「そこを僕の拠点にしようかと思ってね。そこら辺一帯は僕が受け付けるよ」

「なんでわざわざあんなところを……。まさか!」

「そろそろ始まるからね。これを気に拠点をつくるよ」


 俺だけ話について行けなんですが。

 一体どういう事?


「デサローダ?それにそろそろ始まる?」

「デサローダはロールの近くにある町よ。そこには大きな闘技場があるの」

「それで、もうすぐその町で戦闘祭というのが始まるんだ」

「言葉通り、戦闘で競い合うお祭りよ」


 コロシアムみたいなものだろう。

 こっちの世界にもそういう文化があったんだな。


「よかったらディラくんたちも行ってみたら?」

「闘技場かぁ……」


 強い奴がいたらぜひ行ってみたいけど、はたしているのだろうか。


「ちなみに特Sレベルの依頼って他にある?」

「あるけど、たまには休んだらどうかな?連続して受けていたんでしょう?」

「確かにそうだなぁ。それなら息抜きで行ってみようかな」

「それじゃあスロウこいつを案内役にさせるから楽しんできてね」


 こうしてまた次の行くところが決まっていく。

 素直に数日間は家で過ごせばよかった、なんて後から思っても遅いよなあ。

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