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卑屈な人
スロットNO.1
集団は苦手だった。ひとりっ子で、小学生の頃は家でゲームをしていたか塾で勉強していた様な俺にとっては、周りに溶け込んで冗談を言い合い常に一緒にいるグループに入り込み彼らのように振る舞うことは簡単ではなかった。今でこそ昔よりかは幾分マシになったが、それでも人前に立つと緊張する癖は治せていない。
3月14日、今日は4年間通った大学を卒業する日だ。とはいっても学科の友人と顔を合わせるようなことはないだろう。4年前の春、俺は大学の軽音サークルに入った。音感は決していいとは言えないが、バンドというものに対する憧れはずっと抱いていた。ステージの上に立つことで自分じゃない何かになれた気がした。
サークルは楽しかった。友人もたくさんできた。少なくても俺自身はそう思っている。いや、そう思いたいだけかもしれない。
「お前やっぱ流石だわ。面白いもん。」
そう言ってくれた友達は少なくない。
ただそれが笑わせているのか、笑われているのか、俺は結局分からなかった。
名前の後ろに(笑)がつくような、どこか嘲笑されているような感覚がずっとこびりついたまま、それを払拭できずに今日を迎えてしまったことが俺の学生時代の心残りでもあった。
もしやり直せるなら、俺はこの劣等感を払拭できるんだろうか。
卒業式も無事に終わり、サークルの送別会を終え帰路につく頃には、楽しかった記憶よりも後ろ向きな感情がすっかり頭を支配してしまっていた。
きっと俺はプライドが高い、それも物凄く。
帰り着くと寝支度も早々にベッドに倒れ込んだ。理想の自分になんかなれないならせめて眠っている間だけでも救われたい。瞼が重くなる。腐り切った思考を断ち切るように意識が遠のいていった。
目が覚めるとすっかり朝になっていた、目覚めてすぐにスマホの画面を見てしまうのは悪しき習慣と思いつつもやめられそうにない。
辺りを見渡すやいなや、愕然とした。
家具がない、楽器も、服も。
物が散乱しているはずの俺の家はまるで入居したての様な状態に様変わりしていた。
タチの悪いイタズラには何度もあってきたが、ここまで手の込んだものは初めてだ、訳が分からない。
このパニックに拍車をかけるように携帯のアラームが鳴り響いた。こんな時間にアラームなんか設定した記憶はない。携帯を手に取りアラームを消す。ふと時計を確認すると、そこには有り得ない日付が並んでいた。
2012 4月1日
意味が分からなかった。
大学の入学式に逆戻りでもしたというのか。
窓から外を覗くと、新入生と思えるようなスーツを着たまだあどけない若者が大勢歩いていた。
理解などできるはずもなかったが、俺は不思議とこの時、今日が2012年4月1日であることを確信していた。
そして同時に昨夜に思い描いた下らない妄想を現実に出来る可能性を感じ始めていた。
いつもいじられキャラで、俺というだけで見下すような奴ら。そんな奴らを見返すチャンスなんじゃないか?
今までの「俺」という人間を、1から作り直せるんじゃないか?
恐怖は消えていた。
身支度を済ませ、颯爽と外に飛び出した。
集団は苦手だった。でも今は、彼らに会うのが楽しみで仕方なかった。
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