第2話僕オリジン

数ヶ月前


高校の下校のチャイムが鳴る。

僕は学校指定のバッグをリュックを背負って

駄弁る生徒達を置いて一目散に外に駆け出す。


当たり前だ。だって今日は

「オーガマンの新刊発売日なんだからさっ!」


オーガマン(OGREMAN)は

ヒーロー漫画なのだが

「オーガ」というだけあって

16歳の少年が悪い科学者に怪物の血を注入され暴力的になりながらも不殺を誓い

ヒーロー活動をする事で自分の心の怪物と苦しみながら戦うシリアスさとバイオレンスさが売りのダークヒーローファンタジー漫画だ。


本屋に駆け込みオーガマンの新刊を

抱きしめレジに並ぶ。

最速で読みたいなら電子書籍があるし

電子でも買うんだけど

やっぱり本媒体で購入する瞬間が好きだ。

なんというか、コレクション的な感覚だろうか。いや、好きなものは電子媒体も買ってしまうから結局はどっちも好きなんだろう。


帰るまでにチラチラと本が入った

袋を見てしまう。ここで開けちゃダメだ

我慢我慢と思いながらも顔はニヤつく。


家に帰ると転がるように自室に入り

バッグを置いて袋をペリペリとめくり

漫画を開き

いざ!オーガマンの世界へ!!


すると本から突如眩しい光が放たれた。







え…?



僕は気がつけば

夜の暗い石畳の路地裏に居た。


「あれ!?オーガマンは!?」

と顔をあげてあたりを見回すが

どこにも本が落ちていない。

まだ読んでないのに!と落ち込みながら

数秒床を眺めていると

ここが家の中ではない事に気づく。


そしてとてつもなく鉄っぽいいうか、生臭いというか腐臭がする。漫画なら好きな表現なんだけどリアルだと勘弁してほしいところだ。

立ち上がろうとして床に手をつく。

ぐちょりと嫌な音がした。

そのあまりの不快さに手を咄嗟に払ってしまい ゆっくり何に触れたかを確認すると

冷や汗が溢れ鼓動の音がどくどくと早くなった。





「…血…!?」


振り向くと川の流れのように

血が路地裏の更に小道を抜けたところの

ゴミ箱まで続いている。


あそこは行き止まりだと何となくわかってしまうが何故かはわからない。


あたりを再度見回す。誰もいない。

ゆっくりゴミ箱の方に近づく。


大きなゴミ箱だ、人が入れるくらいの。


この時は異常事態で動転していたのか

好奇心だったのかはわからないけど

僕はゴミ箱の蓋を開けた。


そして見てしまったのだ。





自分と同じ顔をした死体を



「……!!!!」

自然と声は出なかった。そのかわり

自分の心臓の音がうるさいと思ってしまう

ほど震えていた。

死体は銃で頭をぶち抜かれていて

それを数秒見つめながら


ようやく現実に感情がついてきて

足がすくみ 蓋をしめて

その衝撃でへたりこんだ。


床を這うようにここから逃げないとと

小道を抜けて路地裏の通りに出るが

目の前に大きな影が落ち

首を絞められるように持ち上げられる。



「っ、かはッ…!!」


「観念しろジャック。刑務所に戻れ」


低い声で僕を担ぎあげ月明かりに

照らされて見える鬼のツノ

何百回も見たこの言葉、間違いない


(オーガマン……?)


何故この街がなんとなくわかる理由が

わかった。何百回も読んで見ていたからだ。


大好きなヒーローに、大好きな街で

僕は首を絞められていのだ。


(でもジャックってオーガマンの宿敵の切り裂き男だよね!?僕と全然違うじゃん!)


「ひ、人違いですよ」と

精一杯もがいて伝えるが

「服だけそんな変な服を着ても無駄だ」

と強い眼光で睨んでくる。


どうやらこの世界のジャックは

僕と同じ顔らしい。


ということはつまり…えっ…!?



まさか…あの死体はっ…!!



「あのっ、オーガマンさん!」

「オーガマンさん?」

オーガマンはさん付けされた事に

驚ききょとんとした表情を見せる。


こういう16歳っぽい表情する時

いいよね!学生ダークヒーローって感じが!

とレアな表情を見れた事にテンションをあげてしまうが 本題に入らねばいけない。



「あのー…」

「ボスちゃんから手を離せツノツノーッ!」


口を開くと同時に爆音と可愛い声が聞こえ


片目隠れのセミロングメイド服の女性が

大型バイクに乗って突っ込んでくる。


オーガマンをはねる瞬間

手から解放され僕は尻餅をつく。


僕をボスちゃんと呼び片目隠れメイドと言えば彼女しかいない。


ジャックを一途に愛するガールフレンド件

奴隷メイドヴィラン

クイーンバレルちゃんだ。


ジャックはクイーンバレルちゃんを愛してるのか正直わからない。

僕なら好きになってしまうような

一途で可愛いくて時折健康的な妖艶さがある。


「ボスちゃん!逃げますよ!」

と説明をする前にバイクの後ろに

乗せてもらう。

「しっかり掴まってねえ!ヒャッホーッ!」

と街中を爆速するクイーンバレルちゃん。

ヒーローであるオーガマンがシリアスな分

ヴィランは明るいのがオーガマンの面白いとこだ。


僕は振り落とされないように

しっかりとクイーンバレルちゃんの腰を抱きしめると

「ボスちゃん?」と不思議な顔をされる。



しまった!ジャックはクイーンバレルちゃんとバイクに乗る時は腰ではなく胸を抱きしめるという設定があったのだ!


少しの沈黙の後

今は仕方ない。生きる為だからな!と

自分に言い聞かせ胸に手を回す


もにりと弾力を感じる。

や、柔らかい、そして、いい香りがするッ…!

クイーンバレルちゃんは

「ボスちゃんが触ってくれたから

もっとトばせます!」と

ぐんぐん速度をあげていく。


僕はクイーンバレルちゃんの胸があれば

きっとエアバッグはいらないな…

と思いながら夜の街を後にした。




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