永遠の出会い

暗黒星雲

第1話 夜の繁華街

 日が暮れて夜が更ける。


 そうすると活気づいてくる場所がある。

 ある程度の規模の都市ならどこにでもある繁華街。そして色街。


 俺は士官学校の友人とその色街を歩いていた。


「なあハーゲン。何処に入ろうか」


 そう言ってニヤニヤ笑っているのはレイダー・グラブロ。犬型の獣人で身長は2メートル以上ある。いかつい体に黒と茶、ツートンカラーの毛並みはシェパードを思わせる。本来は精悍な顔つきなのだが、今は色香に酔って緩みまくっている。


「中に入る気はない」

「つれない事言うなよ。ハーゲン・クロイツ様。ラメルの貴族様ならここの支払い何とでもなるだろ?」

「何とでもなるものか。家にバレたら勘当ものだ」

「そこは狡猾な狐様。どうにかできるんじゃないの?」

「出来ない。というかやらない。お前の道楽に才能はつかわんさ」

「ケチだな」


 ドンと肩で俺を突き飛ばす。俺より一回り大きいレイの軽いタックルだが俺はよろけてしまった。よろけた俺は一人の女性にぶつかってまった。そして彼女はバランスを崩し、膝をついてしまった。


「大丈夫ですか。お怪我はありませんか」


 俺の差し出す右手を掴みすっと立ち上がる女性。フード付きのマントを羽織っていて顔はよく見えないのだが、その豊かな胸元は隠せない。


「大丈夫です、狐の人。私は所用がありますのでこれで失礼します」


 そう言って颯爽とこの場を後にする。その気品のある歩き方はとてもこの色町にはそぐわないものだった。

 レイは三人の娼婦らしき女性に絡まれていた。頬にキスされ腕に胸を押し付けられ散々に翻弄されている。


「たくましいお兄さん。うちの店に来ない? たっぷりとサービスしちゃうわよ」

「ねえねえ。楽しい夜を過ごしましょ。行こうよ」

「そっちの狐のお兄さんも一緒にね。ね、行きましょ」


 完全に篭絡されているレイは舌をだらしなく垂らしてハアハアと息を荒立てている。


「ぼったくられるぞ」


 俺はレイの腕を掴み走り出した。先ほどの、高貴な雰囲気の女性が気になったからだ。あの気品あふれる女性は何者なのか。そして、こんな場所へ何をしに来ているのか。何かトラブルに巻き込まれたりしていないのか。


「おいおい。どうしたんだハーゲン。急に走り出すなんて」

「さっきの女性だ。あれは貴族だ。こんな場所に一人で来るなんて不自然すぎる」

「お。王子様がお姫様を救うってシチュエーションか?」

「知るか」


 レイもその気になったようで本気で走り出す。ほどなく先ほどの女性に追いつくものの、彼女はうす暗い路地へと入っていった。


 そして、彼女を追い路地に入っていく獣人が数名。


「あれ。あの人、襲われるんじゃね?」

「静かにしろ」


 俺達も路地へ入り物陰に隠れながら様子をうかがう。彼女は6人に囲まれていた。人間は一人。猿人が三人、犬型とウサギ型の獣人が一人ずつだった。


「お嬢ちゃん。こんな所に何しに来たの?」

「俺達と遊んでくれるのかい?」


 その中に一人だけいた人間の男が彼女のフードを取り去った。

 こちらから顔は見えないのだが、銀色の長い髪で黒っぽいエプロンドレスをまとった女性の姿が露になった。


「うひゃー。こりゃ別嬪さんだ」

「大きいおっぱいがサイコーだね。へへへへ」

「ベッドで一晩中可愛がってやる」


 男たちに取り囲まれているのに全く動じない女性。飛び掛かろうとする獣人たちを手で制したのは人間の男だった。そいつがリーダーのようだ。


「俺が最初だ。指一本触れるな」


 リーダーの一言に獣人たちは引き下がる。


「なあ、お嬢さん。大人しく付いて来りゃあたっぷりと可愛がってやる。ここで獣にレイプされるか、俺と熱い夜を過ごすか選べ」


 俺はそれでも動揺しないその女性が気に入った。そこに立てかけてあったモップを掴みその輪の中へ飛び込んだ。


「面白そうだ。俺も混ぜろ」


 レイは素手で殴りこむ。


 不意を突いたというのもあるが、夜のチンピラを叩きのめすのは容易い。大柄な猿人三人をレイがぶっ飛ばし、俺はモップで犬と兎を叩きのめす。

 ほんの数秒で5人の獣人を倒した俺達に、人間の男は目を丸くして驚愕していた。


「サル助三人を一瞬で倒しただと……この化け物が」

「何とでも言え。誰か助けに来ないのか。こんなヤワな連中じゃ退屈で仕方がない」

「俺を誰だと思っている。この界隈の王、シビアスの息子お」


 セリフの途中だったがレイの右フックでその男は昏倒した。


「馬鹿が。親の七光りで威張るんじゃねえよ」


 決め台詞をレイに取られてしまった。俺は彼女の方へ向きその手を取った。


「お怪我はありませんか。お嬢さん。私はハーゲン・クロイツと申します」

「ありがとうハーゲン。私はテラと申します 」


 俺はその銀色の瞳に吸い込まれていた。一瞬で心を奪われていた。


 これが俺と彼女の始まりだ。

 ここから、彼女との短くて永遠の恋が始まった。

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