初めての仲間達

「さて、二人とも、今後どうしたいかということも決めたし、住居の方に移ろうか。その気がないならせめてここで一泊して、明日の朝ご飯食べてもらってお見送りするつもりだったが、そういうことならここで生活するということだからな。お客さんから家族になったということじゃ。案内しよう」


 ライオーは客間を出て屋敷のさらに奥に進む。

 派手な屋敷の外観に比べ、進む廊下の壁や天井の色彩は地味な色合い。

 しかしその壁にはいろんな絵画が所々に飾られ、花瓶に活けられた花が置かれている。

 床に敷かれた絨毯は、履物越しでもふかふかな感触は伝わってくる。


「……お金持ち、の家……」


 物珍しそうにあちらこちらを見回しながら歩くミイワが、ぼそりと思わずつぶやいた。


「ふふ。これも子供らのためさ」


「みんなもこれくらい金持ちになれって教えてんのか?」


 子供らしい率直なミイワの発想である。


「はは。強くなったって金持ちになるとは限らんよ。たとえば絨毯。長く歩いても疲れないだろう?」


 言われてみればと気付くジーゴ。

 いろんな人が何度も往復していそうな廊下なのに、踏まれることにより劣化しているような感じはまったくしない。


「……見込みのある子供達がたくさん集まれば集まるほど、使う部屋の数も増えていく。部屋からみんなが集まる部屋、食堂。風呂場、皆で使う部屋までの距離が長くなる」


 余計なことに無駄な体力を使わず、余計な疲労感を溜めないための工夫の一つ。

 そのことでそれだけ対局に集中できる体調にしやすくなる。


「絵とか花は?」


「絵は風景の物が多いだろう? 想像で描かれたものじゃなく、実際の風景を描いたものだ。二人とも、こんな風景は見たことないだろう? いや、そんな余裕のない生活をしてきたはずだ。現実にあるいろんな物を見てもらいたい。自分の世界を広げてもらいたいからさ」


「花はどうなのさ?」


「みんな今まで自分が生きることで精いっぱい。誰かを気に掛ける気持ちの余裕だってなかったはずだ。花瓶の花はみんなで世話しているのさ。花瓶を洗って水を取り替えて、花が枯れてきたら綺麗な花と取り換えて……」


「……強くなれなかったらポイって感じだな」


 ここに住ませてもらうことが決まり、願い通りになったことは違いないだろう。

 しかしその現実味がないのか、落ち着かない胸の内をこぼすミイワ。


「それはひねくれ過ぎじゃな。ワシはこれでも人を見る目はあるつもりじゃ。それにもしなかったとしても、他の方法で生きるための知恵を身に付けるくらいの世話はしてやれるよ」


 心配無用。その質問には答える価値もない。

 そんなふうにライオーはミイワの方を向かずに答える。


「それに、どのみち本人にその気があるかどうかって話じゃからな。出来るかどうかは分からん。そんな風に先が分からんことがあれば不安じゃろ。だが自分にその道を進む気持ちがまずあるか。そしてその思いは強いかどうか。……ワシが連れてくる子供らは、お前さんたち二人も含めてある意味強い」


「どうしてそんなこと言えるのさ」


「生きていくためには、食う物、着る物、住む所、これが必要だ。この三つもしくはどれかを二人は必死に求めとる。死に物狂いで何かに打ち込む者は、ほんの少し気持ちに余裕が生まれると強くなれるもんさ」


 もちろんどんな技術でも、短期間で優れた技術を身に付ける方法はいろいろあるし、どのやり方が性に合うのかというのも様々。

 しかし何もかも切羽詰まった環境では、生きるための手段すら見つけられないこともある。

 五が強くなる見込みのある者には声をかけ、上達が止まってしまった者にはこれも縁ということで別の生きる道を一緒に模索するつもりであった。


 廊下の途中にある階段を上がって二階へ。

 その廊下の突き当りの部屋に到着した三人。

 ライオーはその扉を開け、二人をその部屋に入れた。


「お、お帰り爺さん」


「今日は二人も連れてきたんだ」


「ということは、これからは……」


 部屋の中にいたのは、みなミイワより年上の、九人の子供達。

 子供達とは言っても、幼さがどこにもない未成年のような年代もいる。

 種族もまちまち。しかし一見して何の種族か分からない者もいる。


「あぁ、みんな、ただいま。紹介しよう。エルフ族のジーゴ=トーリュとドワーフ族のミイワ=ナルファだ。仲良くしてやってくれ。二人とも、この子達がさっき話した将来碁の世界を背負う……かもしれん九人だ」


 ジーゴはミイワと共に、十八の目から注目を浴びた。

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