ちょっと待ってよ、焼崎さん

砂上翔介

第1話 焼崎さんと僕

 「ちょっと、焼崎さん。また僕の弁当食べただろ!」

 4時間目の授業が終わり、昼休みに突入した最中のこと。僕がお腹の音をみっともなく鳴らす中、弁当箱の蓋を開けた瞬間目にした光景は、無残にも食べ散らかされた茶色いお総菜さん達の残骸だった。犯人については検討は付いている。というかこんなことをしでかしちゃう困った人は僕の知る限り一人しかいないのだ。

 僕は、目の前の席で胡坐をかいて椅子に座るなんとも行儀の悪い女生徒に、一指し指を突きつけ、少し憤慨して見せた。すると彼女は僕の顔を一瞥するなりケロッと口調で淡々と反論した。

 「なんだいアッシー君。たかが唐揚げとコロッケを食われた程度で憤慨してしまうとは。それじゃ大きな人間になれないよ――色んな意味で」

 「――くっ、僕が気にしていることを。ひどいよ焼崎さん」

 僕の項垂れた顔を見つめながら、意地悪そうにくっくと笑う少女――焼崎さんは本当に困った人だ。薄い茶色のロングボブと似た色をした大きな瞳。身長は僕より少し高いのがまたはらただしいところだ。誰から見ても美少女といって差し支えないんだけど……ほんと性格で損していると思う。まぁこれは僕だけかもしれないけど。あーあ、ほんと黙ってればこんなにも――

 「うーん?どうしたんだいアッシー君。黙りこくっちゃってさ。そんなに気にしてたのかな?心配するな。私はどんなキミでも別に嫌いにはならんよ?」

 「――喋らなかったらめちゃくちゃ可愛いのになー……ってあれ?僕今なんて?」

 「――っっ!?と、突然何言いだすんだキミは!全く、時と場所を考えたまえ。こんな人が多いところで……は、恥ずかしいだろう……が」

 「でも、焼崎さんが可愛いのは本当の事だしなぁ。――にしても焼崎さん顔真っ赤だけど、どうしたの?まさか焼崎さんともあろうお方が照れちゃってたりしないよねー?」

 「くぅっ!……ちょ、ちょっとお腹が空いたから購買に行ってくる。べ、別に恥ずかしさのあまりキミの顔を凝視できないとかではないからな!勘違いしないように!……まぁでもうん、好きだ」

 そう早口で焼崎さんが告げると、彼女は疾風の如く教室を飛び出していった。ちょっと反撃しすぎたかなー。ほんと、いざ自分が責められると弱いんだよなぁ焼崎さん。――にしても最後の方なんて言ってたんだろ?まぁなんか捨て台詞だろうけど。ま、そういうとこも含めて可愛いんだけど。

 僕は思い出す。彼女に初めて出会った日のことを。

――破天荒な彼女『焼崎 千代梨』に出会った日の事を僕は決して忘れることはないだろう。

――後、焼崎さんに弁当勝手に食べられたことも。あーお腹空いた。

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ちょっと待ってよ、焼崎さん 砂上翔介 @asueno-tubasa

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