記録2

 全ての授業が終わり、家路についている。

 下校も終盤に差し掛かり、あと数分で我が家という所まで来た。 前回の記録の後に二度の抜き打ちテストに見舞われ、正直クタクタである。数学と歴史。どちらも散々だった。


 数学は、算数の頃から仲良くなれる気がしなかった。根本的に分かり合えない。生理的に無理。そんな感じだ。歴史は、西洋史だけは好きでその部分に関しては一度聞けば忘れない自信があった。 ただ東洋史だけは全く頭に入っていかなかった。 今回のテストは中国に関するものだった。


 もし仮にテストの答案用紙がその名の通り紙でできていたならば、クシャクシャに丸めて窓から投げ捨てていたと思う。だが、それは無理な話だ。 あの答案用紙には実体はなく、映し出されているだけ。掴もうとしても空を握りしめることしかできない。指定されたIDの電子ペンでしか記述できないし、記述内容は常に担当教諭に監視されているから落書きで現実から逃れることもできない。

 

 私にできることといえば、回答か無回答の二択である。


 そして私がしたことは後者である。

 というか、単にわからなかった。


 テストの答案用紙の拡張ドキュメント化を企てた人間は、非常に有能な人間なのだろう。有能な 人間とは時に冷酷な一面を見せる。 否応無しにその問題と向き合う事を強いるこの仕組みは強き者の思考だ。


 少し前までは拡張現実感という呼び名で一括りにされていた様々な情報群は、普及と共に細分化され、紙媒体の多くが拡張ドキュメントという擬似用紙化された。ドキュメントと言えばもっぱらこの事をさすと思って間違いない。全世界の学生を苦しめるテストの答案用紙も御多分に洩れず ドキュメント化されている。


 これが現代のスタンダード。


 昔の歌謡曲で、答案用紙で紙飛行機を作って飛ばすというような内容の歌を聞いたことがある。なかなか素敵な現実逃避方法だと思う。現代ではその方法が取れないのことが残念でならない。突きつけられた現実からどうやって逃れればいいというのか。


 家に着いた。

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